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「……いやいやいや! だってリアーヌ嬢、ずっと街には出てたんだろ⁉︎」
「……はい。 バイトとお手伝いの日々でした」
「ーーよく働くいい子だねー……?」
思っていたよりもハードなリアーヌの日常に、ゼクスは言おうとしていた言葉を飲み込んで、リアーヌの当時の頑張りを褒め称えた。
「ーーけどボスハウト家に入られたら暮らしは好転したわけだろう……?」
「確かに自由になる時間は増えたんですけど……なにぶんお屋敷の中で暮らしてたので同年代と言えるのはザームのみでした……ーーちなみにたまに庭師見習いのお兄さんが遊んでくれたんですけど……友達のくくりに入りますかね?」
「ーー個人的な意見だけど……入らないかも……?」
「となると、やっぱり私の友達ってビアンカだけってことになりますね」
「なっちゃうのかぁ……」
笑いを堪えているような、眉を顰めるのを我慢しているような、なんとも言えない顔つきでそう言うと、ガシガシと首や後頭部辺りを乱暴に掻きむしるゼクス。
なにやら小声でブツブツと呟いていた。
「マジかよ……オレ結構本気で気にしてて……こんなあっけらかんと……」
そんなゼクスを見つめながら、リアーヌはふと、さらに恐ろしい事実に辿り着いてしまった。
「ーーゼクス様どうしましょう……?」
「……どうしたの?」
「さらに重大な事実が判明してしまいました」
「さらに⁉︎」
「ーーまだ学校に通っていないザームは友達ゼロです……」
「ーーわぁーお……」
あんぐりと口を開けながら、かろうじての相槌を打つゼクス。
「……あの子にもちゃんと友達が作れるでしょうか……?」
しょんぼり……と眉と肩を大きく下げながら不安げに紡がれたその言葉に、ゼクスは(弟思いなのだな……)と、ほんわかすると同時に、今まで友達がゼロだった姉が、たった一人友達を得たことにより、いまだにゼロの弟を心配している、という目の前の状況がなんとも滑稽に思えてきてしまった。
リアーヌは本気で弟を心配しているのだから、ここで笑うなど不適切だと理解はしている。
してはいたが、そう思い笑いを堪えようとすればするほど腹の奥から堪えきれない笑いが迫り上がって来ていた。
「あー、ふっ……んんっ! きっと出来るさ! ふふふ……んんんっ」
本人は真面目な顔を取り繕っているつもりでいるようだが、明らかに笑い混じりの言葉にリアーヌの眉がクイっと跳ね上がる。
そしてジトッとした湿っぽい眼差しをゼクスに向け、不満そうに唇を突き出す。
「……わりと笑い話じゃないんですけど……」
ボソリ……とそう言われて、その時のリアーヌの少々残念な顔つきにとどめを刺されたゼクスは、お腹を抱えて笑い出した。
言外に「笑うな」と言ったつもりのリアーヌだったが、その言葉がトリガーになって大笑いを始めたゼクスに目を見開いて驚いていた。
しかし時間が経つにつれ、その目は再び湿り気を帯びて唇も再び尖り始めたのだった。
「……はい。 バイトとお手伝いの日々でした」
「ーーよく働くいい子だねー……?」
思っていたよりもハードなリアーヌの日常に、ゼクスは言おうとしていた言葉を飲み込んで、リアーヌの当時の頑張りを褒め称えた。
「ーーけどボスハウト家に入られたら暮らしは好転したわけだろう……?」
「確かに自由になる時間は増えたんですけど……なにぶんお屋敷の中で暮らしてたので同年代と言えるのはザームのみでした……ーーちなみにたまに庭師見習いのお兄さんが遊んでくれたんですけど……友達のくくりに入りますかね?」
「ーー個人的な意見だけど……入らないかも……?」
「となると、やっぱり私の友達ってビアンカだけってことになりますね」
「なっちゃうのかぁ……」
笑いを堪えているような、眉を顰めるのを我慢しているような、なんとも言えない顔つきでそう言うと、ガシガシと首や後頭部辺りを乱暴に掻きむしるゼクス。
なにやら小声でブツブツと呟いていた。
「マジかよ……オレ結構本気で気にしてて……こんなあっけらかんと……」
そんなゼクスを見つめながら、リアーヌはふと、さらに恐ろしい事実に辿り着いてしまった。
「ーーゼクス様どうしましょう……?」
「……どうしたの?」
「さらに重大な事実が判明してしまいました」
「さらに⁉︎」
「ーーまだ学校に通っていないザームは友達ゼロです……」
「ーーわぁーお……」
あんぐりと口を開けながら、かろうじての相槌を打つゼクス。
「……あの子にもちゃんと友達が作れるでしょうか……?」
しょんぼり……と眉と肩を大きく下げながら不安げに紡がれたその言葉に、ゼクスは(弟思いなのだな……)と、ほんわかすると同時に、今まで友達がゼロだった姉が、たった一人友達を得たことにより、いまだにゼロの弟を心配している、という目の前の状況がなんとも滑稽に思えてきてしまった。
リアーヌは本気で弟を心配しているのだから、ここで笑うなど不適切だと理解はしている。
してはいたが、そう思い笑いを堪えようとすればするほど腹の奥から堪えきれない笑いが迫り上がって来ていた。
「あー、ふっ……んんっ! きっと出来るさ! ふふふ……んんんっ」
本人は真面目な顔を取り繕っているつもりでいるようだが、明らかに笑い混じりの言葉にリアーヌの眉がクイっと跳ね上がる。
そしてジトッとした湿っぽい眼差しをゼクスに向け、不満そうに唇を突き出す。
「……わりと笑い話じゃないんですけど……」
ボソリ……とそう言われて、その時のリアーヌの少々残念な顔つきにとどめを刺されたゼクスは、お腹を抱えて笑い出した。
言外に「笑うな」と言ったつもりのリアーヌだったが、その言葉がトリガーになって大笑いを始めたゼクスに目を見開いて驚いていた。
しかし時間が経つにつれ、その目は再び湿り気を帯びて唇も再び尖り始めたのだった。
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