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「うん、止めようか。 本当にまずいから……!」
「え、あの……感謝の気持ちを……」

ゼクスは少々強引にリアーヌの身体を真っ直ぐに立たせると、まだ何かを言いかけているリアーヌの両肩に手を置いて、真剣な口調で話しかけた。

「貴族になったとはいえ、俺は男爵で君はボスハウト子爵家のお嬢様なんだ。 そのお嬢様に頭を下げさせていたなんて噂が出回るのは俺が困る。 ……貴族ほど身分にこだわる生き物は居ないだろ?」
「……でもゼクス様は正真正銘男爵で、私はただの子爵家令嬢ですよ?」
「貴族の家族はそれと同等に扱われるべきーーそういうことかな? 子爵や男爵だけに気を遣っていたら、奥方が軽んざれても文句も言えなくなってしまうよ?」

 ゼクスは大袈裟に肩をすくめながら困ったように言った。

「あー……それはダメですね?」
「だろ? だからリアーヌ嬢も軽率に頭とか下げるとか無しだよ」
「はい……」

 シュン……と肩を下げてしまったリアーヌに、クスリと笑ったゼクスは再びデートの話を持ち出した。

「ーーリアーヌ嬢はどこか行ってみたい店ある?」
「お店ですか……」

(ーーあっそういえば、新しく出来たお店で人気が出そうなトコがあるってビアンカが教えてくれて……あったかいチョコレートのスイーツとか絶対美味しいよ! ーー今度一緒に食べに行こうって約束ててーーゼクスの奢りで行けてしまうのでは⁉︎)

「あ、あのビアンカも誘っていいですか⁉︎」
「ーー……リアーヌ嬢、デートの意味知ってる?」
「ーーぁっ……」

(そうだった……これデートのお誘いだった……ーー奢りって事実に目が眩んでしまったぜ……)

 キュッと唇を引き結びながら、ツーッとゆっくり視線を逸らすリアーヌ。
 そんな程度で誤魔化されるようなゼクスではなかったのだが、円満な放課後デートのため、それ以上の追求はしたいようだったーー



 洋菓子店、ランボワ店内。

 入店当初は緊張からかギクシャクとしていたリアーヌだったが、注文したスイーツが届いてからは、終始笑顔で食べ終わった後も緊張感が戻ることは無いようだった。

 二人は口直しのお茶を飲みながら、当たり障りのない会話を楽しんでいく。
 その時ちょうど二人が座っている席から見える店の外の道を、五、六人の子供たちがキャッキャと楽しげな声を上げながら駆けて行くのが見えた。
(元気だなぁー)と思いながら子供たちの姿を目で追うリアーヌ。
 なんとなく見えなくなるまで見送ってから顔を前に向き直した。
 すると、目の前に座っているゼクスが、子供たちが走っていったであろう先を表情を曇らせながら見つめていた。









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