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「……じゃあ最後。 ーー仕事はラッフィナートを通す……」

 リエンヌはそう言いながら顔を曇らせたまま、まるで問いかけるようにサージュを見つめた。
 その視線をまっすぐに受け止め、フー……と大きく長い息をついたサージュは、何度か頷きながら口を開いた。

「これはダメだ」
「ええ。 ダメよね」

 サージュの言葉に、すぐさまリエンヌが同意する。

(ダメ、なんだ……?)

 リアーヌは両親の会話を疑問を感じ、ゆっくりと首を傾げた。
 疑問に感じたのはリアーヌだけではないようで、リアーヌの隣まで歩いてきたゼクスは、不満という感情を隠すこともなく顔中に貼り付けて、子爵夫妻に向かって口を開いた。

「ーー妥当な条件であると自負しておりますが……ーー念のため、どのように変更したいのかご希望を聞かせ願っても?」

 ゼクスの怒気すら含んだ言葉に、子爵夫妻は顔を見合わせると、ごくごく普通に相談をし始める。
 
 そんな子爵夫妻の態度にキョトンと目を丸くしたゼクスは、「まさか存在すら丸ごと無視されるとはね……」と呟きながら、苦笑混じりに肩をすくめた。

「ーーエンテが困ってるの。 だから印刷所の仕事ができなくなってるのよ」

 リエンヌが先ほどのように、こめかみに中指を押し当てながら脳裏に浮かぶ映像を険しい顔で見つめている。

「……この条件、何やってもダメっぽいな?」

 サージュも呆れたような口調で言うと、脱力するように背もたれに身体を沈み込ませ、ため息とともに腕を組んだ。

「ーーつまり、今までお嬢様が関わっていた奉仕作業もラッフィナート商会を通さねばならずーーにも関わらず許可を出すことはないーーと言うことでございましょうか?」

 ヴァルムがチラリとゼクスに視線を流しながら子爵夫妻にたずねる。

「そう……なのかしら?」

 ヴァルムの質問にリエンヌは首を傾げながら質問を投げ返した。
 リエンヌのギフトで分かることは、自分の家や家族が大きな損得をするのかどうか? と言う部分ばかりだ。
 ヴァルムにたずねられたような、何が原因なのか? と言う質問に対する答えは持ち合わせていたなかった。

「ーーどうなんです?」

 質問を投げ返されたヴァルムは少し考え、小さく鼻を鳴らしたのちに、ニヤリと黒い笑いを浮かべながらゼクスに訪ねた。
 多少でも揺さぶって、ラッフィナート商会から、なにかしらの情報が得られれば儲けものだと考えていた。

「生憎とまだなにもしていないんですけどね……ーーそりゃうちと契約した以上うちの用事が優先なのかなー? とは思いますけど……」

 そんなゼクスのボヤきのような、独り言のような答えを聞き、子爵夫妻は再び顔を突き合わせながら相談をし始める。

「ーーどう? いいってるけど……解決出来るかしら⁇」
「……優先を外せるなら……?」
「でも……お嫁に行っておいて、嫁ぎ先を優先しないのって……」
「……ーー可愛げはねぇな……?」
「そうよねぇ……?」

 子爵夫妻は眉間に皺をこれでもかと寄せながらそんな会話をしつつ、ウンウンと唸っている。
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