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11. 新たな相談
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私が席を外そうかと迷っていると、なぜか隊長さんが私に向かって話を振ってきた。
「昨日、ルイーズ様と王都観光されたのでしょう? 第一ギルドの本部は、ご覧になりましたか」
「いえ……第一ギルドって、王都のどの辺りにあるんですか」
ルイーズ様と出かけたことを知ってるんだ……前に宰相様から『外へ出かける時は監視してる』って、本当だったんだ。
それにしても、ギルドは観光スポットなのだろうか。勝手なイメージだけど、魔物討伐なんて危険な任務の邪魔にならないように、関係者以外は立ち入り禁止かと思った。
「わりと王宮の近所ですよ。ぜひ一度、見学に来てください。なんならルイーズ殿下のとこが嫌になったら、こっちに再就職されては? 今なら事務局の席が空いてますよ」
突然のスカウト話に、私は目を瞬く。勇者代理と清掃員の仕事に続いて、仕事のオファーはこれで三つ目だ。ナーダムではあれほど仕事探しても見つからなかったのに、王都って素晴らしい……単純にうれしくなるが、かといって今の仕事を放りだすつもりはない。
丁重にお断りしようとすると、突然ルイーズ様が焦れたように割って入ってきた。
「ゲネル、いい加減にしろ。この子は僕が先に雇ったんだ。それに……」
「ハイハイ分かりましたよ、何ですかその独占欲丸出しの態度は。ギルドをご案内する機会があれば、ちゃんとルイーズ様を通しますから。なんならお二人でいらしてください……まあでも、早くても再来週以降にしていただけるとありがたいですけど。その頃までには、南西の国境地帯もだいぶ落ち着いてくるでしょうからね……」
隊長さんの最後の一言は、心持ち低めの声になった。すると隣のルイーズ様は、小さく首を振る。
「まあ、お前とシーラが重い腰を上げてここまできたってことは、何かよからぬ事態が起こったと薄々気づいてはいたが……それで、被害状況は?」
「負傷者が数名出てるようです。こちらに応援要請があったものですから、先ほど宰相殿に許可をいただいて、王都の各ギルドからつのって数名向かわせました。うちのギルドからも一名送りましたが、あくまで応急処置です……至急、ギルドの再編が必要かと」
「分かった。すぐに対応しよう」
ギルドで負傷者が出てるということは、魔物討伐の話だ。しかも再編成を提案するってことは、今のギルド構成では対応が難しいって意味だ。
(やっぱり、私が聞いちゃいけない話のような気がする……!)
だがルイーズ様の横顔は、拍子抜けするくらいひょうひょうとしていた。また隊長さんも、穏やかな表情を浮かべている。二人とも、この物騒な会話さえ聞かなければ、ただの世間話をしてるようにしか見えないだろう。
(なんか、私一人であせっていても、意味ないな……ルイーズ様も隊長さんも、何も言わないなら、おとなしくここにいよう)
実際、二人は私の存在そっちのけで、あれこれ平然と話してる。だが、誰が別の人間が近づいてくる気配がすると、あっという間に話題を変えるから、たぶん秘匿情報なのには間違いない。
「ところで、君のとこからは誰を送ったんだ?」
「マッカスです」
「少しは強くなったのか」
「まあまあですかね。本人は、今回の件が落ち着いたら、昇進試験の訓練を受けたいと申しております。多少は根性と向上心が芽生えたんじゃないですかね」
「ふうん、それは感心……さてと、僕らはそろそろ行くよ」
唐突に会話を打ち切ったルイーズ様は、隣の私に手を差し伸べた。触れると温かくて、意外と力強い。
「ん、冷たい手だな。ところで体調はどうなの」
「あー……、あと少しなら、なんとか我慢できそうです」
「仕方ないな」
仕方ない、と言うルイーズ様の表情はやさしい。私は急に恥ずかしくなって、視線を泳がせてしまう。
隊長さんは、そんな私たちのやり取りを、なんだか生暖かい目で眺めていた。
「ではお二人とも、私はこれで」
「ああ……報告ご苦労」
隊長さんと別れると、私たちは再び並んで庭を歩き出した。向かう先は皆が集まっている中庭の真ん中だった。
王子殿下の登場に、皆の話し声がピタリと止み、辺りは静まり返った。ルイーズ様は、晴れやかな笑顔を浮かべて周囲をグルリと見回す。
「さて諸君、この後もどうかゆっくりと楽しんでいってくれたまえ……我々はこれで失礼する」
周囲のあちらこちらから、サワサワと挨拶の声が上がり、その合間を縫うようにして私たちは建物の中へと戻った。
(お、終わった……、よかった)
とてつもなくホッとした。屋内って素晴らしい……屋根があるって最高だ。
しばらくエスコートされたまま廊下を歩いていると、前方からノーラさんが現れた。
「お二人とも、お疲れ様でした」
「ああ、彼女の着替えを手伝ってやってくれ」
「かしこまりました……さ、ヨリ。こちらへ」
そこでルイーズ様と別れた私は、ノーラさんの誘導で、近くの客間らしき部屋に押し込められた。
「お疲れ様、園遊会はどうだった? 楽しんだかしら?」
「……無理でした。早くドレス脱がせてください……」
ノーラさんは苦笑いを浮かべて、素早くドレスとコルセットをゆるめてくれた。そしてあらかじめ用意してくれたのか、水差しから冷たい水をグラスに注いで手渡してくれた。
「今着替えを取ってくるわ。そこのソファーに座って待ってて」
ノーラさんがそう言い残して部屋を出ていくと、私は一気にグラスの水を飲み干し、グッタリした体を革張りのソファーに横たえた。
時計の針を確認すると、ドレスを着てから小一時間しか経ってないことに驚く。早めに切り上げて戻ってきたのは、もしかして私のせいだろうか。ルイーズ様は今どこにいるのだろう。
(それにしても、国境で魔物討伐か……やっぱり魔物が増えてるのかな)
魔物は通常、山や森の奥まった場所に生息する。自然豊かな場所に出没する理由は、魔物も元は普通の獣だからで、その原因ははっきと分かってない。一説によると、地下から発生する瘴気を大量に吸い込んだ結果、魔物へと変異するらしい。大昔は、瘴気を吸った人間も魔物になったと聞くから、おそろしい話だ。
(でも、国境のギルドから応援要請があったってことは、かなり深刻なんだろう……)
ギルドの編成は、勇者の仕事のひとつで、各ギルドの能力値を比較しつつ行われる。つまり私の表計算が役立つ時がきたわけだが、あらためて大事な仕事を任されているんだなあと思った。
ノーラさんに手伝ってもらって着替えを済ませると、ひとまず自室へ戻った。
部屋の扉の前には、お茶のセットが乗せられたワゴンが置かれていたので、ありがたくいただくことにする。
お湯をやかんで沸かす間、用意されたサンドウィッチや焼き菓子をテーブルに並べてる。
(あ。これ、園遊会に出されていたケーキだ……)
ルイーズ様の心づかいだろうか。ケーキはフルーツやナッツの飴がけが散りばめられていて、リッチな味わいだった。
やがてお腹が満たされたのでウトウトしていると、ノックがした。
(ノーラさんかな……それともワゴン下げにきてくれた、メイドさんかな)
扉を開けると驚いたことに、眉を寄せたルイーズ様が立っていた。
「誰かに見られたら面倒だから、早く中に入れて」
ここで『独身女性の私室に、雇用主とはいえ男性が入ってはまずいのでは』という理屈は浮かばないようだ。しかし追い返すわけもいかず、仕方なく部屋に通した。
「明日の夜、夜会があるんだ」
「それはまた、唐突ですね……」
部屋の真ん中で、ルイーズ様がクルリと振り返った。
「夜会の日程は、先月から決まっていたことだ。規模的には、中の上ってとこかな。諸外国からもお客が見えるから、まあにぎわうと思うよ」
唐突って、そういう意味ではないんだけど。急に話持ってくるなあってことで……まあ、それは黙っておく。
「もしやまた、私にパートナー役を?」
「話が早くて助かる」
なんとなく、断りづらい。でも手放しに引き受ける気持ちにもならない……主にはドレスとコルセットのせいだが、知らなくていい余計な事情を耳にしてしまうことも嫌だった。
「給金ははずむ。ノーラには、あまりキツくコルセットしめるなと伝えておく。長居はしないし、終わったら部屋に食事を用意させよう」
躊躇いがちな私の反応に、ルイーズ様は次々と畳みかけるように提案を出してきた。私は小さくため息をつく。
「勇者の仕事って、いろいろあるんですね……なんか自信を失いそうです」
つい、弱音を吐いていた。
ルイーズ様は、椅子を引いて私を座らせると、テーブルをはさむようにしてもう一脚の椅子に腰を下ろした。これは話し合いをしよう、ということだろうか。
私は黙ってポットのお茶を二客のカップに注ぐと、一客をルイーズ様に差し出した。
「自信が無いのは僕だって同じだ」
紅茶をひと口飲んだルイーズ様は、わずかに眉を上げた。
「だから君を雇った。一人であれこれこなすのも限界がある。君だけではなく、宰相やギルドの隊長たち、その他さまざまな臣下や使用人も含めて、僕は王子や勇者になれるのだ」
「それはよく理解できます……でも、本当に私でよかったんでしょうか」
「当たり前じゃないか」
ルイーズ様は、心外だと言わんばかりに眉をひそめた。
「君を見つけてスカウトしたのは、この僕だ。もっと自信を持て。君のスキルや実務経験、家族構成もすでに調査済みたからな。なにも問題はなく、君ほどの適任者はいない」
「……」
「それに、ずっと一緒に働くのなら、むさい男より、可愛い女性の方が断然いい」
ルイーズ様の平然とした表情を見る限り、無意識に言ったに違いない。違いないけど『可愛い女性』という言葉に心臓がはねた。
「そ、そんなに可愛げないですけど私……」
「それは知っている」
「……」
「出会ってすぐに性格なんて、知り様がない。外見くらいしか判断材料がないんだ。仕方ないだろう?」
それってつまり……外見が可愛いって言ってるのだろうか。
私はいわゆる十人並みで、今まで一度も男性にモテたこともなく、当然だが告白された経験もない。そんな女が、あろうことか、王子殿下に『可愛い』と言われた。お世辞と分かってても、うれしくないわけがない。
「なんだその顔は。文句でもあるのか」
ルイーズ様は、罪作りな天然だと思う……うっかりトキメキかけてしまったじゃないか。
「昨日、ルイーズ様と王都観光されたのでしょう? 第一ギルドの本部は、ご覧になりましたか」
「いえ……第一ギルドって、王都のどの辺りにあるんですか」
ルイーズ様と出かけたことを知ってるんだ……前に宰相様から『外へ出かける時は監視してる』って、本当だったんだ。
それにしても、ギルドは観光スポットなのだろうか。勝手なイメージだけど、魔物討伐なんて危険な任務の邪魔にならないように、関係者以外は立ち入り禁止かと思った。
「わりと王宮の近所ですよ。ぜひ一度、見学に来てください。なんならルイーズ殿下のとこが嫌になったら、こっちに再就職されては? 今なら事務局の席が空いてますよ」
突然のスカウト話に、私は目を瞬く。勇者代理と清掃員の仕事に続いて、仕事のオファーはこれで三つ目だ。ナーダムではあれほど仕事探しても見つからなかったのに、王都って素晴らしい……単純にうれしくなるが、かといって今の仕事を放りだすつもりはない。
丁重にお断りしようとすると、突然ルイーズ様が焦れたように割って入ってきた。
「ゲネル、いい加減にしろ。この子は僕が先に雇ったんだ。それに……」
「ハイハイ分かりましたよ、何ですかその独占欲丸出しの態度は。ギルドをご案内する機会があれば、ちゃんとルイーズ様を通しますから。なんならお二人でいらしてください……まあでも、早くても再来週以降にしていただけるとありがたいですけど。その頃までには、南西の国境地帯もだいぶ落ち着いてくるでしょうからね……」
隊長さんの最後の一言は、心持ち低めの声になった。すると隣のルイーズ様は、小さく首を振る。
「まあ、お前とシーラが重い腰を上げてここまできたってことは、何かよからぬ事態が起こったと薄々気づいてはいたが……それで、被害状況は?」
「負傷者が数名出てるようです。こちらに応援要請があったものですから、先ほど宰相殿に許可をいただいて、王都の各ギルドからつのって数名向かわせました。うちのギルドからも一名送りましたが、あくまで応急処置です……至急、ギルドの再編が必要かと」
「分かった。すぐに対応しよう」
ギルドで負傷者が出てるということは、魔物討伐の話だ。しかも再編成を提案するってことは、今のギルド構成では対応が難しいって意味だ。
(やっぱり、私が聞いちゃいけない話のような気がする……!)
だがルイーズ様の横顔は、拍子抜けするくらいひょうひょうとしていた。また隊長さんも、穏やかな表情を浮かべている。二人とも、この物騒な会話さえ聞かなければ、ただの世間話をしてるようにしか見えないだろう。
(なんか、私一人であせっていても、意味ないな……ルイーズ様も隊長さんも、何も言わないなら、おとなしくここにいよう)
実際、二人は私の存在そっちのけで、あれこれ平然と話してる。だが、誰が別の人間が近づいてくる気配がすると、あっという間に話題を変えるから、たぶん秘匿情報なのには間違いない。
「ところで、君のとこからは誰を送ったんだ?」
「マッカスです」
「少しは強くなったのか」
「まあまあですかね。本人は、今回の件が落ち着いたら、昇進試験の訓練を受けたいと申しております。多少は根性と向上心が芽生えたんじゃないですかね」
「ふうん、それは感心……さてと、僕らはそろそろ行くよ」
唐突に会話を打ち切ったルイーズ様は、隣の私に手を差し伸べた。触れると温かくて、意外と力強い。
「ん、冷たい手だな。ところで体調はどうなの」
「あー……、あと少しなら、なんとか我慢できそうです」
「仕方ないな」
仕方ない、と言うルイーズ様の表情はやさしい。私は急に恥ずかしくなって、視線を泳がせてしまう。
隊長さんは、そんな私たちのやり取りを、なんだか生暖かい目で眺めていた。
「ではお二人とも、私はこれで」
「ああ……報告ご苦労」
隊長さんと別れると、私たちは再び並んで庭を歩き出した。向かう先は皆が集まっている中庭の真ん中だった。
王子殿下の登場に、皆の話し声がピタリと止み、辺りは静まり返った。ルイーズ様は、晴れやかな笑顔を浮かべて周囲をグルリと見回す。
「さて諸君、この後もどうかゆっくりと楽しんでいってくれたまえ……我々はこれで失礼する」
周囲のあちらこちらから、サワサワと挨拶の声が上がり、その合間を縫うようにして私たちは建物の中へと戻った。
(お、終わった……、よかった)
とてつもなくホッとした。屋内って素晴らしい……屋根があるって最高だ。
しばらくエスコートされたまま廊下を歩いていると、前方からノーラさんが現れた。
「お二人とも、お疲れ様でした」
「ああ、彼女の着替えを手伝ってやってくれ」
「かしこまりました……さ、ヨリ。こちらへ」
そこでルイーズ様と別れた私は、ノーラさんの誘導で、近くの客間らしき部屋に押し込められた。
「お疲れ様、園遊会はどうだった? 楽しんだかしら?」
「……無理でした。早くドレス脱がせてください……」
ノーラさんは苦笑いを浮かべて、素早くドレスとコルセットをゆるめてくれた。そしてあらかじめ用意してくれたのか、水差しから冷たい水をグラスに注いで手渡してくれた。
「今着替えを取ってくるわ。そこのソファーに座って待ってて」
ノーラさんがそう言い残して部屋を出ていくと、私は一気にグラスの水を飲み干し、グッタリした体を革張りのソファーに横たえた。
時計の針を確認すると、ドレスを着てから小一時間しか経ってないことに驚く。早めに切り上げて戻ってきたのは、もしかして私のせいだろうか。ルイーズ様は今どこにいるのだろう。
(それにしても、国境で魔物討伐か……やっぱり魔物が増えてるのかな)
魔物は通常、山や森の奥まった場所に生息する。自然豊かな場所に出没する理由は、魔物も元は普通の獣だからで、その原因ははっきと分かってない。一説によると、地下から発生する瘴気を大量に吸い込んだ結果、魔物へと変異するらしい。大昔は、瘴気を吸った人間も魔物になったと聞くから、おそろしい話だ。
(でも、国境のギルドから応援要請があったってことは、かなり深刻なんだろう……)
ギルドの編成は、勇者の仕事のひとつで、各ギルドの能力値を比較しつつ行われる。つまり私の表計算が役立つ時がきたわけだが、あらためて大事な仕事を任されているんだなあと思った。
ノーラさんに手伝ってもらって着替えを済ませると、ひとまず自室へ戻った。
部屋の扉の前には、お茶のセットが乗せられたワゴンが置かれていたので、ありがたくいただくことにする。
お湯をやかんで沸かす間、用意されたサンドウィッチや焼き菓子をテーブルに並べてる。
(あ。これ、園遊会に出されていたケーキだ……)
ルイーズ様の心づかいだろうか。ケーキはフルーツやナッツの飴がけが散りばめられていて、リッチな味わいだった。
やがてお腹が満たされたのでウトウトしていると、ノックがした。
(ノーラさんかな……それともワゴン下げにきてくれた、メイドさんかな)
扉を開けると驚いたことに、眉を寄せたルイーズ様が立っていた。
「誰かに見られたら面倒だから、早く中に入れて」
ここで『独身女性の私室に、雇用主とはいえ男性が入ってはまずいのでは』という理屈は浮かばないようだ。しかし追い返すわけもいかず、仕方なく部屋に通した。
「明日の夜、夜会があるんだ」
「それはまた、唐突ですね……」
部屋の真ん中で、ルイーズ様がクルリと振り返った。
「夜会の日程は、先月から決まっていたことだ。規模的には、中の上ってとこかな。諸外国からもお客が見えるから、まあにぎわうと思うよ」
唐突って、そういう意味ではないんだけど。急に話持ってくるなあってことで……まあ、それは黙っておく。
「もしやまた、私にパートナー役を?」
「話が早くて助かる」
なんとなく、断りづらい。でも手放しに引き受ける気持ちにもならない……主にはドレスとコルセットのせいだが、知らなくていい余計な事情を耳にしてしまうことも嫌だった。
「給金ははずむ。ノーラには、あまりキツくコルセットしめるなと伝えておく。長居はしないし、終わったら部屋に食事を用意させよう」
躊躇いがちな私の反応に、ルイーズ様は次々と畳みかけるように提案を出してきた。私は小さくため息をつく。
「勇者の仕事って、いろいろあるんですね……なんか自信を失いそうです」
つい、弱音を吐いていた。
ルイーズ様は、椅子を引いて私を座らせると、テーブルをはさむようにしてもう一脚の椅子に腰を下ろした。これは話し合いをしよう、ということだろうか。
私は黙ってポットのお茶を二客のカップに注ぐと、一客をルイーズ様に差し出した。
「自信が無いのは僕だって同じだ」
紅茶をひと口飲んだルイーズ様は、わずかに眉を上げた。
「だから君を雇った。一人であれこれこなすのも限界がある。君だけではなく、宰相やギルドの隊長たち、その他さまざまな臣下や使用人も含めて、僕は王子や勇者になれるのだ」
「それはよく理解できます……でも、本当に私でよかったんでしょうか」
「当たり前じゃないか」
ルイーズ様は、心外だと言わんばかりに眉をひそめた。
「君を見つけてスカウトしたのは、この僕だ。もっと自信を持て。君のスキルや実務経験、家族構成もすでに調査済みたからな。なにも問題はなく、君ほどの適任者はいない」
「……」
「それに、ずっと一緒に働くのなら、むさい男より、可愛い女性の方が断然いい」
ルイーズ様の平然とした表情を見る限り、無意識に言ったに違いない。違いないけど『可愛い女性』という言葉に心臓がはねた。
「そ、そんなに可愛げないですけど私……」
「それは知っている」
「……」
「出会ってすぐに性格なんて、知り様がない。外見くらいしか判断材料がないんだ。仕方ないだろう?」
それってつまり……外見が可愛いって言ってるのだろうか。
私はいわゆる十人並みで、今まで一度も男性にモテたこともなく、当然だが告白された経験もない。そんな女が、あろうことか、王子殿下に『可愛い』と言われた。お世辞と分かってても、うれしくないわけがない。
「なんだその顔は。文句でもあるのか」
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