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「ーー……それって私の分もあるんです……?」

 大人しくことの成り行きを見守っていたリアーヌだったが、どうしても気になったことを確認せずにはいられなかった。

(ザームだけ⁉︎ お菓子を食べられるのはザームだけなんですか⁉︎)

「……ちょっとならやってもいい」

 ヴァルムが答えるよりも先に、ザームが少し不本意そうに答えた。

「ちょっと⁉︎ 半分くれたっていいじゃん」
「はぁ⁉︎ 俺の菓子で、俺のデザートなんだけど⁉︎」
「ザームなんか、今までずっと私のおやつ勝手にバクバク食べてきたじゃん!」
「ーーあれは……落ちてたのを拾ったんですぅー」

 少し言い淀んだザームだったが、次の瞬間には口を尖らせながら目を見開き、小憎たらしい表情で言い返していた。

「棚の中、他の食器で隠すように置いてあるものは落としものなんかじゃありませんけどー⁉︎」
「落ちてましたけどぉぉぉ⁉︎」

 メンチを切り合うように、顔と顔を突き合わせ、言い合う二人。
 そんな二人の側にヴァルムが音もなく近づいてーー

「ーーお二人とも?」

 穏やかな微笑みを浮かべ、優しい口調で姉弟に語りかけた。
 その言葉から、逆らい難い強い圧を感じた二人は、すぐさま言い合うのをやめ、無言で背筋を伸ばして椅子に座り直した。
 姉弟のそんな様子に、小さく咳払いをしたヴァルムは念のため、再度、釘を刺すために口を開いた。

「お食事の際は、音量に配慮して会話をなさってくださいまし」

 その言葉に二人は声をそろえて「はいっ!」と答えた。

 そんな子供たちの様子に、クスクスと笑いを漏らす両親ーーそして壁際に控えていたメイドたち。
 さらにはヴァルム自身も、少し口角を上げながらリアーヌたちを見つめていたのだった。



 その提案から数日、ザームの成績は横ばいと見せかせながらも、少しずつ上昇傾向を見せていた。
 少なくともあの日以来、授業をサボることはなかったので、それだけで効果はあったのだろう。

 ーー余談ではあるが、この後、両親たちもその方法でーーご褒美は酒やら美容品だったりと品を変えていたがーー子爵家の一員としての立ち振る舞いを学んだのだと知ったリアーヌが大いに拗ね、両親やヴァルムを困らせることになるのだった。

(私だけ何ももらってないっ! みんなと同じでたくさん頑張ったのにっ‼︎ 私だけ何もないっ‼︎)
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