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「……そのへんになさっては? ーー怯えておりましてよ」

 肩をすくめながらそう言うと、チラリとリアーヌを振り返るビアンカ。

 その言葉にほぼ同時に、ビクリと大きく反応したゼクスたちは、そっとお互いに視線を外す形で視線を逸らし合った。
 そして未だにビアンカの背中からこちらを観察しているリアーヌに向かって、気まずそうに声をかけた。

「あー……その、すまなかったね?」

 その言葉にリアーヌが反応するよりも早く、今度はゼクスがリアーヌに向かって言った。

「今のは完全にコイツが悪いんだよ? 俺たちは既に契約してるのに、ちょっかいかけるって宣言したんだから」

 ゼクスの言葉に再びフィリップの眉間にシワが寄る。

「ーー言いがかりはやめてくれないかな? 私はそんなこと一言も言っていない」
「はっ! 言ったも同然だろ? ーー俺は契約主としてリアーヌ嬢を守る義務があるからね。 ろうとしただけだよ恐ろしいものだから救おうとしただけなんだよ
「そうなんですか……?」

 疑わしげなリアーヌにコクコクと大きく頷きながら、ゼクスはさりげなくその隣に移動した。
 そして?にこり……と蠱惑的に微笑んで自身の言動を正当化した。

「勝手なことを……ーーリアーヌ嬢、仕える者の人となりはよくよく観察することを進めよう。 将来を左右する重要な契約はそんなに急ぐものでは無いさ」

フィリップはそこまで言うと一度言葉を切り、ゼクスにチラリと視線を投げつけてからリアーヌに向かい満面の笑みを作りながら口を開く。

「ーー君がその気なら手を貸すのもやぶさかでは無いよ……」
「ーーあははっ! ……フィリップ様ってば何言ってるんだろうね? 堅苦しくて良く分かんないねー⁇」

 ゼクスはリアーヌの反応から、フィリップが伝えたかった言葉をほとんど理解していないと、すぐに確信した。
 そしてそれを逆手に取り、ニヤリと笑いながらフィリップの言葉をうやむやにしてみせたのだ。
 心の中で(世間知らずのぼんぼんがおとといきやがれ!)と、毒付きながら。

 ゼクスの言葉で、リアーヌが自分が伝えたかった言葉を読み取っていないことを理解したフィリップは、チラリとビアンカに視線を流してから、気持ちを切り替えるように大きく息をついてから口を開いた。
「ーー私の言葉の意味が気になったならビアンカ嬢にたずねるといい……ーーでは今日はこの辺で失礼するよ」
「ーーごきげんよう」

 立ち去ろうとするフィリップにビアンカが礼儀の一つとしめスカートを少し摘んで膝を曲げながら礼の姿勢をとった。

「ーーごきげんよう」
「ごきげんよー」

 それを見ていたリアーヌも慌てて同じ姿勢を取り、ゼクスはポケットに手を突っ込みながらやる気のない声を出した。

 すでに歩き出していたフィリップはゼクスの声にピタリと足を止めたが、振り返ることも言い返すこともなく、再びまっすぐに前を見て歩き出したのだった。



 あの後リアーヌたちとも別れたゼクスは、諸々の報告のため家への帰路を急いでいた。
 自分以外の誰もいない馬車の中というプライベートな空間こともあり、かなり行儀の悪い態度だ。
 座席にドンッと足を投げ出し、イライラと自分の指や爪を齧っていてーー彼の内心の苛立ちが相当大きいことを物語っていた。

「……ーーうちとやり合うってことは、やっぱりあいつも知ってるってことだ……ーー冗談じゃない。 俺が先に手に入れただぞ……誰が諦めるもんか……」

 ゼクスはまるで目の前にフィリップの姿が見えているかのように虚空を睨みつけると、一段と低い声で唸るように言うのだったーー
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