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 目の前の男はリアーヌとの婚約を打診してきていてーー……というよりも、これは娘を嫁にやるための最終的な条件の擦り合わせに他ならない。
 ここで納得してしまえば、すぐさま婚約は結ばれ、リアーヌは目の前の男に嫁ぐことになる……
 この婚約話を断れない以上、リアーヌには嫁ぐ以外の選択肢はないのだが……ーーそれでも平民として産まれ生き、恋愛の末にリエンヌと結ばれたサージュは、娘を娘が好いた相手の元に嫁がせてやりたかった。

(ーーこうなっちまったらもう無理だろうがなぁ……ーーそれに……)

と、サージュは自分のギフトを再び発動させながら思う。

 条件を擦り合わせれば擦り合わせるほど、リアーヌの婚約話が幸運に近づいていくのだ。
 初めは断った場合、とんでもないことが起こると確信するほどの不快感しか感じられなかったが、今では婚約した場合、ささやかではあるが、なにかいいことが訪れそうな、そんな小さなワクワク感を感じていた。

(子供の成長は早いっていうが……こりゃ早すぎだろうよなぁ……?)

 サージュはそんなことを思いながら、深いため息を漏らすのだった。

 サージュのため息の理由を的確に理解したリエンヌは、困ったように微笑みながらその腕に自分の手を重ね、慰めるようにゆっくりと撫で付ける。
 サージュはそんなリエンヌと視線を絡ませ合うと、その手を取り大切そうに握りしめた。

「ーー……決まり、かしらね?」

 なかなか言葉を発せない夫に変わり、リエンヌが少しだけ苦笑を含めながら言った。

「ーーああ」

 サージュが短くもはっきりと返事をしたことで、ゼクスからは安堵の息が漏れ、ヴァルムからは小さなため息がこぼれ落ちた。

 ーーそして、状況をよく理解していない姉弟は視線だけで会話しながら首を傾げ合うのだった。

『今のはなんて?』
『なにかが決まったとしか……』
『ええ……?』
『むしろ今の会話量でなにをどう理解しろと……』
『ーーたしかに?』



「ーーでは、認めていただける、ということでよろしいでしょうか?」

 子爵夫妻のやりとりを見ていたゼクスはニンマリと笑顔を作ると、左手を胸に手を当て、右手を腰に添えてうやうやしくおじきをしながらたずねた。

「ーーいいや?」

 そんな冗談めかしたゼクスの態度に、サージュはその顔に凶暴な笑顔を貼り付ける。
 そしてピクリと肩を揺らし、笑顔を消し去った顔でこちらを伺っているゼクスに向かい、軽く身を乗り出すと、一つの言葉を投げかけた。 

「ーー最後に誓え。 お前はさっき国王が相手でもリアーヌを守ると言ったーーそれを今ここでもう一度誓え」
「ーー……なる、ほど……?」

 サージュの言葉に、ゼクスの頬は盛大に引き攣った。

 商人として幼い頃より鍛えられていたゼクスもきちんと理解しているのだ、この場での誓いは、契約相当の扱われ方をするということを。
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