成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世

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 そうクスクスと笑ったゼクスは、持ってきていた鞄から一枚の紙を取り出して、リアーヌーーというよりはヴァルムに向かってよく見えるようにテーブルの上に広げた。

 リアーヌはそれを覗き込みながら、目に入ってくる文字を口に出して読んでいく。

「こんいん、しょうだくしょ……ーー婚姻承諾書⁉︎」

 まったく身に覚えのない書類の登場に、リアーヌはバンッとテーブルに手をつきながら椅子から立ち上がって叫んだ。

 そんな姉の様子に、ザームは菓子を食べる手を止め、チラリとその書類に視線を移して、その内容を読み始めた。

「ーー私リアーヌ・ボスハウトは、ゼクス・ラッフィナートとの婚姻承諾の意をここに記す。 リアーヌ・ボスハウト……ーーサインまでしてあるぞ……?」

 読み終わったザームは、呆れたようにトントンと、リアーヌの筆跡そのものなサインを指差した。

「なんで⁉︎」

 リアーヌもそのサインが自分で書いたものにしか見えず、驚愕の声を上げた。

「ーー失礼を」

 リアーヌの反応から、このサインが偽造ではない可能性が高いと判断したヴァルムが、素早く書類を回収し、真剣な顔つきでそのサインをジッと見つめた。
 書類を持つその手にちからが入り、クシャリ……と小さく不穏な音が鳴った所で、ゼクスが苦笑を浮かべながら声をかけた。

「ーーそれ、国王陛下の認証を得た正式な書類なんで、あんまり雑に扱わないでくださいね?」

 それはヴァルムにとって最大の皮肉だった。
 ごくごく最近、ラッフィナート商会や王家をおさえるために使った手法そのままに、今回の件についての対抗策のほとんどを潰されたと言っても過言ではなかった。

 苛立ちのままにゼクスにきつい視線を送るヴァルムだったが、グッと奥歯を噛み締め無理矢理に頭を下げ、なんとかゼクスに気づかれることを回避した。

「……これは失礼いたしました」

 ーーしかし……これまでヴァルムと同じような手段で表情を取り繕ってきたゼクスにとっては、伏せられた顔がどれほど歪んでいるのか、それを想像することはヴァルムが考えているよりもずっと容易いことだったのだが。

「ーーお嬢様、これはお嬢様のサインでしょうか?」

 気持ちを切り替えたヴァルムは、そっと書類をリアーヌに差し出すと、トンとリアーヌのサインを指差した。

「わ、私のに似てるけど……ーーでも私こんなのに署名なんてしてないです⁉︎」

 いくらリアーヌに少々抜けているところがあると言っても、内容を確認もせずに署名することはない。
 白紙にサインだけを書くだなんて愚かな真似も。
 そしてーーリアーヌには間違いなく婚姻承諾書なんてものにサインなどしていないという自信があった。
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