上 下
41 / 1,038

41

しおりを挟む
 朝の教習。
 リアーヌは何事もない平穏な朝の時間を堪能しつつ、昨日無事にラッフィナート家と契約を交わしたことをビアンカに説明していた。

「ーー本当に契約交わしたのね……?」

 ビアンカが半信半疑で再度確認するようにたずねる。

 通常、こういった契約は卒業間近になってようやく正式に交わすものなのだ。
 雇われる側としてはヒヤヒヤする思いを抱えての学園生活となるが、雇う側としては、その人物の人となりを十分に吟味し、交友関係に不安がないかを確認し、自分に見せている誠実な仮面の下にを隠していないことを見極める時間が必要となる。
 その為、よほど人気の『ギフト』持ちでない限りこのような素早い契約があるわけもなくーー
 それらの理由から、ビアンカは“リアーヌの早とちり”であると推測していたのだ。

「勘違いじゃないってばー。 ちゃんとヴァルムさんに確認してもらって「この条件であれば、お嬢様がお手伝いするにふさわしいでしょう」って太鼓判押されたんだから!」

(ーー若干渋々なトコはあったけどね! ……ヴァルムさんは私に花嫁修行させて“いいとこの奥様”ってのにしたいらしいんだけど……ーーこの学園きて分かったんだ! 私ってば貴族向いてない! だからちゃんと稼ぎ口は確保しとかないとね!)

「……ボスハウト家の執事が言うんだもの間違いはないのよねぇ……?」

 ビアンカは頬に手を当てながらそう呟き、しかし、いまだに納得がいかないのか、しきりに首を傾げていた。

「……私だけが言ってたら間違いみたいな言い方……」
「ーー貴女だけが言ってたなら、きっと信じてないわ?」

(曇りなきまなこで言い切りながったな……)

 当然じゃない? と言う言葉が聞こえてきそうなビアンカの態度に、リアーヌの瞳がジットリと湿り気を帯び、不満そうに細められた。

「ーーもしかして転写以外にもできたりするのかしら? 例えば……こんなぺんをそのまま……複製? ペンをペンとしてもう一本作り出せるとか……」
「出来たらよかったんだけどねー。 子供の頃散々頑張ったけど出来なかったー」

 言いながらリアーヌは脱力したように背中を丸めながら机に手をついた。

「ーーいくらなんでも、悪いことに力は使わないわよね……?」

 ビアンカはググッと顔を近づけ、ごくごく小さい囁きのような声でたずねた。

「……ビアンカ、すぐに私を犯罪者予備軍にしようとする……」

 リアーヌは(前も中庭で犯罪やって金稼いでたのか⁉︎ って疑われた……)と心の中でグチを言いながら顔を顰めた。

「だって早すぎるのよ。 聞かない話じゃないけど、リアーヌのちからは……」

 そこまで言ってビアンカはゴニョゴニョっと言葉を濁した。
 自分が失礼なことを言っているという自覚があったためだ。

「あったら便利なコピーだしね?」

 リアーヌ自身は自分のギフトが地味である自覚が充分にあったため、ビアンカの言葉を失礼だとは受け取らず、首をすくめて呆気なく同意してみせた。
 しかし「でもさ……?」とさらに言葉を重ねる。

「お金持ちってその“便利”にお金使いたいんじゃ無いの⁇」
「ーー確かに。 そうよね、だって相手はラッフィナート紹介ですもの……金30なんで微々たるものでしょうし……」
「そうなの……? もっと粘ればよかったかなぁ……⁇」

 リアーヌはビアンカの言葉に、残念そうに眉を下げながら言った。

「過ぎた報酬は身を滅ぼすわよ。 それに執事が太鼓判を押すほどの好条件だったんでしょ?」
「ーーそうだった!」

 そう答えたリアーヌはシャキンッ! と姿勢を正すと、ニカッと歯を見せながら無邪気に喜んだ。
 そんなリアーヌに釣られるように笑顔になるビアンカ。
 しかし、その笑顔をすぐによそ行きのものにすげ替えると、ゆっくり首を傾げながら口元に手を当てて口を開いた。

「歯を見せて笑うのは、いかがなものかと思うわ?」
「……ハイ」

 ビアンカからの圧に、リアーヌはゆっくりと唇を真一文字に引き結ぶのだったーー

(ちゃんと注意してもらえるのありがたいんだけど……マナーの先生より怖いんだもの……)

 ビアンカの指導により、リアーヌのマナーの成績がこれ以上の落ち込みを見せることは防がれているようだったーー
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?

【完結】悪女のなみだ

じじ
恋愛
「カリーナがまたカレンを泣かせてる」 双子の姉妹にも関わらず、私はいつも嫌われる側だった。 カレン、私の妹。 私とよく似た顔立ちなのに、彼女の目尻は優しげに下がり、微笑み一つで天使のようだともてはやされ、涙をこぼせば聖女のようだ崇められた。 一方の私は、切れ長の目でどう見ても性格がきつく見える。にこやかに笑ったつもりでも悪巧みをしていると謗られ、泣くと男を篭絡するつもりか、と非難された。 「ふふ。姉様って本当にかわいそう。気が弱いくせに、顔のせいで悪者になるんだもの。」 私が言い返せないのを知って、馬鹿にしてくる妹をどうすれば良かったのか。 「お前みたいな女が姉だなんてカレンがかわいそうだ」 罵ってくる男達にどう言えば真実が伝わったのか。 本当の自分を誰かに知ってもらおうなんて望みを捨てて、日々淡々と過ごしていた私を救ってくれたのは、あなただった。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

皇妃になりたくてなったわけじゃないんですが

榎夜
恋愛
無理やり隣国の皇帝と婚約させられ結婚しました。 でも皇帝は私を放置して好きなことをしているので、私も同じことをしていいですよね?

断罪イベント? よろしい、受けて立ちましょう!

寿司
恋愛
イリア=クリミアはある日突然前世の記憶を取り戻す。前世の自分は入江百合香(いりえ ゆりか)という日本人で、ここは乙女ゲームの世界で、私は悪役令嬢で、そしてイリア=クリミアは1/1に起きる断罪イベントで死んでしまうということを! 記憶を取り戻すのが遅かったイリアに残された時間は2週間もない。 そんなイリアが生き残るための唯一の手段は、婚約者エドワードと、妹エミリアの浮気の証拠を掴み、逆断罪イベントを起こすこと!? ひょんなことから出会い、自分を手助けしてくれる謎の美青年ロキに振り回されたりドキドキさせられながらも死の運命を回避するため奔走する! ◆◆ 第12回恋愛小説大賞にエントリーしてます。よろしくお願い致します。 ◆◆ 本編はざまぁ:恋愛=7:3ぐらいになっています。 エンディング後は恋愛要素を増し増しにした物語を更新していきます。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

処理中です...