88 / 1,038
88
しおりを挟む
そんな会話をした日の放課後。
ゼクスが叙爵したというのは事実であるという説明を本人から受けたリアーヌは、父ーーボスハウト子爵にきちんと挨拶をしたいというゼクスの申し出を受け、数日後夕食に招くことを約束して別れたーー
そして夕食会当日ーー
なにごともなく、挨拶を済ませ、食事を食べ終えたリアーヌたちは、食後のお茶を楽しみつつ、比較的緩く和やかな時間を、家族全員が楽しんでいたーー
のだったが……
ゼクスが発した言葉により、その場の空気が一瞬にして凍りついたのだったーー
「これを機に家と家の繋がりも強くしていければ、と……ーーもちろんリアーヌ嬢にはすでに了承を受けております」
その言葉にヒュッと息を呑む、母のリエンヌや使用人たち。
父のサージュは「あー……?」と言いつつゼクスを睨むように真っ直ぐに見つめ、その後ろに控えるヴァルムはギリリッと音が聞こえるほどに歯を噛みしめ手を握り込んでいた。
この部屋の中で、この空気に気がついていないのは弟であるザームだけだった。
一人黙々と、お茶請けのお菓子を口に入れ続けている。
(……あれ? 家と家の繋がりを強くって……ーープロポーズってか、うちのとそちらの子を結婚させて、末永く仲良くしましょうねーって意味の言葉だった気が……⁇ ーー業務提携しませんかー? 的な意味合いも含まれてるのかな……⁇)
「ーーえ、うちとラッフィナート商会が業務提携⁇」
思わず口走ってしまったリアーヌに、ゼクスは少し驚いた顔を見せてからニコリと笑って「いや、そんな話してなかったでしょ?」と、猫撫で声を出した。
「ーーなさったのでしょうか?」
困惑したままのリアーヌがなにかを答える前に、ヴァルムが静かにリアーヌにたずね返した。
「ーー業務提携……ですか?」
声をかけられたタイミング的にその話題だろうと聞き返すと、ヴァルムの左の眉だけがゆっくりと引き上がっていき、唇は真一文字に引き結ばれた。
(あ、これ違うやつだな……?)
「ーー婚約の了承をなさいましたか?」
「えっ婚約⁉︎」
(ーーつまり、もしかしなくても、さっきのは婚約の打診⁉︎ ……え、待って? ゼクス様ついさっき、私は了承したって言ってなかった⁉︎)
大きく目を見開いたリアーヌはバッと身体ごとゼクスの方に振り返るが、ゼクスはなにを考えているのか底が見えない、心底胡散臭い微笑みを浮かべ続けるだけだった。
そんなリアーヌの態度に、これには裏があると確信したヴァルムは、もう一度リアーヌに確認を取った。
「ーーなさった記憶が無いのですね?」
「無いですよ!」
ヴァルムの質問にリアーヌは首を大きく横に振って答えるが、大した反論をする前にすぐさまクスクスと笑い出したゼクスによって、その言葉を止められた。
「やだなぁー。 忘れちゃったのー?」
ゼクスが叙爵したというのは事実であるという説明を本人から受けたリアーヌは、父ーーボスハウト子爵にきちんと挨拶をしたいというゼクスの申し出を受け、数日後夕食に招くことを約束して別れたーー
そして夕食会当日ーー
なにごともなく、挨拶を済ませ、食事を食べ終えたリアーヌたちは、食後のお茶を楽しみつつ、比較的緩く和やかな時間を、家族全員が楽しんでいたーー
のだったが……
ゼクスが発した言葉により、その場の空気が一瞬にして凍りついたのだったーー
「これを機に家と家の繋がりも強くしていければ、と……ーーもちろんリアーヌ嬢にはすでに了承を受けております」
その言葉にヒュッと息を呑む、母のリエンヌや使用人たち。
父のサージュは「あー……?」と言いつつゼクスを睨むように真っ直ぐに見つめ、その後ろに控えるヴァルムはギリリッと音が聞こえるほどに歯を噛みしめ手を握り込んでいた。
この部屋の中で、この空気に気がついていないのは弟であるザームだけだった。
一人黙々と、お茶請けのお菓子を口に入れ続けている。
(……あれ? 家と家の繋がりを強くって……ーープロポーズってか、うちのとそちらの子を結婚させて、末永く仲良くしましょうねーって意味の言葉だった気が……⁇ ーー業務提携しませんかー? 的な意味合いも含まれてるのかな……⁇)
「ーーえ、うちとラッフィナート商会が業務提携⁇」
思わず口走ってしまったリアーヌに、ゼクスは少し驚いた顔を見せてからニコリと笑って「いや、そんな話してなかったでしょ?」と、猫撫で声を出した。
「ーーなさったのでしょうか?」
困惑したままのリアーヌがなにかを答える前に、ヴァルムが静かにリアーヌにたずね返した。
「ーー業務提携……ですか?」
声をかけられたタイミング的にその話題だろうと聞き返すと、ヴァルムの左の眉だけがゆっくりと引き上がっていき、唇は真一文字に引き結ばれた。
(あ、これ違うやつだな……?)
「ーー婚約の了承をなさいましたか?」
「えっ婚約⁉︎」
(ーーつまり、もしかしなくても、さっきのは婚約の打診⁉︎ ……え、待って? ゼクス様ついさっき、私は了承したって言ってなかった⁉︎)
大きく目を見開いたリアーヌはバッと身体ごとゼクスの方に振り返るが、ゼクスはなにを考えているのか底が見えない、心底胡散臭い微笑みを浮かべ続けるだけだった。
そんなリアーヌの態度に、これには裏があると確信したヴァルムは、もう一度リアーヌに確認を取った。
「ーーなさった記憶が無いのですね?」
「無いですよ!」
ヴァルムの質問にリアーヌは首を大きく横に振って答えるが、大した反論をする前にすぐさまクスクスと笑い出したゼクスによって、その言葉を止められた。
「やだなぁー。 忘れちゃったのー?」
21
お気に入りに追加
372
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

メイドを目指したお嬢様はいきなりのモテ期に困惑する
Hkei
恋愛
落ちぶれ子爵家の長女クレア・ブランドンはもう貴族と名乗れない程苦しくなった家計を助けるため、まだ小さい弟の為出稼ぎに行くことにする。
母の知り合いの公爵夫人の力を借りて住み込みのメイドになるクレア。
実家である程度家事もやっていたり、子爵令嬢としての教育も受けてるクレアはメイドとしては有能であった。
順調に第2の人生を送っていたのに招かざる来訪者が来てからクレアの周りは忙しくなる。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!
白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、
《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。
しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、
義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった!
バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、
前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??
異世界転生:恋愛 ※魔法無し
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

【本編完結】政略結婚お断り、逆境に負けず私は隣国で幸せになります
葵井瑞貴
恋愛
「お前は俺の『物』だ」――夜会で傲慢な侯爵子息テオに見そめられてしまった令嬢ソフィア。
女性を物扱いする彼との政略結婚から逃れるため、一人異国へ旅立つ――。
そこで出会ったのは、美貌の貴公子アーサーと個性豊かな仲間たち。
新天地で平穏な日々を送っていたソフィアだが、テオが追って来て国に連れ帰ろうとする。
さらに、祖国とリベルタ王国が戦争間近の緊張状態になり、ソフィアは貴族の陰謀に巻き込まれていく。
宿命としがらみ。貴族の思惑と陰謀。入り乱れる恋の矢印と絡み合う恋模様――。
主人公ソフィアを中心に様々な人の縁が広がり交わって、やがて一筋の明るい未来に繋がる。
これは、どんな逆境にも負けず、自分らしく生きることを諦めない、令嬢ソフィアが幸せになるまでのラブストーリー。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

【完結】ちびっ子元聖女は自分は成人していると声を大にして言いたい
かのん
恋愛
令嬢に必要な物は何か。優雅さ?美しさ?教養?どれもこれも確かに必要だろう。だが、そうではない。それがなければ、見向きもされず、それがなければ、壁の花にすらなれない。それとはなにか。ハッキリ言おう。身長である!!!
前世聖女であったココレットが、今世は色恋に花を咲かせようと思っていた。しかし、彼女には今世身長が足りなかった。
これは、自分は成人していると声を大にして言いたい元聖女のはじまりの話。
書きたくなって書いた、勢いと思いつきのお話です。それでも良い方はお読みください。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました
宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。
しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。
断罪まであと一年と少し。
だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。
と意気込んだはいいけど
あれ?
婚約者様の様子がおかしいのだけど…
※ 4/26
内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる