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「本日のデザートはプチシューでございます」

 ヴァルムはそう言いながら、サージュとリエンヌーーリアーヌたちの両親ーーの前にだけ、フルーツやチョコレートソースで美しく飾られたプチシューが乗った皿を並べていく。

「プチシュー……」
「美味しそう……」

 その皿をジッと見つめる二人。
 ザームは絶望したような表情を浮かべ、リアーヌは悲しそうに顔を顰めた。

(なんで私まで……悪いのはサボったザームなのにぃ……)

 食後のデザート抜き。 これが授業をサボったザームとそんな弟を黙認したリアーヌに課された罰だった。

(ーーでもザーム可愛そう……カスタード系のお菓子大好きなのに……)

 未だにこの世の不幸を全て背負ったかのような絶望感を漂わせながら、両親の前に置かれたプチシューをジッと見つめるザーム。
 そんな弟をチラリと横目で見たリアーヌは気の毒そうに小さく肩をすくめた。

 そんな子供たちの様子に、サージュとリエンヌは困ったように苦笑を浮かべながら顔を見合わせた。
 そして少しわざとらい仕草で両手をポンッと叩いて見せた。

「ーーそうだわ。 母さんいいこと考えちゃった!」
「……俺たちにプチシュー分けてくれるとか?」

 ザームは、かすかな期待を滲ませて母を見つめた。

「それはダメよ。 そんなことしたら母さんのデザートまで取り上げられちゃうじゃない」
 
 その言葉に再びガックリとうなだれるザーム。
 ーーリエンヌとて、息子にデザートを譲るのはやぶさかではなかったのだが、今回は理由が理由だけに、今後のことを考え、二度目が起こらないようしっかりと反省させるつもりでいた。

「……じゃあ、いいことってなんだよ……」

 不貞腐れたように少し唇を尖らせながらザームは言った。
 そんな息子の様子に母はクスリと笑いを漏らしながら答える。

「ザームがマナーのレッスンで合格をもらえたら、なんでも好きなデザートを出してもらえるとかどうかしら⁉︎」

 ザームはその言葉に、キラキラと瞳を輝かせながら「プチシュー」と、元気よく答えた。

「今じゃないわよ」
「そんなに食いたいなら、きっと頑張れるぞ!」

 息子の様子から、この方法がきっと有効であると確信した二人は、クスクスと笑いながらそう声をかけ、チラリと執事のほうに視線を送った。

「ふむ……ーーでは“優”ならば、なんでもお好きなだけ。 “良”ならば、なんでもお一つだけ。 “可”ならば、手のかからない菓子をお一つーーではいかがでしょうか?」

 あごに手を当てながら、考えつつ言葉を発したヴァルムは、そのまま主人たちと坊ちゃんにお伺いを立てるように視線を送った。

「ーー……なんでも?」

 少し迷うような態度で、念を押すように確認するザーム。

「はい」

 ヴァルムはそんなザームを安心させるように、胸を張って力強く頷いた。

「好きなだけ……⁉︎」

 瞳を輝かせ始めたザームに困ったように笑いながら、再度大きく頷いた。

「ええ。 ですが夕食後、でございますよ? それと手のかかる菓子がたくさん、となりますと当日お出しすることが難しい場合もございます」
「でもなんでも好きなの食べられる……?」
「ーー優をお取りになりましたら、どんなデザートでもご用意致しましょう。 このヴァルムめがお約束いたしますとも」

 力強く言い放たれたその言葉に、ザームはパアァァァッと顔を輝かせると「頑張る‼︎」とやる気をみなぎらせながら答えた。

「やる気になられたようで、なによりでございます」

 そんなザームの返事にヴァルムも満足そうに頷いた。
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