10 / 22
証言
しおりを挟む
町から少し離れた山村集落のとある邸宅で、地方創生プロジェクトのスタッフである石井十蔵(いしいじゅうぞう)はそこに住んでいる老婆から昔起こった戦争体験にまつわるとあるエピソードを聞いていた。
安村鞠子女史(89歳)
彼女が出版社より企画出版している戦争体験を綴ったその書籍は話題で、教育系(N○K)のテレビ局や新聞などが頻繁に彼女の自宅へと出入りしていた。今日の仕事は郷土資料館の企画で戦争体験の文字起こしを含めた聞き取り取材であった。そんななか十蔵は、眼が見えない彼女(鞠子氏)のするとある昔話に異様に食い付いてしまった。
「あ、あんた赤飯たべるぅ?チンすれば出来るやつがあるから、そこの引き出しに、うん。(鞠子)」
チン!(レンジの音)・・・
「うわーおいしそう!なんかすみません!(石井十蔵)」
「そう?こんなんそこのマタックス(スーパー)のやつよ。食べていいのいいの。だれも若い人は来ないんだから。もう~昔のことよォ。沢山はおぼえてないんだけれどごめんねー。その・・・・・」
「(一時間ほど経過)石上さんとこも金持ちやったんよ・・けど旧家のご両親が亡なくなって、息子さんが・・・。」
「名前はなんやったか、マーくんや、そうやあのマーくんが軍に招集礼状で行ったのが最後やったかな・・・。マーくん昔はよくうちにご飯を食べに来ていたんだよ。一緒に銭湯にも行ってたし。よく食べたねえ。」
(※マーくん=石上(カラス男)の幼少時のあだ名)
「いいひとだって、いたのにねえ。はあ。」
鞠子氏はため息をつく。
「だけどもーあんときゃ中学あがってから財産ごと持ってかれたりして。井上家の養子になったでしょお。井上さんとこのぼっちゃまがまーひどく扱ってねぇ、もうわたしも泣いて泣いて。あんときゃ時代がね。人間が人間じゃなかったからねえ。」
「ひぇー!その子そんなとこにいたんですか?!(石井十蔵)」
「うん多分記憶がただしけりゃね。井上さんとこの家の犬小屋に夜おって・・・。息子さんが精神に問題があって。何でかねえ、人じゃない鬼畜よあん人らは。可哀想でね。」
「虐待じゃないっすか・・・。(十蔵)」
「そんで闇市で妙ちきりんな商売したり、見世物小屋で客引きしてたとかもきくし。あーあと・・・。」
「えっ?!そんなのも・・(十蔵)」
「それくらいかな。(鞠子)」
うっ・・・
不快をもよおす十蔵の表情。
「ほ、ほんとに?!」
「いや本当に本当なんやから!ちょっとおかしな趣味のやつも通りにはいたのよォ~!たぶん貧乏でお金に眼が眩んでたんやろね。たぶん。マーくんも・・。あのときはそんげな男もおったから。(目をぬぐう鞠子)」
「人懐っこい子やったんよ。荒んで、
変わっちゃってね・・。なんかあったら私も坊っちゃんたちとかかわんのが怖くてねえ。」
「で坊っちゃんがさー、変死体で見つかってから大騒ぎになってね。鎌鼬(かまいたち)にやられたみたいに。」
「葬式でマーくん笑ってて。ご主人にぼこぼこにやられて。」
「何とかしてやれなかったかなーって。」
「ヤバかったんですねえ。当時は。(十蔵)」
「そう、ヤバかったのよお。いやジョーダンじゃなくって、本当に。(鞠子)」
お婆さんの昔話はあれよと脱線しいつしか彼女の祖先の絵師の話になっていた。
安村英彩というその絵師は児湯地方の秋月藩に支え、藩お抱えの絵師として神社の絵馬などを多数奉納した。
なかでも有名なのが付近の日奉神社(ひまつりじんじゃ)で、別宮の拝殿の天井画の黒髪の女性が夜になると抜け出すという言い伝えを、老婆は青年に語った。
「ちょっとお婆さん、その神社・・・大善さんって、・・・!」
「なに、あんた知ってるの?!そうそうそうよー!あ、なーんだあんた海さんとこの知り合いなの?!なーんだ私の知り合いじゃんせまいねえ田舎は!」
そう、日奉神社とは他でもないテルヒコ(海照彦)の祖父、大善の祖先、「海家」の祖神をまつった古社のことであった。
日神(天照御魂神/アマテルミタマノカミ)を祭る神社で、12キロ先に別宮を持つ。
神宝は「鏡」。大善が生涯通って古文書を研究した神社である。創建は戦国時代の中期とされているが、実際はかなり古く、戦国時代の大友宗麟の耳川の戦いの神社襲撃の被害を受け旧社殿といった「歴史」は焼失してしまっていた。古社たる微かな傍証として、別宮の山中に自然信仰を伝える「岩船」という神々の乗ったとされる岩石、滝のある祭拝場があり、本当の歴史は神話時代まで遡るともいわれる。
「こりゃ連絡せなならんぞ!まてよ・・・!あ、もしもしテルヒコか!お前いますぐこい!(十蔵)」
「(十蔵からの連絡を受け)え?!じいちゃんのことを知ってる人に会ったんですか?!すぐ向かいます!(テルヒコ)」
「あんたら興味あるようだけど・・・」
「行く?神社。」
ニヤリとしたり顔で笑う鞠子おばあさん。なにかを感じたような、なにがしかの勘を働かせたかのような表情であった。
「ええとたしか・・・(箪笥から手探りで)あ、これや。」
鞠子が手探りで探した鍵は、神社の古文書などを納めたケースの鍵であった。
「本当は※橘さんとこの管理なんやけど。20年くらい前からうちが預かっとるんよ。」
※橘家=海家の分家
安村鞠子女史(89歳)
彼女が出版社より企画出版している戦争体験を綴ったその書籍は話題で、教育系(N○K)のテレビ局や新聞などが頻繁に彼女の自宅へと出入りしていた。今日の仕事は郷土資料館の企画で戦争体験の文字起こしを含めた聞き取り取材であった。そんななか十蔵は、眼が見えない彼女(鞠子氏)のするとある昔話に異様に食い付いてしまった。
「あ、あんた赤飯たべるぅ?チンすれば出来るやつがあるから、そこの引き出しに、うん。(鞠子)」
チン!(レンジの音)・・・
「うわーおいしそう!なんかすみません!(石井十蔵)」
「そう?こんなんそこのマタックス(スーパー)のやつよ。食べていいのいいの。だれも若い人は来ないんだから。もう~昔のことよォ。沢山はおぼえてないんだけれどごめんねー。その・・・・・」
「(一時間ほど経過)石上さんとこも金持ちやったんよ・・けど旧家のご両親が亡なくなって、息子さんが・・・。」
「名前はなんやったか、マーくんや、そうやあのマーくんが軍に招集礼状で行ったのが最後やったかな・・・。マーくん昔はよくうちにご飯を食べに来ていたんだよ。一緒に銭湯にも行ってたし。よく食べたねえ。」
(※マーくん=石上(カラス男)の幼少時のあだ名)
「いいひとだって、いたのにねえ。はあ。」
鞠子氏はため息をつく。
「だけどもーあんときゃ中学あがってから財産ごと持ってかれたりして。井上家の養子になったでしょお。井上さんとこのぼっちゃまがまーひどく扱ってねぇ、もうわたしも泣いて泣いて。あんときゃ時代がね。人間が人間じゃなかったからねえ。」
「ひぇー!その子そんなとこにいたんですか?!(石井十蔵)」
「うん多分記憶がただしけりゃね。井上さんとこの家の犬小屋に夜おって・・・。息子さんが精神に問題があって。何でかねえ、人じゃない鬼畜よあん人らは。可哀想でね。」
「虐待じゃないっすか・・・。(十蔵)」
「そんで闇市で妙ちきりんな商売したり、見世物小屋で客引きしてたとかもきくし。あーあと・・・。」
「えっ?!そんなのも・・(十蔵)」
「それくらいかな。(鞠子)」
うっ・・・
不快をもよおす十蔵の表情。
「ほ、ほんとに?!」
「いや本当に本当なんやから!ちょっとおかしな趣味のやつも通りにはいたのよォ~!たぶん貧乏でお金に眼が眩んでたんやろね。たぶん。マーくんも・・。あのときはそんげな男もおったから。(目をぬぐう鞠子)」
「人懐っこい子やったんよ。荒んで、
変わっちゃってね・・。なんかあったら私も坊っちゃんたちとかかわんのが怖くてねえ。」
「で坊っちゃんがさー、変死体で見つかってから大騒ぎになってね。鎌鼬(かまいたち)にやられたみたいに。」
「葬式でマーくん笑ってて。ご主人にぼこぼこにやられて。」
「何とかしてやれなかったかなーって。」
「ヤバかったんですねえ。当時は。(十蔵)」
「そう、ヤバかったのよお。いやジョーダンじゃなくって、本当に。(鞠子)」
お婆さんの昔話はあれよと脱線しいつしか彼女の祖先の絵師の話になっていた。
安村英彩というその絵師は児湯地方の秋月藩に支え、藩お抱えの絵師として神社の絵馬などを多数奉納した。
なかでも有名なのが付近の日奉神社(ひまつりじんじゃ)で、別宮の拝殿の天井画の黒髪の女性が夜になると抜け出すという言い伝えを、老婆は青年に語った。
「ちょっとお婆さん、その神社・・・大善さんって、・・・!」
「なに、あんた知ってるの?!そうそうそうよー!あ、なーんだあんた海さんとこの知り合いなの?!なーんだ私の知り合いじゃんせまいねえ田舎は!」
そう、日奉神社とは他でもないテルヒコ(海照彦)の祖父、大善の祖先、「海家」の祖神をまつった古社のことであった。
日神(天照御魂神/アマテルミタマノカミ)を祭る神社で、12キロ先に別宮を持つ。
神宝は「鏡」。大善が生涯通って古文書を研究した神社である。創建は戦国時代の中期とされているが、実際はかなり古く、戦国時代の大友宗麟の耳川の戦いの神社襲撃の被害を受け旧社殿といった「歴史」は焼失してしまっていた。古社たる微かな傍証として、別宮の山中に自然信仰を伝える「岩船」という神々の乗ったとされる岩石、滝のある祭拝場があり、本当の歴史は神話時代まで遡るともいわれる。
「こりゃ連絡せなならんぞ!まてよ・・・!あ、もしもしテルヒコか!お前いますぐこい!(十蔵)」
「(十蔵からの連絡を受け)え?!じいちゃんのことを知ってる人に会ったんですか?!すぐ向かいます!(テルヒコ)」
「あんたら興味あるようだけど・・・」
「行く?神社。」
ニヤリとしたり顔で笑う鞠子おばあさん。なにかを感じたような、なにがしかの勘を働かせたかのような表情であった。
「ええとたしか・・・(箪笥から手探りで)あ、これや。」
鞠子が手探りで探した鍵は、神社の古文書などを納めたケースの鍵であった。
「本当は※橘さんとこの管理なんやけど。20年くらい前からうちが預かっとるんよ。」
※橘家=海家の分家
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる