成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世

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「ーーえっと……自分で言うのもなんだと思いますけど……ーー俺って割と良い物件だと思うんですけど……?」

 反感程度は買うだろうと予想していたゼクスだったが、ここまでどんよりとした空気になるほど自分との婚約がイヤなのかと、少し頬を引き攣らせながらもゼクスはわざと冗談めかした態度で言葉を続ける。

 ーーこれは、こちらにはまだまだ余裕があると言うアピールでもあり、本気で言って本気で否定された場合、傷ついてしまうであろう自分の心を守るための予防線でもあった。

「一応とはいえ貴族ですし? ーーしかも俺はリアーヌ嬢に女主人の役割なんて押し付けたりしないよ⁇ そこは安心して欲しい」

 ゼクス自身としては、この婚約話が決まろうと決まるまいと、どちらでも良かった。
 この婚約話はひとえにリアーヌをラッフィナート商会に縛り付けるためのもので、もし断られたとしても、契約不履行を理由にボスハウト家に多大な負債を負わせ、リアーヌをラッフィナートに差し出すように仕向ける手筈になっていた。
 なっていたのだがーー
 リアーヌが、ラッフィナート商会が希望する嫁の条件にピタリと当てはまる娘だと父親や祖父母が気がついてしまったのだ。

(……気が付かれてなければ、あの婚姻承諾書は雇用承諾書って名前で、リアーヌ嬢がうち以外では働けないって契約を結んでたはずなんだけどなー……)

 心の中でそうこぼしたゼクスは、少しだけ自重気味に笑って小さく肩をすくめた。

 今のラッフィナート商会にとって、決して裏切らない貴族と強いつながりを結ぶことは急務であった。
 ーーどれだけ引き伸ばしても、ラッフィナート家はゼクスの代で叙爵することになるだろう。
 それに備え、金と人脈を少しでも多く確保しなくてはいけない。

 そしてその強いつながりの筆頭がゼクス自身の婚姻だったのだ。
 ーー数多あまたいる有象無象の貴族たちが納得する程度の家柄、ギフト保有者であること。
 そして資金力においてはラッフィナート商会の足元にも及ばない家ーー娘の性格が従順であればなお良かった。

(ーーま、従順なのはじゃなくてなんだけどー)

「ーー具体的に条件の提示をお願いできますでしょうか?」

 ヴァルムは、鋭い目つきでゼクスを見据えながら恭しく頭を下げた。
 ゼクスが用意した婚姻承諾書の不正を暴き、どうにか破談の足がかりにできないかと、ゼクスに詳しい説明を求める。
 ーーなにかしらのウソや偽りを言ってくれれば、ゼクスの手口が分かるのではないかと考えていた。
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