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「ーーうわあっ⁉︎」

 思わず自分の腕を振り回して、氷を振り払うリアーヌ。
 小さな氷はカツンと音を立てて床に落ちると、そのままスーッと壁際まで滑っていった。

「…………」
「…………」

 リアーヌとビアンカはお互いに無言で、リアーヌの手や落ちた氷をゆっくりとした動作で眺め合った。

「ーー今の……?」

 ビアンカが言いにくそうにそう口にすると、視線を揺らしながらソッと滑っていった氷を指差した。

「ーーとりあえずさ?」

 あまりの出来事に、なぜだが冷静になっていくリアーヌ。

(ビアンカが視線をを揺らしてるトコなんか初めて見たかも……)

 と、関係のないことまで考える程度の余裕すらあった。

「とりあえず……?」
「……黙っててくれない?」

 リアーヌの頼みを聞いたビアンカは「あー……えっと……」と、少しの間声を出して悩んだが、やがて大きく深呼吸をすると、ゆっくりと瞳を開けて、リアーヌに向かって口を開いた。

「ーーごめんなさい。 誤魔化す程度のことはできるけど、話せと言われたら黙ってはいられないわ……ーーパラディール様以外なら黙っててられるかもしれないけれど……」

 ギュッとお腹の前で手を握り締め、そう答えたビアンカ。
 そして手を握り締めたまま、悲しそうな微笑みを浮かべて言葉を続けた。

「……自分の身が可愛いし、多分このことを黙っていたら家に迷惑がかかると思うから……」
「だよね……? うん、えっと……それでいいや」

 ビアンカの言葉にこくこくと頷きながらリアーヌが答える。

(私だってビアンカに迷惑をかけるつもりは無いんだ! ーーそもそも“あのお茶会ではコピー出来なかった”ってことになってる訳だから、このまま知らんぷりして帰っちゃえば、そもそもバレることも無い! そして私はすぐさまヴァルムさんや父さんたちに報告、連絡、相談‼︎)

「いいの……?」

 リアーヌの言葉に、ビアンカが真意を問うように聞き返した。

「とりあえず、親とヴァルムさんに相談する時間が有れば私がこれからどうすべきなのかは決まると思ってるから……」
「そう……そうね。 ーーその程度の時間なら私も協力できると思うわ」

 リアーヌの意見を聞いたビアンカは、顎に手を当てながら、なにかを決意したような強い眼差しでリアーヌを見つめた。

「えっ本当⁉︎」
「ええ。 ーーとりあえず、どこかで落ち着いて相談しましょう」

 そう言うと、ビアンカはそそくさとその場を離れるーー
 いや、離れようとしたのだが……

「……なんの?」

 そう答えたリアーヌが、その場から一切いっさい動こうとせず、大きく首を傾げていたためだ。

「ーーなにごとも事前に相談や根回しをして、最良の結果に繋げるものなのよ」

 ビアンカはその瞳に呆れを乗せ鋭くすると、そう言い放ち、ジェスチャーで「だから早く歩いて!」と伝えると、今度はリアーヌを待つこともなく一人でスタスタと歩き出。

「あ、待って……」

 そんなビアンカの背中に、少し情けない声をかけたリアーヌは、今度こそそそくさとその場を離れるのだったーー


 ーーそんな二人のやりとりや会話を、全て眺めていた人物がいたことには最後まで気がつかないままで……

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