よく効くお薬〜偏頭痛持ちの俺がエリートリーマンに助けられた話〜

高菜あやめ

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第二部

5. 好意の対価*

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「んっ……は……」
 舌先で転がされる胸の先が痺れて、腰が切なく揺れだす。男らしく骨ばった手がパジャマのズボンに差しこまれ、まだ兆しのない、やわらかな中心をやさしく揉みしだかれた。俺がたまらず声を漏らすと、手の動きが激しく大胆になっていく。
「あ、ああ……くっ、んん……」
「ふっ……可愛い」
 津和の頭が足の間にゆっくりと沈んでいく。そして先走りのにじむ先端が、熱く濡れた粘膜で包まれたとたん、俺の喉の奥から高い嬌声が自然とあふれていった。
「あ、あああっ!」
 意識が持っていかれそうになるギリギリのラインで、必死に踏んばっていたものの、技巧に長けた舌づかいによって、体の奥の秘めた熱が外へと引きずり出されていった。
(ヤバッ……持ってかれる)
 キツく吸われてしまうと、食い止める余地もなく爆ぜた。乱れた呼吸で視線の先に焦点を合わせると、ちょうど汗ばんだ白い喉が上下した瞬間が視界に映り、俺は唇を噛みしめた。こればかりは、やめろと言っても聞きやしない。
 俺の体は一気に弛緩しかけたが、津和は間を置かずに後ろへ指を這わせ、丹念に解しはじめた。ぬるつく指はすでにローションがまぶされているのだろう、さして抵抗もなく挿し入れられ、奥を押し広げられる。
「くっ、ん、ん……」
 どのくらい経っただろうか。リズミカルに動いていた指がようやく抜かれると、一呼吸置いて、彼がゆっくり腰を進めてきた。
「うっ……!」
 痛みこそないが、圧迫感がハンパなく、息がなかなか整わない。喉から漏れる不規則な息づかいに酸欠状態になりそうで、この瞬間は何度経験しても慣れそうになかった。
「ケイ……ケイ……こっちを見て」
 津和のこらえるような表情は、壮絶なまでに色香があって、濡れた唇から漏れる吐息すら艶めいて響く。きっと、もっと自由に動きたいはずだ。それなのに、ここでも俺の体を気づかって、なかなか思いのまま動いてくれない。
(クソッ、なんだよ……!)
 やさしく抱かれているのが、かえってつらくてやるせない。でも、ここで俺が泣きごとを言えば、ますます津和は遠慮してしまう……そして、きっと後悔する。それだけは、どうしても阻止しなくては。
「もっと、欲しいから、もう」
「ケイ……駄目だって」
「あ、あずさ……う、動いて」
 下の名前で呼んだとたん、律動が激しくなった。津和の荒くなっていく呼吸が、触れあう汗ばんだ肌が、俺に密かな安堵感をもたらす。そうだ、もっと動いてとばかり、俺は力を失いかけた両足をなんとか彼の腰にからませた。そして何度も、動きが鈍くなりそうな気配を感じるたびに、俺は彼の名前を呼び続けた。
「あずさ、あず、さ」
「ズルい……ケイ、それは反則だ……!」
 彼の紳士的な部分がなりをひそめ、ギラついた本能が顔をのぞかせる。中途半端な気づかいなんていらない。理性なんてかなぐり捨てて、存分に求めてほしい。

「……ズルいよ、君は」
 シャワーを浴びて風呂場を出ると、津和がタオルを手に不機嫌そうな様子でこちらをにらんでいた。
「どうしてそう、男前なんだよ」
「どこがだよ……てっ、こら、やめろ」
 頭から乱暴にタオルをかぶせられ、髪をぐしゃぐしゃとかき回すように拭かれる。
「俺が名前呼びに弱いって、知っててあんな煽るような真似して」
「だって。そうしなきゃ、あんた、俺だけ気持ち良くして、ぬるく終わらせるつもりだっただろ?」
 俺はタオルを奪い取ると、津和に背を向けて自分で髪を拭く。洗面台の鏡の中で、津和の不満げな顔に、俺は眉を下げた。
「てかゴメン、そもそも俺が悪かったよ。あんたの好意を、下手なお返しで無下にするとこだった。サイテーだよな」
「……いや、そこまで大げさじゃない。俺も少し大人げなかった。素直に君の好意を、受け止めるべきだった」
 結論。俺たちはどっちも、人の好意の受け止めかたが下手過ぎ。
「本当は、君の気づかいがうれしかった。本当だよ?」
「俺こそ、あんたの気づかいに感謝してるよ。だから単純に、俺もなにかしてあげれたらいいなって、そう思っただけ」
「そうか」
 互いにちょっとずつ、嘘が混じっている。津和は、俺がまるで損得勘定のように、彼の善意を労働でチャラにしようとしたことに、まだ少し怒ってる。そして俺は、彼の一方的な献身に納得がいってなかった。どうして尽くそうとばかりするのだろう。俺から返せるものなんて、大したことなくても、少しくらいは受け取ってほしいのに。
(津和くらいなんでも持っていると、逆になにをもらったらうれしいのか、自分でよくわからないのかもな)
 俺の好意を受けとめてほしいなんて、傲慢かもしれない。でもそうでもしなければ、どうやって彼への思いを伝えたらいいのかわからない。薄っぺらな言葉や、善意の対価とかんちがいされる労働では、到底彼の心に響かない。
(あれ、そもそも俺、あいつに好きって言ったっけ?)
 言ったような気がしていたが、これまで面と向かってはっきり伝えてなかったと思う。だが今さら口に出して、信じてもらえるだろうか。それこそ薄っぺらい言葉に響かないか心配だ。
 津和のペースに流されて、世話を焼かれるうちに、いつの間にかほだされて、うやむやなまま付き合いだした、と言われれば否定できない。ここまで尽くされたあとでは、今さら好きだと言っても、信憑性が無いように取られかねない。
 津和はいつも自分のほうが俺を好きだと言って、どこか得意げに笑う。これまで彼の気持ちが理解できなかったが、今は少しばかりうらやましい。俺も、彼に夢中になれば、自分が彼になにをしたいのか、どうよろこばせたいのか、自ずとわかるのだろう。
(俺ちゃんとあいつのこと、好きなのかな……)
 津和の姿を見ていると、彼の気持ちに追いついてないことを、まざまざと見せつけられているようでくやしい。津和は俺をズルいと言うが、あいつこそズルいと思う。
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