成り上がり令嬢暴走日記！

23

「ーー申し訳ないんだけど……」
「こう仰おっしゃっているんだしして差し上げたら？」

　リアーヌの言葉を遮るかのようにビアンカは言った。

「……え？」
「して差し上げなさいな」

　ポカンと口を開けてビアンカを見つめるリアーヌに、ビアンカは少しだけ圧を感じさせる笑顔を向けて言った。
　ーーしかしその視線は、すぐにゼクスの方に向けられる。

「や、でも……」

　なぜビアンカがゼクスの肩を持っているのか分からないリアーヌだったが、それでもゼクスの頼みなど聞きたくないと、さらに言葉を重ねようとした。
　しかしーー

「ーーして、差し上げて⁇」

　ハッキリと圧を感じるビアンカの笑顔に気圧されて、モゴモゴと口の中で言葉を転がすことになった。

（え、なんで？　ビアンカめちゃ怖なんだけど……ーーまさかビアンカにまで魅了の力ちから使った⁉︎　ビアンカってば、さっきからゼクスのほうチラチラ見てるしーー……？　ゼクスの……手元？　……え、手フェチ……⁇）

「ーーあれ？　君も興味ある感じ？　ーーならついでに君の分もコピーしてくれて構わないよ⁇」
「お引き受けいたしますわ」

　ゼクスの言葉に、ビアンカはゼクスが手にした本から一切視線を逸らすことなく、素早く答えた。

「ビアンカさん⁉︎」

　未だにゼクスの願いなんて聞くつもりのないリアーヌは責めるような口調と視線をビアンカに向けた。
　その瞬間、ビアンカはリアーヌにズイっと顔を近づけた。
　そして、優しい口調でゆっくりと言い聞かせるように話しはじめた。

「リアーヌは私とずっと友達でいたいのよね？」
「え、あの……はい」

　リアーヌにその質問の意図は理解できなかったが、逆らい難い空気はヒシヒシと感じていた。
　視線を彷徨わせつつも、コクコクと頷きながら素直に応えた。

「ーーあの本の写本をくれたら、授業内のことだけは多めに見てあげる」
「ーー授業内……？」
「学園外で今日のようなことを披露するようならただのクラスメイトよ。　面白おかしく噂されるような子の友達なんてやってられないもの。　……そうねーー今すぐその写本を引き受けてくれるなら、これからの授業でフォローしてあげてもいいわ？」
「ーーへっ？」

　思いがけないビアンカの言葉にリアーヌは大きく目を見開いて、気の抜けたような声を出した。
　今までビアンカが授業内で手を貸してくれたことなど無かった上に、それとなく周りにフォローされている高位貴族を内心では快く思っていないことを知っていた為だ。

「ーーフォローだけよ？　貴女はちゃんとお家でお勉強のやり直しをしておくの」
「ーーガチ、死ぬ気で頑張る！」

　フンスッと鼻息も荒くガッツポーズをとったリアーヌに呆れた表情を浮かべるビアンカ。

「ーーさすがにその言葉遣いは乱れすぎだと思うわ」
「……ごめんなさい。　頑張りますので見捨てないでください……」
「ーー二言は無いわよ……ーー家名に誓ったって構わないわ」

　その言葉にリアーヌどころか、ニコニコと二人のやりとりを眺めていたゼクスまでもが驚いた表情を浮かべた。

　貴族階級の者にとって「家名に誓う」という言葉は大きな意味合いを持つ。
　ゼクスという第三者が聞いている前での言葉ならば、特に強い拘束力を含む誓いとなる。

　貴族階級の者たちにとって、その言葉は最上級の誓いであり、最大級の拘束力を持つ契約なのだ。

「ーーそんなにあの本欲しいの？」

　分かりやすいビアンカの態度に、リアーヌはは少し信じられないものを見るように、ゼクスが手に持つ古ぼけた本とビアンカの顔を交互に眺めながらたずねた。

「ーーさっさとお受けして」
「……はい」

　圧の強い笑顔で言われ、リアーヌは首をすくめながら小さく頷いた。