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19. 王都へ帰還
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それからほどなくして、私はルイーズ様と共に騎乗の人となり、王都へ向けて出発した。当然だが私は一人で馬に乗れない為、ルイーズ様の前に乗せてもらった。
道中、私たちは終始無言だった。私としては気まずかったのもあるけど、初めて乗る馬は想像以上に揺れて、下手に話すと舌を噛みそうだったから、とても会話など出来そうになかった。
朝日を浴びて金色に輝く畦道を駆け抜けていると、地平線まで広がる緑の田畑がすがすがしく、空との鮮やかなコントラストが目にまぶしい。
(綺麗だなあ……)
うっとりしていたら、ふと腰に回される腕が強くなった。顔を上げると、背後のルイーズ様が私を見つめて微笑んでいた。あわてて前を向いたけど、密着する背中から心臓の音が聞こえやしないか心配だ。
馬の速さは想像以上で、驚くほど短時間で王都の門を駆け抜けていった。そして門をくぐると、王宮の裏門に到着するまで、さほど時間はかからなかった。
(もう着いちゃった……)
ルイーズ様は裏門の前で馬を止めるなり、ヒラリと地上に降り立った。そして馬上の私に手を差し伸べる。
「そんな残念そうな顔をしなくても、また乗せてあげるよ」
どうやら思いの外、乗馬を楽しんでいたようだ。名残惜しさが顔に出てたようで恥ずかしい。私は大人しくルイーズ様の手を取って、馬から飛び降りた。
「おかえりなさいませ」
裏門の扉を開けて出迎えてくれたのは、なんと宰相様だった。しかも隣にはノーラさんもいて、私たちの姿にホッとした表情を浮かべていた。
宰相様は、チラリと私に視線を向けただけで、特に何も言わなかった。代わりにルイーズ様に向かって、淡々と話しかけた。
「ご予定していたより、ずいぶんとお早いお戻りでしたね」
「まあね。すぐに休みたいところだけど、その前に少し話したいことがある」
そこでルイーズ様は、私の肩をそっと押した。
「君は、先に休むといいよ」
ルイーズ様はそう言い残すと、宰相様と連れ立って、足早に宮殿の奥へ行ってしまった。
すると、横で控えていたノーラさんが、私の手を取って微笑んだ。
「ヨリ、無事だったのね……心配したわ」
「ノーラさん……」
今回の件について、ノーラさんはどこまで知っているのか分からない。でも心配かけてしまったことは確かで、私は申し訳なさにうなだれてしまう。
「さあ、私たちも中へ入りましょう。まだ朝も早いことだし、体が冷えてしまうわ」
ノーラさんの案内で連れてこられたのは、優雅で装飾が施された、どこかのゲストルームみたいな部屋だった。
(え、まさか……勝手に城を抜け出した罰として、今からこの部屋を掃除しろっていうんじゃないでしょうね!?)
徹夜明けでクタクタだから、せめて先に少しだけでも眠らせてもらえないだろうか……そんなことを考えていたら、ノーラさんに急き立てられて、浴室に押し込められた。
「え、え? あのー……」
「ちゃんと洗うのよ。着替えは外に置いとくわね」
ノーラさんに扉越しにそう言われ、困惑気味に自分自身を見下ろした。着ていたワンピースは、すっかり汚れてしまっている。
(なるほど……こんな姿で掃除しても、逆に汚しちゃうか)
納得した私は、大人しく用意されたお湯と石鹸で手早く全身を洗うと、濡れたついでに湯船の中を掃除して浴室を出てきた。
さっそく作業着に着替えようと、用意してもらった服を手にしたら、それはどう見ても寝間着にしか見えないワンピースだった。
何かの間違いかな、と仕方なくそれを身につけて浴室を出ると、待ち構えていたノーラさんに、またまた追い立てられるように寝室へと押し込められてしまう。
「じゃあ、ゆっくり休んでね。おやすみなさい」
「え、え、ちょっと……」
パタン、と扉が閉じられて一人きりにされてしまった。厚手のカーテンが引かれているせいか、室内は夜が明けたというのに薄闇に包まれていて、しかも背後にはフカフカのベッドがドンと鎮座している。この誘惑にあらがうことは、徹夜明けの私には到底無理だ。
(もう限界だ……少し眠ってもいいみたいだから、お言葉に甘えさせてもらおう……)
よっぽど疲れていたのか、ベッドに入って目を閉じた途端、深い眠りに落ちていった。
目が覚めると、日はまだ高かった。
遮光率の高そうな厚手のカーテン越しでも分かる明るい日差しに、反射的に時計を探していた。
マントルピースの上に飾られた時計らしきものに近づき、暗がりの中で目を凝らす。時刻は十二時を回ったところだった。
(まずい……このままじゃ、昼の仕事にも遅刻してしまう!)
ベッドメイクしながら、この後どうしようか考える。一度部屋に戻りたいけど、このゲストルームが王宮のどの位置にあるのか、それすらも分かってなかった。
(困ったなあ。この格好で、廊下を歩くわけにもいかないし……)
カーテンを引いて室内を明るくした。部屋の中には、素晴らしい装飾が施されたクローゼットがあった。もちろん、ここに自分の着れる服があるとは思えない。
そうっと寝室の扉を開くと、続き部屋の応接室だった。人影はなく、美しく配置された内装だけが目につく。
(そうだ、昨日着た服があった)
せっかくお風呂まで入ったのに、汚れた服に着替えるのは微妙だけど、自分の部屋に戻るためにはそうするしかない。
さっそく浴室をのぞいてみたが、残念ながら服はどこにも見当たらなかった。誰かが片付けてくれたのだろうか……服だけ、部屋に返されてしまったのか。
(どうしよう)
軽く動揺しつつ寝室に戻り、藁をすがる気持ちでクローゼットを開いてみた。やはりというか、中は空っぽだった。
再びトボトボと応接室へ戻り、弱り果ててグッタリとソファーに座り込んでいたら、部屋の外から足音が近づいてきた。
顔を上げると、静かに扉が開いた。現れたのはノーラさんだった。
「あら起きてたの! 着替えに困ったでしょう、ベルで呼んでくれればよかったのに」
「ベル……?」
彼女の指し示す『ベル』は、ちょうど目の前のテーブルに置かれた、金色の呼び鈴のことだろうか。これは、泊まったゲストがメイドさんを呼ぶ時に使うやつだ。当然、私たちが使っていいシロモノではない。
困惑気味にノーラさんを見上げると、なぜか『慣れてないと使いづらいわよね』と苦笑されてしまった。
「そろそろお腹が空く頃だと思って、食事を運んできたわ。すぐに用意するから少し待っててね」
「え、て、手伝います?」
するとノーラさんは「あなたは座ってていいから」と、ソファーに押し戻されてしまった。
ノーラさんは手際良くテーブルを準備すると、私に椅子に座るよう勧めてくれた。
(な、何が起こってるの……?)
腰が引けている私を、ノーラさんは強引にテーブルに着かせると、素晴らしい朝食の給仕を始めた。何か手の込んだいたずらか試験だろうか?
「ほら、せっかくのお粥が冷めちゃうわよ」
「はいっ、いただきます」
温かいミルク粥に、ほんの少し金色に輝く蜂蜜を垂らされた。緊張気味にスプーンですくって食べてみると、優しい味が口に広がった。おいしい。
傍らのカップには温かいお茶が湯気を立てていて、目の前には香ばしい焼きたてのパンが籠一杯に盛り上げられている。これはきっとルイーズ様からのお気遣いだろうけど、なんだか妙に贅沢すぎて、落ち着かない。
こうして一夜明けると、昨日の出来事が夢か幻のように思えたが、目が覚めてから今の状況だって、夢の続きか何かに思えるほど非現実的だ。
「あのう、そろそろお仕事をはじめようかと思うんですが……」
「え、お仕事?」
「はい、ゆっくり休めたので。お腹も満たされましたし、すぐにでも動けますけど……」
ノーラさんは、お茶が入ったポットを手に首を傾げた。
「うーん……今のところ、すぐにできそうな仕事はないんじゃないかしら。気になるのなら、殿下にうかがってみましょうか」
「そう、ですね。いや、殿下ですか……お忙しいと思いますから、お部屋で待機してます」
「そうね、もう少しゆっくりしてた方がいいわ。だいぶご心配されてたようだから。後で、何かつまめるものを運ぶからら、そこのソファーでくつろいでてちょうだい」
どうやら、この部屋にいなくてはならないらしい。
(まさか……これは監視の為? もしかして閉じ込められてる?)
どうやら軟禁状態らしい。きっと私は、秘密を知りすぎたのだ……思えばルイーズ様や宰相様の近くで、いろんな秘密を知りすぎた。
(どの情報が重要とか、よく分からないな……でもそれがまずいんだろうなあ)
うかつに口に出したらダメな話があるのだろうけど、どれがダメだか判断できない中、しばらくは監視状態が続くに違いない。
(ああ、やはりうまい話には裏があった……)
きっかけは園遊会のような気がするが、おそらく王宮にスカウトされた時から、はじまっていたのだろう。身分の高い人の近くで仕事をすれば、どうしたって機密情報に触れる機会がある。遅かれ早かれ、こうなってしまったはずだ。
(こうなったら、早く宰相様と会って話をつけなければ)
どういった言動に気をつけるべきか、これまで知っちゃった情報の機密レベルとか、いろいろ教わって早めにこの軟禁状態から許してもらいたい。
「宰相様とお会いしたいんですけど、いつなら会ってもらえるか、どこで確認できるでしょうか」
「宰相様? ルイーズ殿下ではなくて?」
「宰相様です」
ノーラさんは、食事を終えたら確認すると約束してくれた。それから労わるような口調で、優しく語りかけてきた。
「昨夜は、ものすごく大変だったと聞いているわ。ヨリはもう少しゆっくりお休みした方がいいと、宰相様もおっしゃられてたの」
「そうなんですか……いや、もう体力的には平気なんですけど」
「でも、ルイーズ様は、早くあなたに会って、お話ししたがっていたわ」
そういや、私に話があるとか言ってたことを思い出す。
(やっぱり、勝手に王宮抜け出して、追いかけてきたことを言われるんだろうな……なんかペナルティーとか課されるのかな。給料減額されたりして)
私の心配をよそに、ノーラさんはソファーの前のテーブルに、果実水の瓶やら焼き菓子の皿やらごっそり並べると「何かあったら今度こそベルを使ってね」と言い残して、部屋を出ていった。
再び部屋にひとり残された私は、再びガックリとソファーに身を沈めた。
(早く、宰相様と話したい……)
それで、軟禁状態のわりには不自然なほどの高待遇なのはどうしてなのか、理由を聞きたい。まさか口止め料とか?
それに、仮に軟禁状態が解けたとして、私の処遇はどうなる? 仕事は? 雇用は? いきなりリストラとか、されなきゃいいけど。
道中、私たちは終始無言だった。私としては気まずかったのもあるけど、初めて乗る馬は想像以上に揺れて、下手に話すと舌を噛みそうだったから、とても会話など出来そうになかった。
朝日を浴びて金色に輝く畦道を駆け抜けていると、地平線まで広がる緑の田畑がすがすがしく、空との鮮やかなコントラストが目にまぶしい。
(綺麗だなあ……)
うっとりしていたら、ふと腰に回される腕が強くなった。顔を上げると、背後のルイーズ様が私を見つめて微笑んでいた。あわてて前を向いたけど、密着する背中から心臓の音が聞こえやしないか心配だ。
馬の速さは想像以上で、驚くほど短時間で王都の門を駆け抜けていった。そして門をくぐると、王宮の裏門に到着するまで、さほど時間はかからなかった。
(もう着いちゃった……)
ルイーズ様は裏門の前で馬を止めるなり、ヒラリと地上に降り立った。そして馬上の私に手を差し伸べる。
「そんな残念そうな顔をしなくても、また乗せてあげるよ」
どうやら思いの外、乗馬を楽しんでいたようだ。名残惜しさが顔に出てたようで恥ずかしい。私は大人しくルイーズ様の手を取って、馬から飛び降りた。
「おかえりなさいませ」
裏門の扉を開けて出迎えてくれたのは、なんと宰相様だった。しかも隣にはノーラさんもいて、私たちの姿にホッとした表情を浮かべていた。
宰相様は、チラリと私に視線を向けただけで、特に何も言わなかった。代わりにルイーズ様に向かって、淡々と話しかけた。
「ご予定していたより、ずいぶんとお早いお戻りでしたね」
「まあね。すぐに休みたいところだけど、その前に少し話したいことがある」
そこでルイーズ様は、私の肩をそっと押した。
「君は、先に休むといいよ」
ルイーズ様はそう言い残すと、宰相様と連れ立って、足早に宮殿の奥へ行ってしまった。
すると、横で控えていたノーラさんが、私の手を取って微笑んだ。
「ヨリ、無事だったのね……心配したわ」
「ノーラさん……」
今回の件について、ノーラさんはどこまで知っているのか分からない。でも心配かけてしまったことは確かで、私は申し訳なさにうなだれてしまう。
「さあ、私たちも中へ入りましょう。まだ朝も早いことだし、体が冷えてしまうわ」
ノーラさんの案内で連れてこられたのは、優雅で装飾が施された、どこかのゲストルームみたいな部屋だった。
(え、まさか……勝手に城を抜け出した罰として、今からこの部屋を掃除しろっていうんじゃないでしょうね!?)
徹夜明けでクタクタだから、せめて先に少しだけでも眠らせてもらえないだろうか……そんなことを考えていたら、ノーラさんに急き立てられて、浴室に押し込められた。
「え、え? あのー……」
「ちゃんと洗うのよ。着替えは外に置いとくわね」
ノーラさんに扉越しにそう言われ、困惑気味に自分自身を見下ろした。着ていたワンピースは、すっかり汚れてしまっている。
(なるほど……こんな姿で掃除しても、逆に汚しちゃうか)
納得した私は、大人しく用意されたお湯と石鹸で手早く全身を洗うと、濡れたついでに湯船の中を掃除して浴室を出てきた。
さっそく作業着に着替えようと、用意してもらった服を手にしたら、それはどう見ても寝間着にしか見えないワンピースだった。
何かの間違いかな、と仕方なくそれを身につけて浴室を出ると、待ち構えていたノーラさんに、またまた追い立てられるように寝室へと押し込められてしまう。
「じゃあ、ゆっくり休んでね。おやすみなさい」
「え、え、ちょっと……」
パタン、と扉が閉じられて一人きりにされてしまった。厚手のカーテンが引かれているせいか、室内は夜が明けたというのに薄闇に包まれていて、しかも背後にはフカフカのベッドがドンと鎮座している。この誘惑にあらがうことは、徹夜明けの私には到底無理だ。
(もう限界だ……少し眠ってもいいみたいだから、お言葉に甘えさせてもらおう……)
よっぽど疲れていたのか、ベッドに入って目を閉じた途端、深い眠りに落ちていった。
目が覚めると、日はまだ高かった。
遮光率の高そうな厚手のカーテン越しでも分かる明るい日差しに、反射的に時計を探していた。
マントルピースの上に飾られた時計らしきものに近づき、暗がりの中で目を凝らす。時刻は十二時を回ったところだった。
(まずい……このままじゃ、昼の仕事にも遅刻してしまう!)
ベッドメイクしながら、この後どうしようか考える。一度部屋に戻りたいけど、このゲストルームが王宮のどの位置にあるのか、それすらも分かってなかった。
(困ったなあ。この格好で、廊下を歩くわけにもいかないし……)
カーテンを引いて室内を明るくした。部屋の中には、素晴らしい装飾が施されたクローゼットがあった。もちろん、ここに自分の着れる服があるとは思えない。
そうっと寝室の扉を開くと、続き部屋の応接室だった。人影はなく、美しく配置された内装だけが目につく。
(そうだ、昨日着た服があった)
せっかくお風呂まで入ったのに、汚れた服に着替えるのは微妙だけど、自分の部屋に戻るためにはそうするしかない。
さっそく浴室をのぞいてみたが、残念ながら服はどこにも見当たらなかった。誰かが片付けてくれたのだろうか……服だけ、部屋に返されてしまったのか。
(どうしよう)
軽く動揺しつつ寝室に戻り、藁をすがる気持ちでクローゼットを開いてみた。やはりというか、中は空っぽだった。
再びトボトボと応接室へ戻り、弱り果ててグッタリとソファーに座り込んでいたら、部屋の外から足音が近づいてきた。
顔を上げると、静かに扉が開いた。現れたのはノーラさんだった。
「あら起きてたの! 着替えに困ったでしょう、ベルで呼んでくれればよかったのに」
「ベル……?」
彼女の指し示す『ベル』は、ちょうど目の前のテーブルに置かれた、金色の呼び鈴のことだろうか。これは、泊まったゲストがメイドさんを呼ぶ時に使うやつだ。当然、私たちが使っていいシロモノではない。
困惑気味にノーラさんを見上げると、なぜか『慣れてないと使いづらいわよね』と苦笑されてしまった。
「そろそろお腹が空く頃だと思って、食事を運んできたわ。すぐに用意するから少し待っててね」
「え、て、手伝います?」
するとノーラさんは「あなたは座ってていいから」と、ソファーに押し戻されてしまった。
ノーラさんは手際良くテーブルを準備すると、私に椅子に座るよう勧めてくれた。
(な、何が起こってるの……?)
腰が引けている私を、ノーラさんは強引にテーブルに着かせると、素晴らしい朝食の給仕を始めた。何か手の込んだいたずらか試験だろうか?
「ほら、せっかくのお粥が冷めちゃうわよ」
「はいっ、いただきます」
温かいミルク粥に、ほんの少し金色に輝く蜂蜜を垂らされた。緊張気味にスプーンですくって食べてみると、優しい味が口に広がった。おいしい。
傍らのカップには温かいお茶が湯気を立てていて、目の前には香ばしい焼きたてのパンが籠一杯に盛り上げられている。これはきっとルイーズ様からのお気遣いだろうけど、なんだか妙に贅沢すぎて、落ち着かない。
こうして一夜明けると、昨日の出来事が夢か幻のように思えたが、目が覚めてから今の状況だって、夢の続きか何かに思えるほど非現実的だ。
「あのう、そろそろお仕事をはじめようかと思うんですが……」
「え、お仕事?」
「はい、ゆっくり休めたので。お腹も満たされましたし、すぐにでも動けますけど……」
ノーラさんは、お茶が入ったポットを手に首を傾げた。
「うーん……今のところ、すぐにできそうな仕事はないんじゃないかしら。気になるのなら、殿下にうかがってみましょうか」
「そう、ですね。いや、殿下ですか……お忙しいと思いますから、お部屋で待機してます」
「そうね、もう少しゆっくりしてた方がいいわ。だいぶご心配されてたようだから。後で、何かつまめるものを運ぶからら、そこのソファーでくつろいでてちょうだい」
どうやら、この部屋にいなくてはならないらしい。
(まさか……これは監視の為? もしかして閉じ込められてる?)
どうやら軟禁状態らしい。きっと私は、秘密を知りすぎたのだ……思えばルイーズ様や宰相様の近くで、いろんな秘密を知りすぎた。
(どの情報が重要とか、よく分からないな……でもそれがまずいんだろうなあ)
うかつに口に出したらダメな話があるのだろうけど、どれがダメだか判断できない中、しばらくは監視状態が続くに違いない。
(ああ、やはりうまい話には裏があった……)
きっかけは園遊会のような気がするが、おそらく王宮にスカウトされた時から、はじまっていたのだろう。身分の高い人の近くで仕事をすれば、どうしたって機密情報に触れる機会がある。遅かれ早かれ、こうなってしまったはずだ。
(こうなったら、早く宰相様と会って話をつけなければ)
どういった言動に気をつけるべきか、これまで知っちゃった情報の機密レベルとか、いろいろ教わって早めにこの軟禁状態から許してもらいたい。
「宰相様とお会いしたいんですけど、いつなら会ってもらえるか、どこで確認できるでしょうか」
「宰相様? ルイーズ殿下ではなくて?」
「宰相様です」
ノーラさんは、食事を終えたら確認すると約束してくれた。それから労わるような口調で、優しく語りかけてきた。
「昨夜は、ものすごく大変だったと聞いているわ。ヨリはもう少しゆっくりお休みした方がいいと、宰相様もおっしゃられてたの」
「そうなんですか……いや、もう体力的には平気なんですけど」
「でも、ルイーズ様は、早くあなたに会って、お話ししたがっていたわ」
そういや、私に話があるとか言ってたことを思い出す。
(やっぱり、勝手に王宮抜け出して、追いかけてきたことを言われるんだろうな……なんかペナルティーとか課されるのかな。給料減額されたりして)
私の心配をよそに、ノーラさんはソファーの前のテーブルに、果実水の瓶やら焼き菓子の皿やらごっそり並べると「何かあったら今度こそベルを使ってね」と言い残して、部屋を出ていった。
再び部屋にひとり残された私は、再びガックリとソファーに身を沈めた。
(早く、宰相様と話したい……)
それで、軟禁状態のわりには不自然なほどの高待遇なのはどうしてなのか、理由を聞きたい。まさか口止め料とか?
それに、仮に軟禁状態が解けたとして、私の処遇はどうなる? 仕事は? 雇用は? いきなりリストラとか、されなきゃいいけど。
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