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しおりを挟む「それじゃ次ね。 実家に帰りたい放題ーーこれはどう?」
「んー……」
リエンヌがたずねると、サージュは腕組みをしながら難しい顔をして唸り始めた。
「ーーでもさぁ……それって愛人作るってことなんだろ?」
ザームが面白くなさそうに唇を尖らせながら両親にたずねた。
そしてその質問に両親が何かを言うよりも早くゼクスが口を開く。
「うん。 とんでもない誤解だよ? どれだけ実家に帰ったってリアーヌ嬢がちゃんと奥さんしてくれるなら、そんな面倒なもの作りませんからね⁇」
その答えを聞いたザーム、そして両親は、そっくりの仕草でヴァルムを見つめた。
「ーー偽りは感じられませんでした」
コホン……と一つ咳払いをした後で、不本意そうに答えるヴァルム。
そんな執事の物言いに、今度はゼクスが不本意そうに顔を顰めた。
「ーーですが、タガの外れた若い男など手玉に取るのは簡単だと思われますがね……」
「ーーボスハウト家の執事ともあろうお方が、随分と下世話な話をなさる……」
リアーヌをそう簡単に嫁になど出したくないヴァルムは、その苛立ちのままにフンッと大きく鼻を鳴らせてから、
『今どう思っていようとも、女慣れしていない男など、誘われるがままに手を出すものだろう?』
と、ゼクスを挑発し、ゼクスはその言葉に攻撃的な笑顔を浮かべると、
『長いこと貴族に仕えてたって、そんな下品なこと言っちゃうんですねー?』
と、やり返してみせた。
「ーー今のはなんて?」
二人の会話を聞いて、不可解そうに首を傾げながら姉に質問する弟。
たずねられたリアーヌは困ったように眉を下げつつ、必死に頭を回転させる。
貴族特有の言い回しは、小難しいものが多く、解読に時間がかかってしまうリアーヌだったのだが、今だけは口が裂けても「分からない」とは決して言えなかった。
ーーどんな姉であろうとも、弟には良い格好をしたいものなのだろう。
「えー……若い男など手玉に取ってみせましょう……?」
突然紡がれた暴論にヴァルムだけではなくゼクスや両親もその動きを止め、ぎこちない動きでリアーヌを見つめる。
「ーーえっヴァルムさんが?」
「……えっ⁉︎ ヴァルムさんがっ⁉︎」
その言葉に驚いたザームに聞き返され、ようやく自分がなんと言ったのが自覚したリアーヌはザームよりも驚いていた。
「若い男を手玉に取る方々は沢山いるという話でございます!」
いつの間にか不名誉な疑惑を持たれていたヴァルムは、姉弟に向かい始めて感情的に声を荒げた。
「ーーああ、酒場のねーちゃんらみてぇなのか……」
「なるほど?」
ヴァルムの言葉に「ああー……」と納得し合う姉弟。
そしてチラリ……と互いに視線を送り合うと、スッと顔を近づけさせて小声で軽口を叩き合う。
「ーー流石のヴァルムさんだって無理じゃんな?」
「……ヴァルムさんでも出来ないことがこの世にあるんだね?」
「そだな⁇」
そこまで言い合うと互いにニヨニヨと唇を震わせ、二人同時に、ぷふっ……と吹き出した。
そして口元を手で覆い隠し、クツクツと肩を震わせながら笑い合う。
「あんまりでございます……」
ケラケラと笑い合う姉弟に、ヴァルムの情けないような恨めしそうな声がかかる。
「ご、ごめんなさい……!」
「お、俺は信じてないよ⁉︎」
「私だって単なる冗談で!」
二人の謝罪を聞き、ゆっくりと首を横にふったヴァルムはそのまま大きなため息をついた。
そして壁際に控えていた部下たちに視線を送ると、
「ーー……コレット、アスト早急に授業に組み込むように」
と、言い放った。
コレットたちの短い返事を聞きながら、姉弟は絶望に顔を染めながらお互いの顔を見つめ合う。
(ヴァルムさん、あんまりです……)
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