上 下
25 / 1,038

25

しおりを挟む
「おー……手慣れてんだねぇー」

 ビアンカの手伝いを受けながら、真剣な顔つきで作業を進めていくリアーヌの姿に、ゼクスは感心したように呟きながらティーカップを傾けた。
 そんなゼクスにリアーヌは「ハハハ……」と愛想笑いを浮かべながら、内心で毒をき散らす

(さっさと終わらせなかったらご飯抜きになるからですけど⁉︎ ビアンカが手伝ってくれるって言ったから、当然お前も手伝うと思ってたのに「ーーえっ? 俺、依頼主で報酬も支払うのに⁇」とか言い出しやがって! その通りですよね‼︎ 当てにしてすみませんでしたっ⁉︎ ーーくっそお……自分だけケーキセットとか楽しみやがって……ーーいや隣のテーブルには私たちの分も注文してくれたのがあるけどっ! ーービアンカが「終わってからにしましょうね?」って圧かけるからぁ……)

 内心で考えていることが、そろそろ表情ののほうにも影響を与え出した頃ーー
 リアーヌはあることに気がついた。

(ーーあれ、待って……?)

 そして声をひそめて、時折うっとりとめくっている本を眺めているビアンカに話しかけた。

「ビアンカ、写本する分の紙とか持ってる……?」

 リアーヌの見立てでは、ゼクスが用意してきた分の紙では二冊分には足りないようだった。

(当然ゼクスの分はある……急ぎで写本の依頼を持ってきたんだから当然だ。 ーー問題はビアンカの分……多分半分ぐらい足りないと思うんだよけど……)

「ーー紙……ノートーーいえ、だって写本にするのに……」

 私の言葉に、手を止めてブツブツと考え込み始めるビアンカ。

(あー……あとで本にするつもりなら、ノートの罫線けいせんは邪魔だよねー……ーーそもそもこの本っていつまでゼクスの手元にあるんだろう? 明日の朝までとかなら放課後とか時間取ってくれたり……?)

「ーー失礼ですがラッフィナート殿。 これが終わりましたら、お待ちいただいても?」

 考えがまとまったのか、ビアンカはゼクスに向かい少し困ったように首をかしげながら話しかけた。

「構いませんよー」

 ニコニコと愛想よく答えるゼクス。
 そんな二人のやり取りに、今度はリアーヌが首を傾げながら口を開いた。

「ーー今行ってきちゃえば? 私は一人でも大丈夫だよ⁇」

 その言葉にビアンカはピクリと眉を引き上げ、ゼクスはもにょもにょと弧を描きそうになる口を押しとどめている。

「…………」
「…………」

(ーーあっ、これは私……失言をしましたね……?)

 なにかを察したリアーヌが、視線を揺らしながらヘラリ……と愛想笑いを浮かべて見せた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...