21 / 29
21. 種明かし
しおりを挟む
メイドさんたちの足音が遠ざかり、やがて聞こえなくなっても、私はその場からしばらく動けなかった。
(私が、ルイーズ様の、お妃候補……?)
頭の混乱して、グルグル回っていて思考がうまくまとまらない。ふと脳裏によみがえったのは、園遊会で第一隊長のゲネルさんにささやかれた言葉だった。
(勇者代理のお嬢さん、ご存知ですか? 現国王陛下は、当時ご自分の勇者代理だった方を、お嫁さんに迎えたんですよ)
よろけた体を、柱に手をついて支える。
(まさか、冗談でしょ。そんなこと不可能だ。身分だって詐称してるし、ただの清掃員だし、相手は雇用主だし……そうだ、今回だって単なる噂に違いない)
これまでだって、変な噂が立ったものだ。その主たる原因は、故意に噂を作り出した宰相様にあるが。
(ということは、今回の件もわざと宰相様が?)
今度は何の企みがあって、こんな話を捏造したのだろう。是非とも理由を聞かなくては。
自室へ戻る途中だったけど、予定を変更して執務室へと向かうことにした。先ほど寒さで震えていた体は、今や興奮気味のせいか、完全に温まり復活していた。
執務室をノックすると、すぐに中から入室を許可する声が聞こえた。
「……おや、あなたでしたか」
予想通り、執務室には書類を手にした宰相様が机に向かっていた。私の姿を見てもさして驚いた様子もなく、まるでここに来ることを予想していたみたいだった。
宰相様は、私の頭のてっぺんからつま先まですばやく目を走らせると、薄く笑って目を細めた。
「まるで春の妖精が舞い降りたかと思いましたよ」
「おかしな冗談はやめてもらっていいですか。真面目なお話があります」
「よろしい、では……そのような薄着をして、風邪など引かないように。先に着替えてから、こちらへ来ることは考えなかったのですか」
いつもの宰相様の口ぶりに、私は少しだけ落ち着きを取り戻すことができたが、気持ちはまだおさまりそうもない。ずかずかと部屋を横切って、勝手に宰相様の隣の椅子を引くと、ドカリと勢いよく腰を下ろした。
宰相様は、私の剣幕にも動じることなく、書類を置いて背もたれに体を預けると、ゆったりと足を組みかえた。
「あなたが話したいことは、おおかた予想がついてます。ルイーズ様の妃候補についてでしょう」
あっさりと言い当てられ、面食らってしまうとともに、なんだかムカムカしてきた。
「……今度はどういう理由で、あんなデマを流したんですか」
「デマ、とは?」
宰相様は眉をひそめると、私の顔をジッと見つめてきた。負けじと見つめ返すと、ふいと視線をそらされてしまった。
「簡潔に言いましょう。あなたはこの度、正式にルイーズ王子殿下の妃候補となりました」
私は目を見開き、それからガバッと立ち上がった。その時ドレスの裾を踏みつけてしまい、危うく倒れかけたところを、とっさに伸びた宰相様の腕に支えられてなんとか倒れずにすんだ。
「ドレス姿の時は、立ち居振舞いに気をつけてください。ま、そのうち慣れるでしょうけど」
「慣れるんですか私!? というか今のお話って冗談ですよね?」
「冗談ではありません。その証拠に、あなたが今寝起きしている部屋は、未来の王太子妃殿下の為に設えた居室です」
「なっ……!」
だからあんなに豪華な内装だったのか。ぼんやりしてるうちに、とんでもない部屋に入れられてしまった。
「冗談ですよね?」
「冗談ですますわけないでしょう。我々が、どれだけこの日を待ち望んでいたと思ってるんですか」
宰相様はやれやれの言わんばかりに、うんざりしたような表情を浮かべた。
「宰相様……そもそも私は仕事をする為に、この王宮に雇われたんですよね?」
「妃殿下にも公務があります。立派な職業ですよ」
「なっ……そ、そんな雇用条件じゃなかったと思いますけど!?」
「分かりませんか。状況は変わったのです」
私はあきれて、開いた口が塞がらなかった。乱暴というか、めちゃくちゃな理屈としか思えない。
「ここまでの道のりは、決して容易ではありませんでした」
宰相様は「まあお座りなさい」と言って、ゆっくりと語り出した。
「ルイーズ様は、幼い頃から利発で何事においても優秀な、まさに文武両道を地で行く方です。しかし自立心旺盛ゆえに、己の能力を過信し過ぎるきらいがある。まあ若さゆえ、ある程度はしかたないでしょう」
「はあ……」
「一方、我々は長年に渡って、ルイーズ様の妃候補を密かに選抜してきました。血筋はもちろん、未来のシェルベルン王妃としての資質を備える、聡明な姫でなければなりません」
そこで私は、すかさず横槍を入れさせてもらった。
「あのー、その王妃の条件って、私には何ひとつ当てはまりませんよね?」
私のもっともな指摘に対し、宰相様は軽く眉を持ち上げただけだ。
「問題ありません。あなたの人となりは、間近で仕事を見ていた私が一番よく知ってます。当然、王宮で働く他の者と同様、身元調査も行わせてもらいました」
身元調査とか、普段あまり聞き慣れない単語が出てきたけど、なんといってもここは王宮だ。普通の職場とはわけが違う。王族のそばで仕事するなら、従業員の身元くらい調べても不思議じゃない。
ただ私の身元にも職務経歴にも、なにも後ろ暗いところはない代わりに、特筆すべきものは何もない。スキルも特技も学歴も極めて凡庸で、特殊能力なんてものもない。
「身元を調べたのなら、なおさらお分かりでしょう。私には王太子妃なんて、そんな大層で身分不相応で非現実的な役職、とても無理ですって」
「無理は承知の上です」
宰相様は席を立つと、窓辺に近づいて外を眺める。その憂いを含む横顔は、演技でも冗談でもなさそうに見えた。
「ルイーズ様が、はじめてあなたと出会ったのは、今から五年前に遡ります……当時あなたは、この王宮で開催された算術大会に、ナーダム地区代表として参加されましたね?」
意外な過去を引っぱり出されて、私は目を瞬いた。
(それって学生時代の話だよなあ……十五歳の頃だ)
まだまだ世間知らずの子どもで、夜行馬車で寝たことと、大会中必死に問題を解いた記憶しかない。それに申し訳ないけど、ルイーズ様に出会ったとか、全然思い出せない。
「あなたは、あの大会で王都グランダール代表の強豪選手を打ち破って優勝した」
「はあ」
「そのグランダール代表が、当時十八歳のルイーズ様でした」
「え、そうだったんですか」
私は記憶の糸を必死に手繰り寄せてみたが、大会中はとにかく試合のことで頭が一杯だったので、ルイーズ様どころか参加者の誰の顔も覚えてない。
宰相様があきらめたような呆れたような、至極残念そうな表情を浮かべた。
「あなたはルイーズ様のライバルであり、憧れだったんですよ。まあ、あなたは全く意識されてなかったようですけど」
「……なんか、すいません」
「いえ、仕方ないことです。とにかくルイーズ様は、大会中にライバルのあなたに恋をした。試合後の優勝トロフィーを渡す際に、ルイーズ様からお言葉があったことを憶えてますか」
私は恐縮のあまり、体を小さくするしかなかった。悪いけど全く記憶にない。なんていっても、少ない予算で馬車に乗って遠路はるばるやってきたものだから、試合後はグッタリ疲れてしまって半分脳が眠っていたのだ。
「ルイーズ様はあなたに『近い将来、必ずまた会おう』と告げられ、あなたはそれに対して『よろこんで』と答えた」
「……はあ」
「それがルイーズ様なりのプロポーズだったようです」
「はあっ!?」
また会おうって、普通に『次の試合で会いましょう』って意味じゃないの?
「それはちょっと……さすがに気づきませんでした」
「でしょうね。我々もルイーズ様のお気持ちを察しながらも『あ、これは全く伝わってないな』と思ってました」
宰相様は沈痛な面持ちで、両こめかみを指ではさみこむように押している。
「しかしこの機会をむざむざ見逃すわけにはいかないと、我々は早急にプロジェクトチームを結成しました」
「は、はあ」
「まずはあなたの出自を、何代にも遡って徹底的に調べ上げるところから始まりました。そしてようやくあなたの母方の八代前の遠縁が、私のレードル家の遠縁と繋がりがあることを突き止めたのです。とりあえず血筋という、第一関門を突破できたので、そこから一気に計画は進みました」
え、なにそれ怖い、と素直に思った。
(宰相様の遠縁って、作り話じゃなかったんだ……)
だが、それを口に出す勇気はなかった。
「そしてさらなる調査の結果、あなたの兄ロイ・クラルテが王都に在住していると突き止めたので、第一ギルトの隊長に接触するよう密かに命じ、懇意になった後にうまく帰郷を促して、あなたを王都に向かわせる計画を持ちかけたのです」
「えええええっ!?」
私は驚きのあまり、椅子から転げ落ちた。正確に言うと、驚きのあまり椅子から立ち上がりかけて、またもやスカートの裾を踏み、今度こそつんのめってそのまま転倒してしまった。
(お兄ちゃんもこの計画に加担してたの!?)
テーブルに手を掛けて、なんとか床から這い上がると、助けようと隣にやってきた宰相様につかみかかった。
「じゃ、じゃあ……私が王都に来ることも、知ってたんですか」
「もちろん。馬車の到着時刻だって分かってました。道中、部下の一人に後をつけてさせていましたので」
「!」
宰相様はゆっくりと私の手を振りほどくと、放心状態の私を再び椅子に座らせてくれた。
「あなたが王都に到着したら、第一ギルト隊長のゲネルに保護させ、王宮へ連れてくる予定だったのに……焦ったルイーズ様が、勝手にあなたを迎えに行ってしまうから困ったものです」
そんな用意周到な計画を立ててたとほは。しかもルイーズ様が、それを壊して勝手に私を迎えに行っただと?
(あの日はたしか、王都に到着した足で役所に向かったっけ。そこでルイーズ様に声をかけられて、すぐに仕事を紹介されたんだ)
王都に辿り着いたばかりで疲れていたけど、早く求人募集が見たくて、宿にも寄らずに役所へ向かった。そこで求職者用の記入用紙を見つけたから、書きこんでボードに貼り付けたら、いきなり現れた男の人に即効取られて……それがルイーズ様だった。
『これ、君のことであってるよね?』
『はいっ、私のことです! 仕事が必要なんです……』
『じゃあ、面接しよっか。ついてきて』
(なんてこった……どうりでタイミングがよかったわけだ)
私はテーブルに両肘をつくと、頭を抱えた。
「じゃあ、もしかして、勇者代理の仕事って……」
ある仮説が頭に浮かんで、そろりと顔を上げると、腕組みする宰相様と目が合った。
「そんなもの、あるわけないでしょう。『勇者代理』なんて仕事」
(私が、ルイーズ様の、お妃候補……?)
頭の混乱して、グルグル回っていて思考がうまくまとまらない。ふと脳裏によみがえったのは、園遊会で第一隊長のゲネルさんにささやかれた言葉だった。
(勇者代理のお嬢さん、ご存知ですか? 現国王陛下は、当時ご自分の勇者代理だった方を、お嫁さんに迎えたんですよ)
よろけた体を、柱に手をついて支える。
(まさか、冗談でしょ。そんなこと不可能だ。身分だって詐称してるし、ただの清掃員だし、相手は雇用主だし……そうだ、今回だって単なる噂に違いない)
これまでだって、変な噂が立ったものだ。その主たる原因は、故意に噂を作り出した宰相様にあるが。
(ということは、今回の件もわざと宰相様が?)
今度は何の企みがあって、こんな話を捏造したのだろう。是非とも理由を聞かなくては。
自室へ戻る途中だったけど、予定を変更して執務室へと向かうことにした。先ほど寒さで震えていた体は、今や興奮気味のせいか、完全に温まり復活していた。
執務室をノックすると、すぐに中から入室を許可する声が聞こえた。
「……おや、あなたでしたか」
予想通り、執務室には書類を手にした宰相様が机に向かっていた。私の姿を見てもさして驚いた様子もなく、まるでここに来ることを予想していたみたいだった。
宰相様は、私の頭のてっぺんからつま先まですばやく目を走らせると、薄く笑って目を細めた。
「まるで春の妖精が舞い降りたかと思いましたよ」
「おかしな冗談はやめてもらっていいですか。真面目なお話があります」
「よろしい、では……そのような薄着をして、風邪など引かないように。先に着替えてから、こちらへ来ることは考えなかったのですか」
いつもの宰相様の口ぶりに、私は少しだけ落ち着きを取り戻すことができたが、気持ちはまだおさまりそうもない。ずかずかと部屋を横切って、勝手に宰相様の隣の椅子を引くと、ドカリと勢いよく腰を下ろした。
宰相様は、私の剣幕にも動じることなく、書類を置いて背もたれに体を預けると、ゆったりと足を組みかえた。
「あなたが話したいことは、おおかた予想がついてます。ルイーズ様の妃候補についてでしょう」
あっさりと言い当てられ、面食らってしまうとともに、なんだかムカムカしてきた。
「……今度はどういう理由で、あんなデマを流したんですか」
「デマ、とは?」
宰相様は眉をひそめると、私の顔をジッと見つめてきた。負けじと見つめ返すと、ふいと視線をそらされてしまった。
「簡潔に言いましょう。あなたはこの度、正式にルイーズ王子殿下の妃候補となりました」
私は目を見開き、それからガバッと立ち上がった。その時ドレスの裾を踏みつけてしまい、危うく倒れかけたところを、とっさに伸びた宰相様の腕に支えられてなんとか倒れずにすんだ。
「ドレス姿の時は、立ち居振舞いに気をつけてください。ま、そのうち慣れるでしょうけど」
「慣れるんですか私!? というか今のお話って冗談ですよね?」
「冗談ではありません。その証拠に、あなたが今寝起きしている部屋は、未来の王太子妃殿下の為に設えた居室です」
「なっ……!」
だからあんなに豪華な内装だったのか。ぼんやりしてるうちに、とんでもない部屋に入れられてしまった。
「冗談ですよね?」
「冗談ですますわけないでしょう。我々が、どれだけこの日を待ち望んでいたと思ってるんですか」
宰相様はやれやれの言わんばかりに、うんざりしたような表情を浮かべた。
「宰相様……そもそも私は仕事をする為に、この王宮に雇われたんですよね?」
「妃殿下にも公務があります。立派な職業ですよ」
「なっ……そ、そんな雇用条件じゃなかったと思いますけど!?」
「分かりませんか。状況は変わったのです」
私はあきれて、開いた口が塞がらなかった。乱暴というか、めちゃくちゃな理屈としか思えない。
「ここまでの道のりは、決して容易ではありませんでした」
宰相様は「まあお座りなさい」と言って、ゆっくりと語り出した。
「ルイーズ様は、幼い頃から利発で何事においても優秀な、まさに文武両道を地で行く方です。しかし自立心旺盛ゆえに、己の能力を過信し過ぎるきらいがある。まあ若さゆえ、ある程度はしかたないでしょう」
「はあ……」
「一方、我々は長年に渡って、ルイーズ様の妃候補を密かに選抜してきました。血筋はもちろん、未来のシェルベルン王妃としての資質を備える、聡明な姫でなければなりません」
そこで私は、すかさず横槍を入れさせてもらった。
「あのー、その王妃の条件って、私には何ひとつ当てはまりませんよね?」
私のもっともな指摘に対し、宰相様は軽く眉を持ち上げただけだ。
「問題ありません。あなたの人となりは、間近で仕事を見ていた私が一番よく知ってます。当然、王宮で働く他の者と同様、身元調査も行わせてもらいました」
身元調査とか、普段あまり聞き慣れない単語が出てきたけど、なんといってもここは王宮だ。普通の職場とはわけが違う。王族のそばで仕事するなら、従業員の身元くらい調べても不思議じゃない。
ただ私の身元にも職務経歴にも、なにも後ろ暗いところはない代わりに、特筆すべきものは何もない。スキルも特技も学歴も極めて凡庸で、特殊能力なんてものもない。
「身元を調べたのなら、なおさらお分かりでしょう。私には王太子妃なんて、そんな大層で身分不相応で非現実的な役職、とても無理ですって」
「無理は承知の上です」
宰相様は席を立つと、窓辺に近づいて外を眺める。その憂いを含む横顔は、演技でも冗談でもなさそうに見えた。
「ルイーズ様が、はじめてあなたと出会ったのは、今から五年前に遡ります……当時あなたは、この王宮で開催された算術大会に、ナーダム地区代表として参加されましたね?」
意外な過去を引っぱり出されて、私は目を瞬いた。
(それって学生時代の話だよなあ……十五歳の頃だ)
まだまだ世間知らずの子どもで、夜行馬車で寝たことと、大会中必死に問題を解いた記憶しかない。それに申し訳ないけど、ルイーズ様に出会ったとか、全然思い出せない。
「あなたは、あの大会で王都グランダール代表の強豪選手を打ち破って優勝した」
「はあ」
「そのグランダール代表が、当時十八歳のルイーズ様でした」
「え、そうだったんですか」
私は記憶の糸を必死に手繰り寄せてみたが、大会中はとにかく試合のことで頭が一杯だったので、ルイーズ様どころか参加者の誰の顔も覚えてない。
宰相様があきらめたような呆れたような、至極残念そうな表情を浮かべた。
「あなたはルイーズ様のライバルであり、憧れだったんですよ。まあ、あなたは全く意識されてなかったようですけど」
「……なんか、すいません」
「いえ、仕方ないことです。とにかくルイーズ様は、大会中にライバルのあなたに恋をした。試合後の優勝トロフィーを渡す際に、ルイーズ様からお言葉があったことを憶えてますか」
私は恐縮のあまり、体を小さくするしかなかった。悪いけど全く記憶にない。なんていっても、少ない予算で馬車に乗って遠路はるばるやってきたものだから、試合後はグッタリ疲れてしまって半分脳が眠っていたのだ。
「ルイーズ様はあなたに『近い将来、必ずまた会おう』と告げられ、あなたはそれに対して『よろこんで』と答えた」
「……はあ」
「それがルイーズ様なりのプロポーズだったようです」
「はあっ!?」
また会おうって、普通に『次の試合で会いましょう』って意味じゃないの?
「それはちょっと……さすがに気づきませんでした」
「でしょうね。我々もルイーズ様のお気持ちを察しながらも『あ、これは全く伝わってないな』と思ってました」
宰相様は沈痛な面持ちで、両こめかみを指ではさみこむように押している。
「しかしこの機会をむざむざ見逃すわけにはいかないと、我々は早急にプロジェクトチームを結成しました」
「は、はあ」
「まずはあなたの出自を、何代にも遡って徹底的に調べ上げるところから始まりました。そしてようやくあなたの母方の八代前の遠縁が、私のレードル家の遠縁と繋がりがあることを突き止めたのです。とりあえず血筋という、第一関門を突破できたので、そこから一気に計画は進みました」
え、なにそれ怖い、と素直に思った。
(宰相様の遠縁って、作り話じゃなかったんだ……)
だが、それを口に出す勇気はなかった。
「そしてさらなる調査の結果、あなたの兄ロイ・クラルテが王都に在住していると突き止めたので、第一ギルトの隊長に接触するよう密かに命じ、懇意になった後にうまく帰郷を促して、あなたを王都に向かわせる計画を持ちかけたのです」
「えええええっ!?」
私は驚きのあまり、椅子から転げ落ちた。正確に言うと、驚きのあまり椅子から立ち上がりかけて、またもやスカートの裾を踏み、今度こそつんのめってそのまま転倒してしまった。
(お兄ちゃんもこの計画に加担してたの!?)
テーブルに手を掛けて、なんとか床から這い上がると、助けようと隣にやってきた宰相様につかみかかった。
「じゃ、じゃあ……私が王都に来ることも、知ってたんですか」
「もちろん。馬車の到着時刻だって分かってました。道中、部下の一人に後をつけてさせていましたので」
「!」
宰相様はゆっくりと私の手を振りほどくと、放心状態の私を再び椅子に座らせてくれた。
「あなたが王都に到着したら、第一ギルト隊長のゲネルに保護させ、王宮へ連れてくる予定だったのに……焦ったルイーズ様が、勝手にあなたを迎えに行ってしまうから困ったものです」
そんな用意周到な計画を立ててたとほは。しかもルイーズ様が、それを壊して勝手に私を迎えに行っただと?
(あの日はたしか、王都に到着した足で役所に向かったっけ。そこでルイーズ様に声をかけられて、すぐに仕事を紹介されたんだ)
王都に辿り着いたばかりで疲れていたけど、早く求人募集が見たくて、宿にも寄らずに役所へ向かった。そこで求職者用の記入用紙を見つけたから、書きこんでボードに貼り付けたら、いきなり現れた男の人に即効取られて……それがルイーズ様だった。
『これ、君のことであってるよね?』
『はいっ、私のことです! 仕事が必要なんです……』
『じゃあ、面接しよっか。ついてきて』
(なんてこった……どうりでタイミングがよかったわけだ)
私はテーブルに両肘をつくと、頭を抱えた。
「じゃあ、もしかして、勇者代理の仕事って……」
ある仮説が頭に浮かんで、そろりと顔を上げると、腕組みする宰相様と目が合った。
「そんなもの、あるわけないでしょう。『勇者代理』なんて仕事」
1
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された悪役令嬢は王子様に溺愛される
白雪みなと
恋愛
「彼女ができたから婚約破棄させてくれ」正式な結婚まであと二年というある日、婚約破棄から告げられたのは婚約破棄だった。だけど、なぜか数時間後に王子から溺愛されて!?
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
私、女王にならなくてもいいの?
gacchi
恋愛
他国との戦争が続く中、女王になるために頑張っていたシルヴィア。16歳になる直前に父親である国王に告げられます。「お前の結婚相手が決まったよ。」「王配を決めたのですか?」「お前は女王にならないよ。」え?じゃあ、停戦のための政略結婚?え?どうしてあなたが結婚相手なの?5/9完結しました。ありがとうございました。
【完結】ふしだらな母親の娘は、私なのでしょうか?
イチモンジ・ルル
恋愛
奪われ続けた少女に届いた未知の熱が、すべてを変える――
「ふしだら」と汚名を着せられた母。
その罪を背負わされ、虐げられてきた少女ノンナ。幼い頃から政略結婚に縛られ、美貌も才能も奪われ、父の愛すら失った彼女。だが、ある日奪われた魔法の力を取り戻し、信じられる仲間と共に立ち上がる。
歪められた世界で、隠された真実を暴き、奪われた人生を新たな未来に変えていく。
――これは、過去の呪縛に立ち向かい、愛と希望を掴み、自らの手で未来を切り開く少女の戦いと成長の物語――
旧タイトル ふしだらと言われた母親の娘は、実は私ではありません
他サイトにも投稿。
【完結】もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~
鬼ヶ咲あちたん
恋愛
内容も知らない乙女ゲームの世界に転生してしまった悪役令嬢は、ヒロインや攻略対象者たちを放って今日も生徒会活動に勤しむ。もったいないおばけは日本人の心! まだ使える物を捨ててしまうなんて、もったいないですわ! 悪役令嬢が取り組む『もったいない革命』に、だんだん生徒会役員たちは巻き込まれていく。「このゲームのヒロインは私なのよ!?」荒れるヒロインから一方的に恨まれる悪役令嬢はどうなってしまうのか?
夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話
束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。
クライヴには想い人がいるという噂があった。
それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。
晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる