109 / 1,038
109
しおりを挟む
目の前の男はリアーヌとの婚約を打診してきていてーー……というよりも、これは娘を嫁にやるための最終的な条件の擦り合わせに他ならない。
ここで納得してしまえば、すぐさま婚約は結ばれ、リアーヌは目の前の男に嫁ぐことになる……
この婚約話を断れない以上、リアーヌには嫁ぐ以外の選択肢はないのだが……ーーそれでも平民として産まれ生き、恋愛の末にリエンヌと結ばれたサージュは、娘を娘が好いた相手の元に嫁がせてやりたかった。
(ーーこうなっちまったらもう無理だろうがなぁ……ーーそれに……)
と、サージュは自分のギフトを再び発動させながら思う。
条件を擦り合わせれば擦り合わせるほど、リアーヌの婚約話が幸運に近づいていくのだ。
初めは断った場合、とんでもないことが起こると確信するほどの不快感しか感じられなかったが、今では婚約した場合、ささやかではあるが、なにかいいことが訪れそうな、そんな小さなワクワク感を感じていた。
(子供の成長は早いっていうが……こりゃ早すぎだろうよなぁ……?)
サージュはそんなことを思いながら、深いため息を漏らすのだった。
サージュのため息の理由を的確に理解したリエンヌは、困ったように微笑みながらその腕に自分の手を重ね、慰めるようにゆっくりと撫で付ける。
サージュはそんなリエンヌと視線を絡ませ合うと、その手を取り大切そうに握りしめた。
「ーー……決まり、かしらね?」
なかなか言葉を発せない夫に変わり、リエンヌが少しだけ苦笑を含めながら言った。
「ーーああ」
サージュが短くもはっきりと返事をしたことで、ゼクスからは安堵の息が漏れ、ヴァルムからは小さなため息がこぼれ落ちた。
ーーそして、状況をよく理解していない姉弟は視線だけで会話しながら首を傾げ合うのだった。
『今のはなんて?』
『なにかが決まったとしか……』
『ええ……?』
『むしろ今の会話量でなにをどう理解しろと……』
『ーーたしかに?』
「ーーでは、認めていただける、ということでよろしいでしょうか?」
子爵夫妻のやりとりを見ていたゼクスはニンマリと笑顔を作ると、左手を胸に手を当て、右手を腰に添えて恭しくおじきをしながらたずねた。
「ーーいいや?」
そんな冗談めかしたゼクスの態度に、サージュはその顔に凶暴な笑顔を貼り付ける。
そしてピクリと肩を揺らし、笑顔を消し去った顔でこちらを伺っているゼクスに向かい、軽く身を乗り出すと、一つの言葉を投げかけた。
「ーー最後に誓え。 お前はさっき国王が相手でもリアーヌを守ると言ったーーそれを今ここでもう一度誓え」
「ーー……なる、ほど……?」
サージュの言葉に、ゼクスの頬は盛大に引き攣った。
商人として幼い頃より鍛えられていたゼクスもきちんと理解しているのだ、この場での誓いは、契約相当の扱われ方をするということを。
ここで納得してしまえば、すぐさま婚約は結ばれ、リアーヌは目の前の男に嫁ぐことになる……
この婚約話を断れない以上、リアーヌには嫁ぐ以外の選択肢はないのだが……ーーそれでも平民として産まれ生き、恋愛の末にリエンヌと結ばれたサージュは、娘を娘が好いた相手の元に嫁がせてやりたかった。
(ーーこうなっちまったらもう無理だろうがなぁ……ーーそれに……)
と、サージュは自分のギフトを再び発動させながら思う。
条件を擦り合わせれば擦り合わせるほど、リアーヌの婚約話が幸運に近づいていくのだ。
初めは断った場合、とんでもないことが起こると確信するほどの不快感しか感じられなかったが、今では婚約した場合、ささやかではあるが、なにかいいことが訪れそうな、そんな小さなワクワク感を感じていた。
(子供の成長は早いっていうが……こりゃ早すぎだろうよなぁ……?)
サージュはそんなことを思いながら、深いため息を漏らすのだった。
サージュのため息の理由を的確に理解したリエンヌは、困ったように微笑みながらその腕に自分の手を重ね、慰めるようにゆっくりと撫で付ける。
サージュはそんなリエンヌと視線を絡ませ合うと、その手を取り大切そうに握りしめた。
「ーー……決まり、かしらね?」
なかなか言葉を発せない夫に変わり、リエンヌが少しだけ苦笑を含めながら言った。
「ーーああ」
サージュが短くもはっきりと返事をしたことで、ゼクスからは安堵の息が漏れ、ヴァルムからは小さなため息がこぼれ落ちた。
ーーそして、状況をよく理解していない姉弟は視線だけで会話しながら首を傾げ合うのだった。
『今のはなんて?』
『なにかが決まったとしか……』
『ええ……?』
『むしろ今の会話量でなにをどう理解しろと……』
『ーーたしかに?』
「ーーでは、認めていただける、ということでよろしいでしょうか?」
子爵夫妻のやりとりを見ていたゼクスはニンマリと笑顔を作ると、左手を胸に手を当て、右手を腰に添えて恭しくおじきをしながらたずねた。
「ーーいいや?」
そんな冗談めかしたゼクスの態度に、サージュはその顔に凶暴な笑顔を貼り付ける。
そしてピクリと肩を揺らし、笑顔を消し去った顔でこちらを伺っているゼクスに向かい、軽く身を乗り出すと、一つの言葉を投げかけた。
「ーー最後に誓え。 お前はさっき国王が相手でもリアーヌを守ると言ったーーそれを今ここでもう一度誓え」
「ーー……なる、ほど……?」
サージュの言葉に、ゼクスの頬は盛大に引き攣った。
商人として幼い頃より鍛えられていたゼクスもきちんと理解しているのだ、この場での誓いは、契約相当の扱われ方をするということを。
20
お気に入りに追加
343
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。
可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?
【完結】悪女のなみだ
じじ
恋愛
「カリーナがまたカレンを泣かせてる」
双子の姉妹にも関わらず、私はいつも嫌われる側だった。
カレン、私の妹。
私とよく似た顔立ちなのに、彼女の目尻は優しげに下がり、微笑み一つで天使のようだともてはやされ、涙をこぼせば聖女のようだ崇められた。
一方の私は、切れ長の目でどう見ても性格がきつく見える。にこやかに笑ったつもりでも悪巧みをしていると謗られ、泣くと男を篭絡するつもりか、と非難された。
「ふふ。姉様って本当にかわいそう。気が弱いくせに、顔のせいで悪者になるんだもの。」
私が言い返せないのを知って、馬鹿にしてくる妹をどうすれば良かったのか。
「お前みたいな女が姉だなんてカレンがかわいそうだ」
罵ってくる男達にどう言えば真実が伝わったのか。
本当の自分を誰かに知ってもらおうなんて望みを捨てて、日々淡々と過ごしていた私を救ってくれたのは、あなただった。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
断罪イベント? よろしい、受けて立ちましょう!
寿司
恋愛
イリア=クリミアはある日突然前世の記憶を取り戻す。前世の自分は入江百合香(いりえ ゆりか)という日本人で、ここは乙女ゲームの世界で、私は悪役令嬢で、そしてイリア=クリミアは1/1に起きる断罪イベントで死んでしまうということを!
記憶を取り戻すのが遅かったイリアに残された時間は2週間もない。
そんなイリアが生き残るための唯一の手段は、婚約者エドワードと、妹エミリアの浮気の証拠を掴み、逆断罪イベントを起こすこと!?
ひょんなことから出会い、自分を手助けしてくれる謎の美青年ロキに振り回されたりドキドキさせられながらも死の運命を回避するため奔走する!
◆◆
第12回恋愛小説大賞にエントリーしてます。よろしくお願い致します。
◆◆
本編はざまぁ:恋愛=7:3ぐらいになっています。
エンディング後は恋愛要素を増し増しにした物語を更新していきます。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる