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 母リエンヌが紙に条件を書き込むのを他の家族たちがテーブルの上に身を乗り出しながら見つめる。

 ゼクスは、客人である自分がまだここにいるというのに、ホスト一家がここまで常識にとらわれない言動をしてくれるのなら……と、自身も出された紅茶のカップを手に、そろそろと顔を突き合わせている家族たちに近づきその会話を堂々と盗み聞いた。
 ヴァルムはそんなゼクスの態度に眉を顰めたが、無礼を犯しているのはこちらが先と分かっているためになにも言えず、ひっそりとため息を漏らすのだった。

「じゃあ……まずはお友達とは好きにお茶会ができる、パーティーにも行ける。 でも行くのがイヤなら出なくてもいいーーこれについてね。 ーー本当に可能なのかしら……?」

 リエンヌがそう言いながら家族を見渡す。
 リアーヌとザームは首をかしげるばかりで、意見らしい意見を出すつもりはないようだ。

「ーー可能かどうかは知らねぇが、やめといたほうがいい」

 そう言った父の言葉に大きく目を見開いて驚くリアーヌ。

「なんで⁉︎ この私がパーティーやお茶会に出たら、ほぼ間違いなくラッフィナートが笑いものになるよ⁉︎」
「うん……そこまで分かってるなら、これから頑張って欲しいなかな……?」

 自虐なのか自身の経験に基づいた自覚だったのか、判断に困るゼクスだったが、原因に心当たりがあるので有れば、解決する努力をして欲しかった。

「ーービアンカ先生と一緒ならそこそこは出来るんです……」
「……俺は男爵だし、実家は商家だからね……? 辺境伯ご令嬢のビアンカ嬢引き連れて参加するのにも限度があるよ……?」

(ーーそうだった……ビアンカさんってば扱い的には伯爵家相当だった……ーーむしろ私がひっついてーーいや無理でしょ。 やらかした段階で友達からの降格処分だよ⁉︎)

「……ビアンカと二人きりでのお茶会以外、全部お断りとか……?」
「ーー構わないけど……多分それ、リアーヌにヘイト剥いちゃうと思うけど……」

 リアーヌの提案に、ゼクスは困ったように眉を下げながら答えた。

「ヘイト……?」

「ーーああ、そう言うこと……」

 ゼクスの言葉にリエンヌが納得したような声を上げた。

「どう言うこと?」
「貴方は男爵婦人になるの。 貴族ではあっても一番の下っ端よね?」
「……まぁね?」

(貴族ってだけで、十分な世の中な気もするけど……)

 そう思いながらリアーヌは母の言葉の続きを待った。

「でもリアーヌは他の貴族からお茶会やパーティーに誘われても断っていいーー問題なく断れてのよ。 ……だって旦那様はラッフィナート商会の唯一の跡継ぎなんですもの」

 そこまで説明されて、リアーヌはようやく、なぜお茶会に出ないと自分がヘイトを買うのかと言うことが理解出来た気がした。

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