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「……ではその『願い』がきっかけに……?」
「そこまでは……」

 パトリックからの質問に、イザークは言葉を濁しながら「分からない」と答えた。

「しかし……あの脳天気な虫も殺さないようなご令嬢が、氷を使うことを願うとは……」

 そう言いながらフィリップは少々乱暴な仕草で用意されていた焼き菓子を口の中に放り込んだ。

「ーーお見せしたのが氷の花だったからでしょうか……?」

 それまで静かに話を聞いていたラルフがオズオズと意見を口にした。

「ああ、見せたのは花だったか……自分でもーーか?」

 そう言いながらフィリップはイザークに「どうなんだ?」と視線で疑問を投げかけた。

「それは……」

 イザークは少しの間、どう答えるべきかを迷った。
 直前の会話では「背中に氷を押し込んでやる!」と言った会話をしていたが、本気とウソの感情が入り混じったものであった。
 そして、その前に話していた「かき氷食べ放題!」の言葉には何のウソも感じ無かったのだーーそれはつまり(そちらの方こそが本心であったということなのではないか?)と考えたのためだ。
 そしてその考えを少し可笑しく感じながら、イザークは幼い頃から共に育った兄弟のようなラルフをチラリと盗み見た。
 彼がこの考えを聞いたらどんな反応を見せるのかと、その興味が押されきれなかったのだ。

 イザークの視線をライルはどう受け取ったのか、真っ直ぐにイザークを見つめ返し、コクリと小さく頷いた。

「僕のことは気にしないでくれ」

 その言葉にイザークは唇を噛み締め緩みそうになる口元を引き締めると、小さく息を吐きながら口を開いた。
(ーーどのみち、彼女に攻撃性は感じられなかったからな……)と考え、報告すべき答えを決めながら。

「ーーその能力があれば、かき氷が食べ放題だ、と……」

 そのイザークの報告に、部屋の中から一切の音が消えた。
 窓の外で囀るさえずる小鳥の声がこんなにもはっきりと聞こえるのは初めてのことだった。

「ーーかき氷……?」

 しばらく続いた沈黙を破ったのはライルだった。
 ポカン……と口を開けたまま呆然と呟いた。

 そして、また少しの沈黙ののち「ぷっ……」と言う吹き出す音を皮切りに、クスクスという忍び笑いの音がどんどん大きくなっていく。
 やがて最後にはハハハッというはっきりとした笑い声が、サロン内に響いていた。

「ーーなんとも……野心のない方だな」
「ふふっかき氷……ーー夏場は忙しくなりそうですね?」

 フィリップが呆れたように首を横に振り、パトリックはクスクスと笑いながらライルを揶揄うように声をかけた。

「ーーご入用の際はご遠慮なく。 ……口いっぱいに放り込んで差し上げますよ」

 ライルはムッとしたように唇を尖らせながらそう答え、イザークはそんな二人のやりとりにクツクツと笑い声を漏らす。

 その様子は、まるで本当の友人同士のやり取りのように見えた。
 ーーどのような立場に生まれた者たちであっても、幼き頃より時間を共にすれば友となり、わずらわしい周りの目がないのであれば、気安い会話にもなるのだろう。
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