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「そういえば、ねーちゃんが言ってた通り、俺のちから増えたと思う」

 雨でべちょべちょになっている道を、なんの躊躇ちゅうちょもなくスタスタと歩いていたザームが思い出したかのように、チラリと振り返りながら言った。

「お! よかったね」

 ザームの言葉に、嬉しそうな声を上げるリアーヌ。

 リアーヌは前世の知識の中から、異世界転生した際のセオリーをザームにも教えていた。
 例えば魔力量を伸ばす為に、毎日力を使い切ってから寝ることや、スキルのレベル上げの為に、使う必要がなくても率先して使うことなどを勧めていたのだった。

「ん。 ……でも父ちゃんは歳がデカくなれば自然に伸びるモンだって言ってたぞ?」
「えっそうなの⁉︎」

 ザームの言葉にリアーヌは目を大きくして驚く。

「でも続けろってさ。 その方がいいらしい」

 続けられた言葉にリアーヌはムフムフッと満面の笑みを浮かべ口を開く。

「じゃあやっぱり、たくさん使った方が魔力は伸びるし、スキルも強くなるんだ!」
「魔力……ーーそう、なのかもなー?」

 ご機嫌な姉をチラリと振り返ったザームは、少し呆れたように肩をすくめながら言った。

「そうなると問題はスキルの増やし方だよねー。 どうやったら増えるんだろう……?」

 ザームの態度には全く気付かず、リアーヌはブツブツと呟きながら考え込み始める。

(え、私コピースキルだけで成り上がらなくてはいけないんです……? ーーそれなんて無理ゲー……⁇)

「ーーなぁ」
「んー?」

 前を歩いていたザームがチラチラと後ろを振り返りながら姉に声をかける。
 そんな弟に空返事からへんじをしながら頭を捻り続けるリアーヌ。

「なんでねーちゃんはのことって呼ぶんだ?」
「……ん?」
みんなギフトって呼ぶのにねーちゃんだけスキルって言うのなんでだ⁇」
「ーーえ、ギフト……?」
「ん」
「……え、ギフトってあのギフト……?」
「……ん」

 呆然とザームを見つめ返すリアーヌ、そしてそんな姉を振り返り、目が合ってしまったザームは少し気まずいそうに小さく首を振って肯定した。

「ーーえっ?」
「……それにギフトは増えねーんだぞ? 父ちゃんも母ちゃんも言ってた。 力が強くなることはあるけど増えたりしねーって」
「ーーギルドなら、そうでしょうよねぇ……?」

 未だに混乱していたリアーヌだったが、それでも聞き覚えのある設定にゆっくりと頷き、同意してみせた。
 心の中で、前世の記憶を呼び起こしながら。

(ーー『ギフト』は神様からの贈り物。 いろんな力を少しずつーー)

「……なるほど?」
「ーー大丈夫か?」

 いつもと様子の違うリアーヌに、ザームは居心地が悪そうに鼻をかきながら伺うようにたずねた。

「……うん。 平気」

 大きく息をきながら、答えるリアーヌ。
 ぎこちなくはあったが笑顔も浮かべてみせた。

(ーーなるほどねー。 これ、転生の方じゃなくて「えっ⁉︎ 私があのゲームのキャラクター⁉︎」の方だったんだ……ーー待って? あのゲームにリアーヌなんてキャラいた……? ーーあー……そっかぁ……私ってば乙女ゲームの世界でもモブなのか……)
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