これは私の物語

笹乃笹世

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「――面と向かって文句も言えない根暗のことなんか気にしてらんないってぇー」
『っ⁉︎ だから発言には気をつけてください⁉︎』
「あー……多分平気ー。 ……なんか気ぃ弱そうなヤツだから」

 ……こんなせっまいエレベータでどんだけ声顰めたって、スピーカーで喋ってんなら聞こえちまうんだよなぁ⁉︎
 ――借金してでも今すぐ訴えてやろうか、このクソアマがぁっ!

 あーもうっ! 100%相手が悪いって分かりきってるのに、金がないから裁判も起こせないとかっ!
 ……何度か声かけてもらったクラウドファンディングの話、警戒しないで受けるべきだったのかなぁ。

「……大体、あいつの話なんかそこまで人気無かったわけ! それを私が手直ししての! そしたら本にもなって今日はサイン会! 向こうだってもう「あれは自分の話なんですぅ」なーんて言えないでしょ。 むしろ「有名にしてもらったんだから貴女様に差し上げますぅ」でしょー」

 その言葉の後に聞こえてきたゲラゲラと大きくて下品な笑い声。
 その後ろにスマホから聞こえてくる咎めるような声もはっきり聞こえていた。
 けれど私の頭は真っ白になっていて、ひどい耳鳴りが鳴り続けていた。

 ――え、本になったらなにしてもいいの? こんな暴言まで許される……?
 あれは私の話なのに⁉︎ それを盗んだお前が恥知らずの泥棒だっていうのに⁉︎

 ギリッと奥歯を噛み締め、手を握りしめる。
 握りしめた手に爪が食い込んで痛みを感じ――そうまでしてようやく、身体の底から湧き上がってくる黒い衝動をほんの少し抑えることが出来た。
 押さえつけていられたのはどれくらいの時間だったのか……途方もないくらい長い間だったようにも、ほんの一瞬のことだったようにも思えた。
 でも――その時間は「あー……」という気まずげな声が、思いのほか近くで聞こえたことで唐突に終わりを迎える。
 ビクリ身体を震わせ首をすくめる。 どうしていきなり話しかけられたのかが理解できず考えを巡らせ――思いついた。

 ……まさか私に気がついた……?
 ――気がつかれないのも腹立つけど、まさか気がつかれるとは……気まず……

 身を縮めるように振り返りながら、少しでも距離をとろうとジリジリと後ずさる。
 すぐに背中が壁に当たるが、押し付けるように距離をとろうとした。
 次の瞬間ガッと手を掴まれ、ほぼ条件反射のように振り解こうとするが、向かうのちからが優っていて指の一本も外すことは出来なかった。
 一体自分はこれから何をされるのかという恐怖や戸惑い、ここまでされたならば大きな声をあげても許されるんじゃないかーーなんてことを考えていると、掴まれた手に何かが押し付けられた感触がした。
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