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8. 中央棟へ
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翌日、いつものようにカフェテリアで朝食を取ってから仕事場の執務室へ向かうと、凍りつくような表情を浮かべた宰相様に迎えられた。
「そこにお座りなさい」
「……ハイ」
会議テーブルに対面で座らされ、完全にお説教モードだ。きっと昨夜のパーティーでのお手伝いがバレたに違いない。
「たしか私はあなたに、余計なことをしないで無能の振りをするように、と言いましたよね?」
「すいません……」
宰相様は沈痛な面持ちで、額に手をやった。
「こうなったら仕方ありません。今後あなたには、真面目に仕事に取り組んでいただきます」
「仕事って、お掃除の方を、ですか」
「当たり前でしょう。サージャス女史に目を付けられては、これまで通りいい加減な仕事をしていただくと、かえって悪目立ちします。まるで私が無理やりそうさせて、故意にあなたの悪評を立ててるように思われますからね」
その通りじゃないか、と心の中でツッコミを入れたが、お説教を長引かせたくないので黙っておくことにする。
「そこで、これからは『親の言い付けで嫌々お城にやって来たものの、やる気がなくて仕事に身が入らなかったが、昨夜の一件で人の役に立つ喜びを知り、心を入れ替えて真面目に仕事をするようになった没落令嬢』という筋書きでいくことにします」
「……はあ」
またしても、どこから突っ込んだらいいか分からない設定だ。ただし、これからは変に気を使わず、普通に仕事ができるのはうれしい。
(それに、わざと手を抜くのは、あんがい楽そうで難しいからなあ。周りにも迷惑かけちゃうし)
これで少しは呼吸しやすくなった。アデラ以外の同僚とも、打ち解ける日が近いかもしれない。まわりくどい設定も、一周回って整理がついた気がする。
「だいぶ気が楽になりました。ありがとうございます」
「礼には及びません。そうなると執務室の掃除だけでは手持ち無沙汰でしょうから、週に二度サージャス女史のところでも仕事をしていただきます」
「あのう、つかぬことをうかがいますが、サージャス女史ってどなたのことでしょう?」
「昨夜あなたに、パーティーの手伝いをするよう声を掛けた人物です」
それでようやくクリスティンさんの事だと気づいた。頼ってくれた人に仕事ぶりを認められるとは、なんだかちょっのだけ面映い。ここにきてはじめて仕事にやりがいを感じられて、うれしさに自然と頬が緩む。
「何ニヤけているのです。これからは手を抜かずに、キチンと仕事してもらいますからね。本日からさっそく女史の手伝いをしていただきますよ」
「かしこまりました!」
真面目な忠告をくれる宰相様に応えるよう、私は勢いよく椅子から立ち上がった。
執務室の掃除を『きちんと』終えた後、中央棟へ向かった。
クリスティンさんたちの集合場所である第三控え室に到着すると、ちょうど他のメイドさんたちが続々と集まってきたところだった。皆一様に、私の姿を見て怪訝な表情を浮かべてる。
「よく来たわね。さあ入って」
奥のカウチに座っていたクリスティンさんは、私を見つけてにこやかに手招きした。
「今日から、よろしくお願いします」
「こちらこそ。さあ、これが中央棟の制服よ」
昨夜と同じ、グレー地に細いピンクのストライプ柄のワンピースで、あらためて見てもかわいい。専用のロッカーまで用意してくれたので、さっそく着替えさせてもらった。身支度を終えて姿見をのぞき込むと、サイズもピッタリで、着心地も悪くない。
「中央棟は、主に王族の方々が住まわれる場所で、その制服を着てると直接頼まれごとをされる可能性があるから、気を引きしめて。対処に困ったら、私か近くの先輩に声をかけてね」
「承知しました」
やがて時間になったのか、クリスティンは部屋を見回すと、皆の注意を引くように軽く手を叩いた。
「では、本日の各担当についての注意点を説明しましょう。中央回廊の担当は掃き掃除の他に、各柱の外灯を拭いておくように。会議室の担当はカトラリーを磨いて、コーヒーとお茶のストックを補充したら、来週分を発注しておいて。客室担当は……」
こんなにやる事があったなんて、知らなかった。これまで執務室だけダラダラ掃除していた事が申し訳なく感じる。
(これじゃ、周りの人におかしな噂立てられたり、反感買っても無理ないわ……)
でも宰相様のお許しが出たので、これからは真面目に仕事ができる。
(それにしても、王族の方から頼まれる、対処に困るようなことってなんだろう)
首をひねっていると、クリスティンさんと目が合った。
「それからヨリには、ノーラと一緒に殿下方のお部屋の掃除をお願いするわ」
殿下方という言葉に、昨夜ルイーズ様から聞いたことを思い出す。
(そういえばルイーズ様には、弟さんが五人いるって言ってたっけ)
そして、その後なぜかルイーズ様に、殿下ではなく名前で呼ぶよう言われた。
――だから! 『殿下』だと誰の事か分かりづらいから、名前で呼べってこと。
その下りは思い返すと恥ずかしいから、あまり考えないようにしよう……とにかく全部で六部屋だと、けっこう掃除しがいがありそう。
「心配しなくても大丈夫よ、どうせお部屋はほとんど使われてないもの」
連れ立って持ち場へ向かう途中、ノーラさんがこっそり耳打ちしてくれた。
「ルイーズ殿下以外は、普段この王宮じゃなくて地方の離宮にお住まいなの。何か催事でもない限り、めったに王宮にはいらっしゃらないわ。つまりお部屋は、ほぼ未使用ってわけ」
「そうなんですね」
部屋数を聞いて少し心配になったが、基本的な清掃を行えば問題ないようだ。
「ああでも、一室だけかなりの『汚部屋』があったわね……でもその部屋は立ち入り禁止なの。だからいつも荒れ放題」
なんとなく、誰の部屋か想像つく。
(ルイーズ様、なんでも床に放り投げそうだもんなあ)
出会った時に、マントや帽子を床にポイポイ脱ぎ散らかしていた姿を思い出して、自然と笑いがこみ上げてきた。
「じゃあ、はじめましょうか」
「はいっ!」
それからノーラさんと手分けして、掃除に取りかかった。室内は使われてないだけあって、スッキリ綺麗に片付いていて、それぞれの壁紙の色が違う以外は、これといった個性も特徴も見受けられなかった。
(ルイーズ様のお部屋は、立ち入り禁止かあ……たぶん勇者の事とか、いろいろ人には言えない事情がありそうだから、無理ないか。ところで普段は、誰が掃除してるんだろう?)
そんなこと考えながら二番目の王子の部屋の掃除を終えて、モップを手に廊下に出ると、偶然通りかかったルイーズ様に出くわした。
「……何で君が、こんなところを掃除してるの」
「お手伝いです。ちゃんと宰相様の許可もいただきました」
「ふうん」
ルイーズ様は、どこか面白くない様子で、私の姿を眺めまわした。いつもの清掃員用の制服ではないから、変に思うのだろう。昨日もこの姿で会ったんだけど、おぼえてないのかな。
ちなみに本日のルイーズ様は、はじめて会った時と同じ白マントに羽飾りの帽子を被っている。首に巻いたクラバットには、瞳の色と同じ宝石をはめこんだブローチをつけていて、とても洗練されてみえた。
「今から街へ行くところだけど……ちょうどいいから、君も一緒についてきて」
「は?」
私はモップの柄を握りしめた。私的には、ちっともちょうど良くない。
「掃除中ですので、申し訳ありません」
「掃除? どうせ使ってない部屋ばかりだろう?」
使ってなくても、埃はたまるものなんですよ……と心の中でつぶやく。この人の部屋がどれだけ汚れているのか、ほんの少し心配になる。
「それでも掃除したければ、帰ってきてからすれば。ついでに僕の部屋も掃除しておいてよ」
「えっ、ルイーズ様のお部屋もですか!」
「何、嫌なの?」
ムッとしたように言われた。
「いえ、そういう訳では……ただ、立ち入り禁止と伺っていたもので」
「君は特別」
そう言ってルイーズ様はフワリと笑うと、私の手を取って強引に引っ張っていく。
「あのモップが……」
「モップなんか街へ持ってこないでよ。恥ずかしい」
会話は微妙にすれ違っているけど、とにかく今はそれどころじゃない。ノーラさんはゴミ捨てからまだ戻ってこないし、この状態で持ち場を離れるのはまずい。
「せ、せめてノーラさんに断ってから……」
「あのさあ」
ルイーズ様は足を止めると、私の手首をグイッと引き寄せた。危うく胸に顔をぶつけそうになって慌てる。
「君の雇い主は誰?」
「……ルイーズ様です」
「そうだろう、そもそも僕が最初に声をかけたんだ。空き時間に手伝いするのは勝手だが、僕の命令が最優先だ」
そう言って、殿下は一歩も引こうとしない。そうこうしてるうちに、ゴミ捨てに行ってたノーラさんが戻ってきた。
「あら、なにかご用意ですか」
「うん、この子を借りてもいい?」
ノーラさんはチラリと私の顔を見やると、小さくうなずいた。
「ヨリ、あとは私が終わらせておくから、ルイーズ殿下のご用を済ませてらっしゃいな」
「え、あ、はい……」
先輩にそう言われては、ますます断るわけにはいかなくなった。ここでは王族の方々の用事が最優先事項なのだろう、きっと。
「では、すいませんが、あとはよろしくお願いします……」
そんなわけで、ノーラさんにモップを渡すと、大人しくルイーズ様に従って馬車に乗って街へ向かうことにした。
(ごめんなさい、ノーラさん……なるべく早く戻ってきて、残りの掃除しますから!)
心の中でノーラさんに平謝りしていると、正面に座るルイーズ様が窓に頬杖ついて口を開いた。
「そういえば君は、まだ王都を回ったことなかったんじゃない?」
その通りだ。だって到着して早々に、王宮へ連れてこられたんだもの。
「市役所しか行ってないですね」
「ふうん。じゃあついでに案内してあげるよ」
「えっ」
「何、僕の案内じゃ不満なの」
「いえ、そういうわけでは……」
「じゃあ決まり」
馬車の景色を背景に、ルイーズ様の横顔が楽しそうにほころんだ。
「そこにお座りなさい」
「……ハイ」
会議テーブルに対面で座らされ、完全にお説教モードだ。きっと昨夜のパーティーでのお手伝いがバレたに違いない。
「たしか私はあなたに、余計なことをしないで無能の振りをするように、と言いましたよね?」
「すいません……」
宰相様は沈痛な面持ちで、額に手をやった。
「こうなったら仕方ありません。今後あなたには、真面目に仕事に取り組んでいただきます」
「仕事って、お掃除の方を、ですか」
「当たり前でしょう。サージャス女史に目を付けられては、これまで通りいい加減な仕事をしていただくと、かえって悪目立ちします。まるで私が無理やりそうさせて、故意にあなたの悪評を立ててるように思われますからね」
その通りじゃないか、と心の中でツッコミを入れたが、お説教を長引かせたくないので黙っておくことにする。
「そこで、これからは『親の言い付けで嫌々お城にやって来たものの、やる気がなくて仕事に身が入らなかったが、昨夜の一件で人の役に立つ喜びを知り、心を入れ替えて真面目に仕事をするようになった没落令嬢』という筋書きでいくことにします」
「……はあ」
またしても、どこから突っ込んだらいいか分からない設定だ。ただし、これからは変に気を使わず、普通に仕事ができるのはうれしい。
(それに、わざと手を抜くのは、あんがい楽そうで難しいからなあ。周りにも迷惑かけちゃうし)
これで少しは呼吸しやすくなった。アデラ以外の同僚とも、打ち解ける日が近いかもしれない。まわりくどい設定も、一周回って整理がついた気がする。
「だいぶ気が楽になりました。ありがとうございます」
「礼には及びません。そうなると執務室の掃除だけでは手持ち無沙汰でしょうから、週に二度サージャス女史のところでも仕事をしていただきます」
「あのう、つかぬことをうかがいますが、サージャス女史ってどなたのことでしょう?」
「昨夜あなたに、パーティーの手伝いをするよう声を掛けた人物です」
それでようやくクリスティンさんの事だと気づいた。頼ってくれた人に仕事ぶりを認められるとは、なんだかちょっのだけ面映い。ここにきてはじめて仕事にやりがいを感じられて、うれしさに自然と頬が緩む。
「何ニヤけているのです。これからは手を抜かずに、キチンと仕事してもらいますからね。本日からさっそく女史の手伝いをしていただきますよ」
「かしこまりました!」
真面目な忠告をくれる宰相様に応えるよう、私は勢いよく椅子から立ち上がった。
執務室の掃除を『きちんと』終えた後、中央棟へ向かった。
クリスティンさんたちの集合場所である第三控え室に到着すると、ちょうど他のメイドさんたちが続々と集まってきたところだった。皆一様に、私の姿を見て怪訝な表情を浮かべてる。
「よく来たわね。さあ入って」
奥のカウチに座っていたクリスティンさんは、私を見つけてにこやかに手招きした。
「今日から、よろしくお願いします」
「こちらこそ。さあ、これが中央棟の制服よ」
昨夜と同じ、グレー地に細いピンクのストライプ柄のワンピースで、あらためて見てもかわいい。専用のロッカーまで用意してくれたので、さっそく着替えさせてもらった。身支度を終えて姿見をのぞき込むと、サイズもピッタリで、着心地も悪くない。
「中央棟は、主に王族の方々が住まわれる場所で、その制服を着てると直接頼まれごとをされる可能性があるから、気を引きしめて。対処に困ったら、私か近くの先輩に声をかけてね」
「承知しました」
やがて時間になったのか、クリスティンは部屋を見回すと、皆の注意を引くように軽く手を叩いた。
「では、本日の各担当についての注意点を説明しましょう。中央回廊の担当は掃き掃除の他に、各柱の外灯を拭いておくように。会議室の担当はカトラリーを磨いて、コーヒーとお茶のストックを補充したら、来週分を発注しておいて。客室担当は……」
こんなにやる事があったなんて、知らなかった。これまで執務室だけダラダラ掃除していた事が申し訳なく感じる。
(これじゃ、周りの人におかしな噂立てられたり、反感買っても無理ないわ……)
でも宰相様のお許しが出たので、これからは真面目に仕事ができる。
(それにしても、王族の方から頼まれる、対処に困るようなことってなんだろう)
首をひねっていると、クリスティンさんと目が合った。
「それからヨリには、ノーラと一緒に殿下方のお部屋の掃除をお願いするわ」
殿下方という言葉に、昨夜ルイーズ様から聞いたことを思い出す。
(そういえばルイーズ様には、弟さんが五人いるって言ってたっけ)
そして、その後なぜかルイーズ様に、殿下ではなく名前で呼ぶよう言われた。
――だから! 『殿下』だと誰の事か分かりづらいから、名前で呼べってこと。
その下りは思い返すと恥ずかしいから、あまり考えないようにしよう……とにかく全部で六部屋だと、けっこう掃除しがいがありそう。
「心配しなくても大丈夫よ、どうせお部屋はほとんど使われてないもの」
連れ立って持ち場へ向かう途中、ノーラさんがこっそり耳打ちしてくれた。
「ルイーズ殿下以外は、普段この王宮じゃなくて地方の離宮にお住まいなの。何か催事でもない限り、めったに王宮にはいらっしゃらないわ。つまりお部屋は、ほぼ未使用ってわけ」
「そうなんですね」
部屋数を聞いて少し心配になったが、基本的な清掃を行えば問題ないようだ。
「ああでも、一室だけかなりの『汚部屋』があったわね……でもその部屋は立ち入り禁止なの。だからいつも荒れ放題」
なんとなく、誰の部屋か想像つく。
(ルイーズ様、なんでも床に放り投げそうだもんなあ)
出会った時に、マントや帽子を床にポイポイ脱ぎ散らかしていた姿を思い出して、自然と笑いがこみ上げてきた。
「じゃあ、はじめましょうか」
「はいっ!」
それからノーラさんと手分けして、掃除に取りかかった。室内は使われてないだけあって、スッキリ綺麗に片付いていて、それぞれの壁紙の色が違う以外は、これといった個性も特徴も見受けられなかった。
(ルイーズ様のお部屋は、立ち入り禁止かあ……たぶん勇者の事とか、いろいろ人には言えない事情がありそうだから、無理ないか。ところで普段は、誰が掃除してるんだろう?)
そんなこと考えながら二番目の王子の部屋の掃除を終えて、モップを手に廊下に出ると、偶然通りかかったルイーズ様に出くわした。
「……何で君が、こんなところを掃除してるの」
「お手伝いです。ちゃんと宰相様の許可もいただきました」
「ふうん」
ルイーズ様は、どこか面白くない様子で、私の姿を眺めまわした。いつもの清掃員用の制服ではないから、変に思うのだろう。昨日もこの姿で会ったんだけど、おぼえてないのかな。
ちなみに本日のルイーズ様は、はじめて会った時と同じ白マントに羽飾りの帽子を被っている。首に巻いたクラバットには、瞳の色と同じ宝石をはめこんだブローチをつけていて、とても洗練されてみえた。
「今から街へ行くところだけど……ちょうどいいから、君も一緒についてきて」
「は?」
私はモップの柄を握りしめた。私的には、ちっともちょうど良くない。
「掃除中ですので、申し訳ありません」
「掃除? どうせ使ってない部屋ばかりだろう?」
使ってなくても、埃はたまるものなんですよ……と心の中でつぶやく。この人の部屋がどれだけ汚れているのか、ほんの少し心配になる。
「それでも掃除したければ、帰ってきてからすれば。ついでに僕の部屋も掃除しておいてよ」
「えっ、ルイーズ様のお部屋もですか!」
「何、嫌なの?」
ムッとしたように言われた。
「いえ、そういう訳では……ただ、立ち入り禁止と伺っていたもので」
「君は特別」
そう言ってルイーズ様はフワリと笑うと、私の手を取って強引に引っ張っていく。
「あのモップが……」
「モップなんか街へ持ってこないでよ。恥ずかしい」
会話は微妙にすれ違っているけど、とにかく今はそれどころじゃない。ノーラさんはゴミ捨てからまだ戻ってこないし、この状態で持ち場を離れるのはまずい。
「せ、せめてノーラさんに断ってから……」
「あのさあ」
ルイーズ様は足を止めると、私の手首をグイッと引き寄せた。危うく胸に顔をぶつけそうになって慌てる。
「君の雇い主は誰?」
「……ルイーズ様です」
「そうだろう、そもそも僕が最初に声をかけたんだ。空き時間に手伝いするのは勝手だが、僕の命令が最優先だ」
そう言って、殿下は一歩も引こうとしない。そうこうしてるうちに、ゴミ捨てに行ってたノーラさんが戻ってきた。
「あら、なにかご用意ですか」
「うん、この子を借りてもいい?」
ノーラさんはチラリと私の顔を見やると、小さくうなずいた。
「ヨリ、あとは私が終わらせておくから、ルイーズ殿下のご用を済ませてらっしゃいな」
「え、あ、はい……」
先輩にそう言われては、ますます断るわけにはいかなくなった。ここでは王族の方々の用事が最優先事項なのだろう、きっと。
「では、すいませんが、あとはよろしくお願いします……」
そんなわけで、ノーラさんにモップを渡すと、大人しくルイーズ様に従って馬車に乗って街へ向かうことにした。
(ごめんなさい、ノーラさん……なるべく早く戻ってきて、残りの掃除しますから!)
心の中でノーラさんに平謝りしていると、正面に座るルイーズ様が窓に頬杖ついて口を開いた。
「そういえば君は、まだ王都を回ったことなかったんじゃない?」
その通りだ。だって到着して早々に、王宮へ連れてこられたんだもの。
「市役所しか行ってないですね」
「ふうん。じゃあついでに案内してあげるよ」
「えっ」
「何、僕の案内じゃ不満なの」
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