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しおりを挟む「やる」
「うおっ⁉︎」
急に背後からかけられた声に驚き、ギョッと後ろを振り返った。
リアーヌもその声の主を見て、ギョッと大きく目を見開きながら口を開いた。
「ザーム⁉︎ ……え、もうレッスン終わったの……?」
ザームが自分と同じく礼儀作法の授業を苦手としていることを知っていたリアーヌは、疑うような眼差しを弟に向けた。
「……まあ?」
「……終わった⁇」
曖昧な態度でやり過ごそうとするザームにリアーヌはさらに質問を重ねた。
「ーー休憩中だからいいんだよ」
リアーヌの追求に、あっさりと開き直ったザームはフンッと小さく鼻を鳴らすと、胸を張って答えた。
「休憩中にバイトとか……どんだけ休憩するつもりー?」
呆れたような視線をザームに向けて肩をすくめるリアーヌ。
「ガンスさんはいいって言った」
「うん、言ってはいねぇぞ?」
姉弟のーー引いては子爵家の諍いに発展しそうな話に巻き込まれたガンスは、早々に自分は関係ないという立場を明確にした。
「夜までやれる!」
「そんなに長い休憩は無いかなぁ……?」
困ったように眉を下げ、ヘラリと笑っていったリアーヌに、ザームはグッと唇を噛み締めうつむくと、ポソリと小さくつぶやいた。
「ーー俺、あれ嫌いだ……」
急に、シュン……としてしまったザームに、ガンスが自分の隣の椅子を引き、ポンポンと叩いてそこに座るよう勧め、店主はザームが好む菓子を出すために、そそくさと奥に引っ込んだ。
「……騎士の作法ってそんなにややこしいの?」
テーブルの向かい側に座り、ペショリ……と元気のない弟に、リアーヌはそっとたずねた。
「……そっちは平気だけど、女連れてくのもやるって……」
「ーー女連れてく……? ーーあ、エスコート?」
「それ」
「連れてくって……ーーまぁいいや。 ーーつまりは跡継ぎとしての立ち振る舞いも習ってるのね?」
「ーーああ。 ……俺、騎士だけでいい」
「よくはないんだけどね……?」
「……ねぇちゃんもあれ習った?」
「習ったけど……」
「できた?」
「ーー……女の人は基本、されるがままだし……」
「……ずりぃ」
リアーヌの答えに、ザームの眉間や鼻の上は皺だらけになった。
「ーー嬢。 このまま雇うと問題になるか?」
静かに話を聞いていたガンスが、伺うようにリアーヌにたずねた。
「……ええと、教師はうちの人間なのでそこまで大きな問題にはならないかと……? ーーでも、ヴァルムさんからのお小言ぐらいは、ある……かも?」
「……ーーうちとしちゃ、雇いてぇ。 けど子爵家に迷惑をかけたい訳でもねぇんだ」
ガンスの言葉にリアーヌは「あー……」と声を発しながら頭を悩ませる。
(見たところ、大分へこんでるんだよなぁ……ーーゆうてまだ一年あるし……私たちがしっかり説明すれば、お店には迷惑かからない……よね?)
「ーーじゃあ今日は特別ね?」
「いいのか⁉︎」
「今日だけだよ? これからはちゃんと授業が終わってからにすること!」
「やった!」
ザームがぱあぁぁぁッと顔を明るくしたタイミングで店主が菓子を持って現れ、その後ろからは、おかみさんがお茶の用意を持って現れた。
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