佐渡島のあやかし(第３話)など 短編集

4章

不思議な塗り薬

　ロビンは、夢中でバルコニーに飛び出した。巨大なカマキリが、あっという間に鎌かまでロビンの胴体を挟はさむ。そして獲物えものを自慢するかのように、ロビンと、アンジェラを高くかかげた。
　
　束になった目（複眼）に睨にらまれてロビンは、ぞっとした。
　
　グイグイと、鎌かまにしめ付けられる。いまにも骨が砕くだかれそうだ。
　　痛いーーー痛いーーー
このままでは、身体が真っ二つに裂さかれてしまう。カマキリに弱点はないのか？

　美雲島でクワガタと戦わせたら、簡単に足がもげた。
　コイツも巨大化しているが、足はか細い。

　負のエネルギー集中！

　ロビンは、手のひらをアンジェラを捕とらえているカマキリの足に向けた。一心に念じると手から閃光せんこうが飛び出した。カマキリの足がじりじりと燃えていく。いやな臭いひろがった。カマキリが、苦しそうに体をよじると、足がポロリともげた。そしてアンジェラは、地面にほうり出される。

　やった！上手くいった。
じゃあ、トンボは、指をクルクル回すと目を回す。コイツは？
　
　ロビンは、カマキリの目に十字の印を向けた。手のひらから、青白い光が出ると、カマキリは眩まぶしそうに目をグルグルさせる。そして、鎌かまを力なく下げてロビンを放し、二本の脚でよろよろと歩きながら、退散して行った。

　ロビンは、地面に倒たおれているアンジェラに駆け寄った。

「アンジェラ！大丈夫か？」

「……」

「アンジェラ！アンジェラ！」
　肩に触れるが死んだように動かない。そっと、頬ほほをなでてみる。
アンジェラの頬ほほが、ピクピク動き始めた。可笑しくてたまらない、という風に「キャハハ」とふきだしながら起き上がった。

「たく、おどかすなよ」

　アンジェラは答えるかわりに、ちょっと肩をすくめて微笑んだ。そして、地面に転がっていたバスケットを拾い上げ、チューブを取り出した。

「薬草園のキャロットが、お薬を届けてくれたの。これを塗ぬれば毛がどんどん抜けるんですって。ノアを人間に戻せるわ」


　ロビンは、アンジェラがくれた軟膏なんこうをベストの内ポケットに入れた。ここなら、落とす心配はない。
　
　ミカエルとダンダン、そして村の議員達が王宮の会議室からぞろぞろと出て来た。そして、ロビンとアンジェラを取り囲む。
「大丈夫か？！」
「助かってよかった」
「恐竜みたいなカマキリだ」

　大人達は大騒ぎ。総理大臣のミカエルは、すぐさま会議を中止して、全員が安全な所に避難ひなんするように指示をだした。

　ロビンとアンジェラも、王宮の地下室にある避難所ひなんじょに隠れているように言われた。

　けれど、アンジェラは、バスケットを手にし、城を背にして歩き出した。
　ロビンは、「どこへ行くの？」と追いかける。

「村に住んでいるサラサおばさんにお届けものがあるの。ロビンも行きましょうよ。こんないいお天気の日に、お城の地下室に籠こもっているなんて、もったいない」

　アンジェラに誘さそわれて、ロビンも村に出かけることにした。