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「いいこと? だからこそ、この事実を隠して色々根回ししたなんてことがバレる前に、さっさとラッフィナート殿に話を通して、厚い守りを確約してもらうのよ?」
「厚い守り……分かった、頑張る……!」

 ビアンカの言葉に、リアーヌは鼻息も荒く手を握り締めながら答えた。

「……本当にしっかり頑張りなさいね……?」

 本気で心配そうに念を押すビアンカに、リアーヌは不安に顔をこわばらせつつ首を傾げた。

「え……意外ににヤバい状況……?」
「あ、違うの。 そこまでの状況ではないのよ⁉︎」

 そんなリアーヌの態度に、ビアンカは慌てて手を左右に振りながら否定の言葉を口にする。
 そして少し迷いながら口を開いた。

「ーーただ……相手は大商家の跡取りでしょう? ……貴女はちょっとーー純粋だし……」

(……散々言葉に迷った挙句の“純粋”は、悪口だと思うんだけど……?)

 ビアンカはジットリとしたリアーヌの視線に気が付かなかったフリをしながら言葉を続けた。

「ーーいいこと? いくら雇い主だからって自衛しなくていいなんて話はならないの。 おかしいと思った契約は結ぶべきではないし、白紙にサインするなんて、もってのほかでしてよ⁇」
「流石にそれはやらないって!」

 白紙にサインとはこの世界における、一般的な詐欺の手法だった。
 まっさらな白紙に、なんやかんやと理由をつけて署名をさせ、後からその紙に好き勝手な契約内容を書き込むと言う手口だったが、署名は本人が自分の意思でしているため、立憲しにくい手法だった。
 もちろんギフトを使えばウソだと証明することは簡単だったが、そんなギフト持ちを雇うことが大分難しかったのだ。

「新しい契約を付け加えるーーなんて話になってもすぐにサインせず、許されるならば一度持ち帰って執事に確認してもらうんですのよ?」
「分かったー!」

 まるで小さな子供に言い聞かせるようなビアンカの言い方に、リアーヌも知らず知らずのうちに小さな子供のように元気よく手を振り上げながら答えていた。

「おおー。 リアーヌ元気だねぇ?」

 急にかけられた言葉に、手を振り上げままギクリと身体をこわばらせたーーいや、かけられた言葉自体に、ではなくその声の主に、だろうか。

「ーーゼクス様……?」

 ギギギっとぎこちない動作で振り返りながら呟くリアーヌ。
 そのまま、まるで錆びついたブリキのような動作で、声のした方に視線を向けたのだった。
 なんど瞬きを繰り返そうとも、そこには本日は一段と顔の良い未来の雇い主が、ニコニコとこちらを見つめながら立っている姿がそこにはあったのだったーー
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