107 / 1,038
107
しおりを挟む
「ええとですね……?」
ゼクスとしても子爵夫妻が撤回させようとしている条件を飲むことは難しかった。
ラッフィナートーーゼクスとしては、リアーヌのギフトを独占すること、それこそが目的の婚姻だ。
だと言うのに、結局ボスハウト家が采配の決定権を持つと言うのは、到底飲める条件ではなかったのだ。
そんなゼクスの様子を横目で観察していたヴァルム。
ゼクスへの嫌がらせと、子爵夫妻への助言を兼ねて、自分の意見を述べるため、ニコリと穏やかな笑顔を浮かべながら口を開いた。
「お嬢様を迎えるために、男爵まで得られたラフィナート様ですから、お嬢様のため出来る限りの心使いを期待しても構わないのではないでしょうか……?」
この言葉を分かりやすく意訳するとこうなる。
『お嬢様と結婚するために叙爵までしたんだろう? ここまできて婚約話を保護にするかおつもりか⁇ ーー口約束でも構わないから、当家の事情にも配慮すると約束しろ。 そうすれば子爵に取りなしてやってもいい』
例え口約束であっても貴族同士が交わした約束はどこまでいっても有効だ。
ましてやヴァルムには嘘を見抜くギフトがある。
その能力者が同席している中での約束は、正式な契約同等と見做されることだろう。
そうなれば確実にボスハウト家に有利となるーー
ヴァルムはそう考え、なんとしてもゼクスから口約束を引き出そうとしていた。
しかし、ヴァルムの言葉にゼクスが応えるよりも早く、サージュが待ったをかけた。
「それでもダメだなぁ……」
「……あら、そうなの?」
ため息混じりにそう言うと、サージュは頭を抱え天井を見上げてしまった。
その姿を見てリエンヌは顔を曇らせる。
その姿は豪運のギフトを持っていても、貧しい暮らしから抜け出せなかった日々によく見た仕草の一つであったためだ。
サージュのギフトは、あくまでも感覚的なことしか教えてくれない。
なんだか胸騒ぎがしたり、嫌な予感を感じ続けるーーこれはダメな選択をしようとしている時に感じる感覚で、これが消えるような選択肢を選ばない限り、良くないことが起こる。
逆に心がポカポカと暖かくなったり、ワクワクと胸が高鳴る時は、その選択肢が自分にとって幸運が舞い込む選択肢だ。
ーーしかしそれを理解しているからといって、貧しい自分が嫌な予感がする程度で仕事を無断で休むわけにはいかない。 断りたくとも断れない相手からの頼まれごともあった。
そのせいで結局トラブルに巻き込まれ、いくら頑張っても日々の生活は豊かにならずーー
歯を食いしばって不運を受け入れるような生活から脱却できたのは、長女リアーヌのお陰だった。
どこでそんな知恵をつけたのか、リアーヌには商人の才能があった。
菓子が欲しかったからと、たったそれだけの理由で金をかせいで来るような子供は稀だ。
しかもリアーヌはその金を使い切らず毎回家に入れては、また再び金を稼いでくる。
それだけで家計はずいぶんと楽になったというのに、リアーヌがもたらした幸運はそれだけではなかった。
その仕事を通じて、決して侮れない人脈を一家にもたらしたのだ。
それからは全てがトントン拍子に進んでいった。
以前は断れなかったことも、知り合った者たちに相談すればあっさりと回避することができた。
結果トラブルは減っていき、生活は豊かになっていったーー
あの日、今まで感じたことがないようなワクワク感に従い、仕事を無断でサボってしまうほどには、余裕のある生活になっていたのだったーー
ゼクスとしても子爵夫妻が撤回させようとしている条件を飲むことは難しかった。
ラッフィナートーーゼクスとしては、リアーヌのギフトを独占すること、それこそが目的の婚姻だ。
だと言うのに、結局ボスハウト家が采配の決定権を持つと言うのは、到底飲める条件ではなかったのだ。
そんなゼクスの様子を横目で観察していたヴァルム。
ゼクスへの嫌がらせと、子爵夫妻への助言を兼ねて、自分の意見を述べるため、ニコリと穏やかな笑顔を浮かべながら口を開いた。
「お嬢様を迎えるために、男爵まで得られたラフィナート様ですから、お嬢様のため出来る限りの心使いを期待しても構わないのではないでしょうか……?」
この言葉を分かりやすく意訳するとこうなる。
『お嬢様と結婚するために叙爵までしたんだろう? ここまできて婚約話を保護にするかおつもりか⁇ ーー口約束でも構わないから、当家の事情にも配慮すると約束しろ。 そうすれば子爵に取りなしてやってもいい』
例え口約束であっても貴族同士が交わした約束はどこまでいっても有効だ。
ましてやヴァルムには嘘を見抜くギフトがある。
その能力者が同席している中での約束は、正式な契約同等と見做されることだろう。
そうなれば確実にボスハウト家に有利となるーー
ヴァルムはそう考え、なんとしてもゼクスから口約束を引き出そうとしていた。
しかし、ヴァルムの言葉にゼクスが応えるよりも早く、サージュが待ったをかけた。
「それでもダメだなぁ……」
「……あら、そうなの?」
ため息混じりにそう言うと、サージュは頭を抱え天井を見上げてしまった。
その姿を見てリエンヌは顔を曇らせる。
その姿は豪運のギフトを持っていても、貧しい暮らしから抜け出せなかった日々によく見た仕草の一つであったためだ。
サージュのギフトは、あくまでも感覚的なことしか教えてくれない。
なんだか胸騒ぎがしたり、嫌な予感を感じ続けるーーこれはダメな選択をしようとしている時に感じる感覚で、これが消えるような選択肢を選ばない限り、良くないことが起こる。
逆に心がポカポカと暖かくなったり、ワクワクと胸が高鳴る時は、その選択肢が自分にとって幸運が舞い込む選択肢だ。
ーーしかしそれを理解しているからといって、貧しい自分が嫌な予感がする程度で仕事を無断で休むわけにはいかない。 断りたくとも断れない相手からの頼まれごともあった。
そのせいで結局トラブルに巻き込まれ、いくら頑張っても日々の生活は豊かにならずーー
歯を食いしばって不運を受け入れるような生活から脱却できたのは、長女リアーヌのお陰だった。
どこでそんな知恵をつけたのか、リアーヌには商人の才能があった。
菓子が欲しかったからと、たったそれだけの理由で金をかせいで来るような子供は稀だ。
しかもリアーヌはその金を使い切らず毎回家に入れては、また再び金を稼いでくる。
それだけで家計はずいぶんと楽になったというのに、リアーヌがもたらした幸運はそれだけではなかった。
その仕事を通じて、決して侮れない人脈を一家にもたらしたのだ。
それからは全てがトントン拍子に進んでいった。
以前は断れなかったことも、知り合った者たちに相談すればあっさりと回避することができた。
結果トラブルは減っていき、生活は豊かになっていったーー
あの日、今まで感じたことがないようなワクワク感に従い、仕事を無断でサボってしまうほどには、余裕のある生活になっていたのだったーー
21
お気に入りに追加
344
あなたにおすすめの小説
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。
112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。
死にたくない。あんな最期になりたくない。
そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。
【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?
曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」
エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。
最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。
(王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様)
しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……?
小説家になろう様でも更新中
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる