成り上がり令嬢暴走日記！

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（ーーそれはとってもだめな気がしちゃうけど……）

　ぐぬぅ……と、なにも言えずに顔をしかめるリアーヌ。

「ーーお断りは難しいのかしら……？」

　そんなリアーヌとゼクスのやりとりを見ていた母リエンヌが、困ったように眉を下げてヴァルムや夫であるボスハウト子爵にそんな質問を飛ばした。
　そんなリエンヌの言動に、まさか自分の目の前で、こんなにもハッキリとお断りの相談を始められると思っていなかったゼクスはヒクリ……と頬を引き攣らせた。

　そんなゼクスの変化にヴァルムは小さく鼻を鳴らすと、リエンヌに身体ごと向き直り、スッと軽く頭を下げつつ口を開いた。

「この書類が本物である限りは……」
　
　ヴァルムは言外に裏で手を回せばこの書類を偽物に出来ると匂わせたが、主人夫妻がその言葉を聞き取る事は無かったのだが……
　ヴァルムはそのことを少し残念に感じる反面、同じ分だけ満足もしていた。

　この主人たちはこれで良いのだ。
　我がボスハウト家は少々毒を取り込みすぎた。
　それを綺麗に浄化して見せたのが今の主人夫妻ーーだから、この主人たちはこれで良いのだ。

「ーーなんか……ヤバげだなぁ……」

　目を閉じてギュッと眉間にシワを刻んでいた父サージュが、ゆっくりと目を開けながら面白くなさそうに答えた。
　その答えにリエンヌは大きく肩を落とした。

「……リアーヌをお嫁にやらなくてはいけないってこと？」
「ーーそれは面白くねぇ……だが、これは……断ろうとするとーーかなりヤバい」

　顔をしかめながらサージュは答える。
　睨みつけるように見ている視線の先には、少しくたびれた婚約承諾書があった。

（ーー父さんがこういう言い方するときは……本当にダメな時だ……ーー基本、父さんのギフト【豪運】は、父さんが幸せになれるよう、父さんの直感に働きかけるんだけど……本当にごくごくたまに、今みたいに、どんなに嫌でも受け入れなくてはいけない、みたいな直感が働く時があるらしく……ーーそんな場合は大抵、詰んでる状況なことが多い……ーー今回の場合で仮説を立てるなら、ゼクスがこの話を持ってきた段階で、ゼクス側の準備は全て済んでいて、拒否したり反故にしようとした場合、もっと最悪な状態になるんだろうーーだから父さんのギフトは『断るな。　受け入れろ』って伝えてるんだと思う……ーーえっ父さんのギフト的に私ってば詰んでいるんです……？）

　家族は元より、ヴァルムを初めとした使用人たちもサージュのギフトをよく知っていた。
　その為、この話を断ることは難しいと、話し合うまでもなく理解してしまった。
　誰かがそっとついた、ため息が引き金となったのか、ボスハウト家のリビングをどんよりとした重苦しい空気が支配していた。