20 / 1,038
20
しおりを挟む
ーーそれはリアーヌたちが立ち去ったすぐ後のことだった。
二人が座っていたベンチのすぐ後ろにある茂みが風も吹いていないのにガサゴソと揺れだした。
そしてーー
「……ふぅん? 写本ね……ーー【コピー】かぁー。 ーー【コピー】ねぇ……⁇」
その声の主はリアーヌたちが立ち去っていったほうを眺めニヤリと笑った。
その人物はそう呟くと、鼻歌混じりに立ち上がり、芝生のかけらなどが付いた制服をパタパタと払う。 そして足取りも軽く校舎内へと戻って行くのだったーー
◇
すっかり春めいて、初夏の気配すら感じるようになった中庭ーー
リアーヌたちはいつもの、程よい日差しが楽しめるベンチに並んで座っていた。
二人共に重々しい表情を浮かべてーー
「ーー確認なんだけど……本当に試験を受けたのよね……?」
「……はい」
「……ーー本当に貴女が受けたのね?」
「……本当に試験を受けて合格をいただきましたが……ーー今となっては、なにかの間違いだったのではと……」
「ーーそりゃ疑いたくもなりますわね……」
その発言にリアーヌは大きく肩を落とし、ビアンカはため息とも取れるような、長く大きな息を吐いた。
様々な花が咲き誇る美しいこの中庭において、二人が座っているベンチだけが、どんよりと曇っているようだったーー
二人がこんな状態になってしまった原因は、直前に行われたマナーの小テストだった。
今回は数人のグループに分かれてのお茶会形式で、最初の挨拶と席についてからの十分程度の会話、そしてお開きになった際の帰りの挨拶を披露しあい、教師からの評価をもらうという授業だったのだが、リアーヌの受験対策があまりにも付け焼き刃過ぎた、という事実が大勢に周知されたのだった。
ーーちなみに、この“大勢”の中にはリアーヌ自身すら入っていた……
マナーが得意では無いという認識は持っていたリアーヌだったが、人間というものは何事も自分を基準にしてしまうもので、リアーヌもまた自分の能力が平均値であると、認識していたのだった……ーーつい先程までは。
(……私みたいにマナーが得意じゃ無い人は皆、最初と最後の挨拶だけしっかりやって、後は気配を消してやり過ごしているんだとばかり……ーーそっかぁ……お茶会は全員で席に着くもんなぁ……部屋の隅っこには行けないんだ……)
リアーヌのあまりの出来なさ具合に、リアーヌたちのグループはテストもそこそこに、リアーヌに対する指導がメインになってしまったのだ。
ーーこれには教師側の他の生徒に対する配慮も含まれていた。
お茶会には必ず主催者ーーホストが存在しており、その人物はお客様の全てに気を配り、話を盛り上げるという役割を持っている……そんなところにマナーのなっていない生徒が一人でも紛れ込んでしまっていては、正当な評価とは言えないだろうと考えた教師は、元凶となったリアーヌをどうにかする方向にハンドルを切ったのだった。
(ビアンカ含め、あのグループの人たちに悪いことしちゃったなぁ……私たちのテーブル見てた先生、ほぼほぼ私の指導してたし……ーーあれ? 指導⁇ ……貴族の学校は実技テスト中にご指導まで受けられるんです……?)
二人が座っていたベンチのすぐ後ろにある茂みが風も吹いていないのにガサゴソと揺れだした。
そしてーー
「……ふぅん? 写本ね……ーー【コピー】かぁー。 ーー【コピー】ねぇ……⁇」
その声の主はリアーヌたちが立ち去っていったほうを眺めニヤリと笑った。
その人物はそう呟くと、鼻歌混じりに立ち上がり、芝生のかけらなどが付いた制服をパタパタと払う。 そして足取りも軽く校舎内へと戻って行くのだったーー
◇
すっかり春めいて、初夏の気配すら感じるようになった中庭ーー
リアーヌたちはいつもの、程よい日差しが楽しめるベンチに並んで座っていた。
二人共に重々しい表情を浮かべてーー
「ーー確認なんだけど……本当に試験を受けたのよね……?」
「……はい」
「……ーー本当に貴女が受けたのね?」
「……本当に試験を受けて合格をいただきましたが……ーー今となっては、なにかの間違いだったのではと……」
「ーーそりゃ疑いたくもなりますわね……」
その発言にリアーヌは大きく肩を落とし、ビアンカはため息とも取れるような、長く大きな息を吐いた。
様々な花が咲き誇る美しいこの中庭において、二人が座っているベンチだけが、どんよりと曇っているようだったーー
二人がこんな状態になってしまった原因は、直前に行われたマナーの小テストだった。
今回は数人のグループに分かれてのお茶会形式で、最初の挨拶と席についてからの十分程度の会話、そしてお開きになった際の帰りの挨拶を披露しあい、教師からの評価をもらうという授業だったのだが、リアーヌの受験対策があまりにも付け焼き刃過ぎた、という事実が大勢に周知されたのだった。
ーーちなみに、この“大勢”の中にはリアーヌ自身すら入っていた……
マナーが得意では無いという認識は持っていたリアーヌだったが、人間というものは何事も自分を基準にしてしまうもので、リアーヌもまた自分の能力が平均値であると、認識していたのだった……ーーつい先程までは。
(……私みたいにマナーが得意じゃ無い人は皆、最初と最後の挨拶だけしっかりやって、後は気配を消してやり過ごしているんだとばかり……ーーそっかぁ……お茶会は全員で席に着くもんなぁ……部屋の隅っこには行けないんだ……)
リアーヌのあまりの出来なさ具合に、リアーヌたちのグループはテストもそこそこに、リアーヌに対する指導がメインになってしまったのだ。
ーーこれには教師側の他の生徒に対する配慮も含まれていた。
お茶会には必ず主催者ーーホストが存在しており、その人物はお客様の全てに気を配り、話を盛り上げるという役割を持っている……そんなところにマナーのなっていない生徒が一人でも紛れ込んでしまっていては、正当な評価とは言えないだろうと考えた教師は、元凶となったリアーヌをどうにかする方向にハンドルを切ったのだった。
(ビアンカ含め、あのグループの人たちに悪いことしちゃったなぁ……私たちのテーブル見てた先生、ほぼほぼ私の指導してたし……ーーあれ? 指導⁇ ……貴族の学校は実技テスト中にご指導まで受けられるんです……?)
30
お気に入りに追加
344
あなたにおすすめの小説
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
もしもし、王子様が困ってますけど?〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
モブですら無いと落胆したら悪役令嬢だった~前世コミュ障引きこもりだった私は今世は素敵な恋がしたい~
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
前世コミュ障で話し下手な私はゲームの世界に転生できた。しかし、ヒロインにしてほしいと神様に祈ったのに、なんとモブにすらなれなかった。こうなったら仕方がない。せめてゲームの世界が見れるように一生懸命勉強して私は最難関の王立学園に入学した。ヒロインの聖女と王太子、多くのイケメンが出てくるけれど、所詮モブにもなれない私はお呼びではない。コミュ障は相変わらずだし、でも、折角神様がくれたチャンスだ。今世は絶対に恋に生きるのだ。でも色々やろうとするんだけれど、全てから回り、全然うまくいかない。挙句の果てに私が悪役令嬢だと判ってしまった。
でも、聖女は虐めていないわよ。えええ?、反逆者に私の命が狙われるている?ちょっと、それは断罪されてた後じゃないの? そこに剣構えた人が待ち構えているんだけど・・・・まだ死にたくないわよ・・・・。
果たして主人公は生き残れるのか? 恋はかなえられるのか?
ハッピーエンド目指して頑張ります。
小説家になろう、カクヨムでも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる