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第二部
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倉澤は慎重過ぎるほど丁寧に、三崎の体を開いていった。喉仏の下、鎖骨の窪み、鳩尾の上、脇腹から腰骨にかけてのライン……三崎が反応を示す度に、まるで喉が渇いた旅人が湧き出る泉を発見したかのように、夢中で吸い付いた。
「はあっ……くっ……、……」
性感帯を肉厚な舌で何度も舐められながら、胸の先をしきりに捏ね回される。そこはあまり感じなかったはずなのに、触られ過ぎて、次第に痛痒さが増していった。
「や、だ……そこ、離して……んっ」
キュッと強く摘ままれ、三崎は鼻にかかった甘い声を上げてしまった。すると汗ばんだ綺麗な顔が、三崎の顔にゆらりと影を落とした。
「涙目になってる……痛かったか?」
「……んっ……」
大きな手がよしよしと、額の髪を押し上げながら撫でた。その手をそのままに、倉澤の顔が三崎の胸にゆっくりと落ちていく。
「……ああっ!」
胸の先端が倉澤の口に含まれた。舌で丹念に舐られ、痛みや痺れとは違う鋭利な感覚が、体の中心に向かってゾクゾクと突き抜けていく。
「……あ、ああ……倉澤、さ……」
頭を押し返そうとして、逆に縋りつく格好になってしまってることを三崎は気づけない。またそれが、倉澤を喜ばせていることも。
倉澤は赤く色づいた胸の先を、舌と指先で交互にじっくりと愛撫しながら、空いている方の手を背中から後ろの中心へと滑らせていった。やがて人差し指の先端が固く閉じた部分に当たると、クルリと表面を撫でた。
「あ、やだ、そこ……!」
「大丈夫、今夜は最後までやらねーよ」
ハアッ、と熱い吐息が絡み合った。
「明日、火曜だぞ」
「えっ……はあっ、待っ……」
再び熱の中心を握られ、勢いよく擦られる。ほどなくして、あっけないほど一気に欲望を吐き出した。
「はあっ、はあはあ……っ……」
荒い息を無理矢理抑えようとして、涙が目尻から流れ出た。唇には啄むようなキスが、何度も繰り返された。
「……悪いけど、手を貸して」
「へ……!?」
倉澤の導きで、恐ろしいほど張り詰めた剛直を握らされ、強引に動かされる。
「んっ……は……」
倉澤の口から色っぽい声が漏れ、三崎は顔を赤くする。男なのに壮絶な色香を滲ませ、視覚的に犯されている感覚に目眩がした。
身を起こし、向かい合わせで何度も口付けを交わす。舌を差し入れられたり、上唇を舐められたりと、三崎は息継ぎをすることで精一杯だった。
やがて倉澤が低い唸り声を上げて達した。それを見届けた三崎は、逆に自分が感じてしまい、不可抗力で再び硬くなったそれをまた倉澤に慰められた。
倉澤は三崎の肩を掴んでベッドに沈めると、欲望の象徴を躊躇なく口に含んだ。その時の快感は、先ほど手でされた時の比じゃない。
「……んっ……あ、待っ、出……!」
信じられないことに、倉澤は全てを口で受け止め、そのまま嚥下してしまった。三崎は涙目で、呆然と倉澤を見つめる。
「ふっ、なんて顔してんだよ」
倉澤は汗でしとどに濡れた前髪を掻き上げ、扇情的に濡れた唇をひと舐めしてクスリと笑った。
「今夜はこれでおしまい。さ、明日も早いからシャワー浴びてとっとと寝ようぜ」
「あ、ハイ……」
三崎は拍子抜けした気分で、まだ疼く自分の体を見下ろした。
(てっきり最後までやるんだとばかり……)
「なんだ、最後までやらなかったのが不満か?」
フッと鼻先で笑われる。艶めいた顔を近づけられ、心臓が跳ね上がった。
「男同士の場合、受ける方はそれなりに準備が必要なんだ」
「……そうなんですか?」
ぎゅむっ、と鼻を摘まれる。
「それに一度入れたら最後、お前明日出社できなくなるぞ」
そう言って倉澤は幸せそうに笑ってみせた。
翌朝、三崎が出社すると、営業部では葉山が訳知り顔で待ち構えていた。
「……よかったですね、間に合ったようで」
三崎は顔を赤らめながら、思い切って口を開いた。
「あの、いつから倉澤さんの事に……」
「えっ、倉澤さん? 鷺沼さんじゃなくて?」
ハッとして口を閉じたが、聡い葉山に対しては手遅れだった。
葉山は少し驚いた様子で、それから眉を下げた。三崎の横にある自分のデスクに座わり、ボンヤリとPCの画面を見つめる。
「あーあ、憧れていたのになぁ……」
「……すいません」
「三崎さんが謝ることじゃないですよ」
倉澤は女子社員に人気があるし、葉山も彼に声を掛けられた時うれしそうに話していた。そんな男を、自分が……と思うと、彼女たちの手前どうしようもなく申し訳ない気持ちになってしまう。
「でも私、これからも普通に話したり連絡する分にはいいんですよね……?」
「も、もちろん、というか、俺が決める事じゃないから」
いつ倉澤と葉山が連絡先を交換したのか知らないが、そのお陰で昨夜は助けられたと言っても過言ではない。
「ところで葉山さん、どうしてあの店の場所が分かったの?」
「ルミナスの小林さんに聞きました。鷺沼さんから連絡あって、三崎さんと一緒だって聞いたから、どこのお店なんでしょうねって。行きつけのお店が部下にバレてるってのも、便利な時とそうじゃない時があるもんですねー……鷺沼さん、残念過ぎ」
おそらく鷺沼にとって、葉山はとんだ伏兵だったに違いない。
「とにかく助かったよ、ありがとう」
改めてお礼を言う三崎を、葉山は少し不満そうにジッと見つめていた。
「……ちょうど良かったんじゃないですか。三崎さん、女心ちっとも分かってないですし」
「何だそれ」
「別に、ひとりごとです」
その時ちょうど三崎に内線が入った為、会話はそこで中断した。
「はい三崎です、あ……ハイ、その件でしたら……」
そのとき隣の葉山が少し悲しげに見つめる視線に、三崎が気づくことはなかった。
「はあっ……くっ……、……」
性感帯を肉厚な舌で何度も舐められながら、胸の先をしきりに捏ね回される。そこはあまり感じなかったはずなのに、触られ過ぎて、次第に痛痒さが増していった。
「や、だ……そこ、離して……んっ」
キュッと強く摘ままれ、三崎は鼻にかかった甘い声を上げてしまった。すると汗ばんだ綺麗な顔が、三崎の顔にゆらりと影を落とした。
「涙目になってる……痛かったか?」
「……んっ……」
大きな手がよしよしと、額の髪を押し上げながら撫でた。その手をそのままに、倉澤の顔が三崎の胸にゆっくりと落ちていく。
「……ああっ!」
胸の先端が倉澤の口に含まれた。舌で丹念に舐られ、痛みや痺れとは違う鋭利な感覚が、体の中心に向かってゾクゾクと突き抜けていく。
「……あ、ああ……倉澤、さ……」
頭を押し返そうとして、逆に縋りつく格好になってしまってることを三崎は気づけない。またそれが、倉澤を喜ばせていることも。
倉澤は赤く色づいた胸の先を、舌と指先で交互にじっくりと愛撫しながら、空いている方の手を背中から後ろの中心へと滑らせていった。やがて人差し指の先端が固く閉じた部分に当たると、クルリと表面を撫でた。
「あ、やだ、そこ……!」
「大丈夫、今夜は最後までやらねーよ」
ハアッ、と熱い吐息が絡み合った。
「明日、火曜だぞ」
「えっ……はあっ、待っ……」
再び熱の中心を握られ、勢いよく擦られる。ほどなくして、あっけないほど一気に欲望を吐き出した。
「はあっ、はあはあ……っ……」
荒い息を無理矢理抑えようとして、涙が目尻から流れ出た。唇には啄むようなキスが、何度も繰り返された。
「……悪いけど、手を貸して」
「へ……!?」
倉澤の導きで、恐ろしいほど張り詰めた剛直を握らされ、強引に動かされる。
「んっ……は……」
倉澤の口から色っぽい声が漏れ、三崎は顔を赤くする。男なのに壮絶な色香を滲ませ、視覚的に犯されている感覚に目眩がした。
身を起こし、向かい合わせで何度も口付けを交わす。舌を差し入れられたり、上唇を舐められたりと、三崎は息継ぎをすることで精一杯だった。
やがて倉澤が低い唸り声を上げて達した。それを見届けた三崎は、逆に自分が感じてしまい、不可抗力で再び硬くなったそれをまた倉澤に慰められた。
倉澤は三崎の肩を掴んでベッドに沈めると、欲望の象徴を躊躇なく口に含んだ。その時の快感は、先ほど手でされた時の比じゃない。
「……んっ……あ、待っ、出……!」
信じられないことに、倉澤は全てを口で受け止め、そのまま嚥下してしまった。三崎は涙目で、呆然と倉澤を見つめる。
「ふっ、なんて顔してんだよ」
倉澤は汗でしとどに濡れた前髪を掻き上げ、扇情的に濡れた唇をひと舐めしてクスリと笑った。
「今夜はこれでおしまい。さ、明日も早いからシャワー浴びてとっとと寝ようぜ」
「あ、ハイ……」
三崎は拍子抜けした気分で、まだ疼く自分の体を見下ろした。
(てっきり最後までやるんだとばかり……)
「なんだ、最後までやらなかったのが不満か?」
フッと鼻先で笑われる。艶めいた顔を近づけられ、心臓が跳ね上がった。
「男同士の場合、受ける方はそれなりに準備が必要なんだ」
「……そうなんですか?」
ぎゅむっ、と鼻を摘まれる。
「それに一度入れたら最後、お前明日出社できなくなるぞ」
そう言って倉澤は幸せそうに笑ってみせた。
翌朝、三崎が出社すると、営業部では葉山が訳知り顔で待ち構えていた。
「……よかったですね、間に合ったようで」
三崎は顔を赤らめながら、思い切って口を開いた。
「あの、いつから倉澤さんの事に……」
「えっ、倉澤さん? 鷺沼さんじゃなくて?」
ハッとして口を閉じたが、聡い葉山に対しては手遅れだった。
葉山は少し驚いた様子で、それから眉を下げた。三崎の横にある自分のデスクに座わり、ボンヤリとPCの画面を見つめる。
「あーあ、憧れていたのになぁ……」
「……すいません」
「三崎さんが謝ることじゃないですよ」
倉澤は女子社員に人気があるし、葉山も彼に声を掛けられた時うれしそうに話していた。そんな男を、自分が……と思うと、彼女たちの手前どうしようもなく申し訳ない気持ちになってしまう。
「でも私、これからも普通に話したり連絡する分にはいいんですよね……?」
「も、もちろん、というか、俺が決める事じゃないから」
いつ倉澤と葉山が連絡先を交換したのか知らないが、そのお陰で昨夜は助けられたと言っても過言ではない。
「ところで葉山さん、どうしてあの店の場所が分かったの?」
「ルミナスの小林さんに聞きました。鷺沼さんから連絡あって、三崎さんと一緒だって聞いたから、どこのお店なんでしょうねって。行きつけのお店が部下にバレてるってのも、便利な時とそうじゃない時があるもんですねー……鷺沼さん、残念過ぎ」
おそらく鷺沼にとって、葉山はとんだ伏兵だったに違いない。
「とにかく助かったよ、ありがとう」
改めてお礼を言う三崎を、葉山は少し不満そうにジッと見つめていた。
「……ちょうど良かったんじゃないですか。三崎さん、女心ちっとも分かってないですし」
「何だそれ」
「別に、ひとりごとです」
その時ちょうど三崎に内線が入った為、会話はそこで中断した。
「はい三崎です、あ……ハイ、その件でしたら……」
そのとき隣の葉山が少し悲しげに見つめる視線に、三崎が気づくことはなかった。
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