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「そのお話、全て書面にして契約内容に組み込むことは可能でしょうか?」

 その言葉にゼクスは盛大に顔をしかめた。
 特になにかをごまかそう、などどいう考えは持っていなかったのだが、今の話をこちらの不利益にならないように契約内容に組み込むこと、莫大な手間と労力を伴う。
 ーーゼクスは単純にその作業を嫌がった。

 のだが、ビアンカにもそんな事情が察せられるわけがなく、嫌がるそぶりを見せたゼクスは、書面にすると都合が悪いのか……? という疑惑の眼差しを向けられることになった。

 言葉でその勘違いを正そうと、口を開きかけたゼクスだったが(ここで言い訳しても疑いが深まるだけか……)と考えを改めてつつ、面倒な作業を思いながら肩をすくめて、諦めたかのように笑顔を作って見せた。

「……ものすごい膨大な量になるけど構わないかな?」

 それでも一縷いちるの望みをかけ、チラリとリアーヌを見つめながら確認を取った。
『膨大な量になるなら書面になんかしなくても……』と口にしてくれはしないだろうか? と期待して。

「問題はないでしょう。 ボスハウト家の執事が隅々まで確認するでしょうから」

 リアーヌが口を開くよりも前にビアンカがそう答え、ゼクスの希望を打ち砕いた。

「ーー分かったよ。 なるべく早くまとめてボスハウト家に持ち込ませてもらうよ」

 ふぅー……と息をつきながら、ゼクスは観念したように肩を下げつつ答えるのだった。



「ーーあれ?」

 話し合いも終わり、そろそろ教室へ戻らなければ……と、各々が席から立ち上がりかけた時、リアーヌはある可能性に気がづき、思わず声を上げた。

「ーーどうかしましたの?」
「あ……いや……」

 ビアンカからの質問にどう答えるべきか迷ったリアーヌはチラリ……とゼクスを見つめた。

「ーーえ、俺……?」
「あ、いや……ゼクス様と言いますか……」

 自分を指差して目を丸くしているゼクスに、リアーヌは大きく首を捻りながら、まだ迷うそぶりを見せていた。

「……疑問や不安があるならさっさと聞いてしまいなさいな」

 煮え切らないリアーヌの態度にビアンカは腰に手を当てつつ眉を顰める。
 そんなビアンカの態度に、ある意味で背中を押されたリアーヌはオズオズとゼクスに向かって口を開いた。

「あの……」
「うん。 なんでも聞いて? リアーヌ嬢の希望はできるだけ叶えようとは思ってるんだよ⁇」

 ゼクスは自分がなるべく魅力的に映るよう心がけながら微笑む。
 この程度で、目の前の稀有なギフト持ちを繋ぎ止められるのであれば、儲けものだと考えながら。
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