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第3章
花ふぶき(31p)
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こんなのは、どう?
花ふぶき
風を誘いて
乱れ舞い
美しき人
華と散りゆく
どこかで、聞いたような歌だけど、これ以上は無理。あとは、決行の日付を書こう!書いた日付を決行予定日のあさってにする。そうすれば……聡明な宮様は不信に思ってクーデタを察知してくださるかもしれない。
桃子に貰った綺麗な便せんと封筒を取り出す。本当は巻紙に筆でしたためたいのだけれど。書道は苦手だし。やっと書いた短歌の下に
『熱い思いが爆発して国を焦がしてしまいそう。自分の気持とは思えません。この歌の意味を察知してお救い下さい』と、書き添えた。
宮様以外の人に見つかってもこれなら返し歌として、言い逃れが出来る。宛名は”石井殿”とした。彼女から
『お文を差し上げると宮様はきっと、御喜びになられる。お歌ができたら封筒には”石井殿”と私宛にお書きになって。誰にも内緒で、宮様にお渡ししますわ。お返事の仕方にも宮中のお作法がございますの』
と、言われていたから。
見かけは可愛いい手紙が出来た。すぐに届けたい。もう八時を回っているけれど今夜中にお知らせしたい。宮様のお屋敷は近い。先日、車でお迎えが来た時は数分でついてしまった。歩いていける距離だわ。召し使いのふりをして手紙をお屋敷に届けよう。
地味な服に着替えて玄関からこっそり出ようとした。が、黒い制服を着た執事が数人立っている。出かけると怪しまれそうだ。いや、見つかれば、こんな時間に外出なんて許されない。どうしよう……せっかく手紙を書いたのに。渡さなければ、意味はない。けれど、目立ってしまえば、詮索されて輝のクーデタ計画まで漏れてしまう。
うろうろしていると。
「おじょうさま?いかがなさいました?」
と執事の上田が話しかけてきた。
「…竹宮様の所へ…」
上田の優しい雰囲気に気が緩んで、つい言いかけた。
「行きたい?のですか?」と囁くように聞く。
黙って頷く。
「何か、急な御用でもおありなのですか?車を手配させましょうか?」
「いいえ、その必要はありません。」
目だってしまうと困る。
「ふむ――では、いかがいたしましょう……」
「秘密に渡したいお手紙が……」
上田は、ニッコリ笑った。そして小声で
「了解しました。私がこっそりお届けいたしましょう」
「え?」
「ご安心下さい。竹宮様もさぞかしお喜びでしょう。すぐに届けてまいります」
上田はラブレターだと思っている。封筒を上田に手渡した。
「じゃ、お願い。でも誰にも、秘密にしておいてね」
それから二日後―――クーデタ決行の日は何も起こらなかった。
お屋敷の応接間には新聞がおいてあるのでこっそりそれを自分の部屋へ持ち込んで関連した記事を探す。でも、たいした記事もなくクーデタの記事は見当たらなかった。そして、登校時に、竹宮様のお姿を見ることはなくなった。
数日経った頃――登校する車の中でお付きの多恵さんが不思議そうにつぶやいた。
「竹宮様は、いかがなされたのでしょう?毎朝、鈴子様にご挨拶されていたのに。この頃、お見かけしませんね?」
私も気になっていたが、あえて聞きにくい事だった。
「宮様は徒歩で登校するのを禁じられています」
助手席の上田が前を見たまま答えた。
「え?どうして」
「政府転覆の計画があって、陛下が皇族の方々に注意を呼び掛けたのです」
「まぁー!恐いこと。そんな計画があったなんて。知りませんでした」
多恵さんは声を張り上げる。
「当局はこの件を伏せていますから。首謀者の処分も軽いでしょう。クーデタごっこと噂されています。なにしろ、この計画はまっ先に宮中に漏れてしまった」
あっ!
竹宮様が宮中に知らせたのだろうか?確かめる術はない。とにかく、伯爵様が無事でよかった。軍人が政治家を殺すなんて恐ろしい事件が起こるはずはない。そう、思った。数ヶ月後、桜会主導のクーデタの計画があった事が新聞やラジオで小さく報じられた。計画に関わった軍人達は左遷され、満州などに移動した。輝も大陸に行ったのだろうか―――
花ふぶき
風を誘いて
乱れ舞い
美しき人
華と散りゆく
どこかで、聞いたような歌だけど、これ以上は無理。あとは、決行の日付を書こう!書いた日付を決行予定日のあさってにする。そうすれば……聡明な宮様は不信に思ってクーデタを察知してくださるかもしれない。
桃子に貰った綺麗な便せんと封筒を取り出す。本当は巻紙に筆でしたためたいのだけれど。書道は苦手だし。やっと書いた短歌の下に
『熱い思いが爆発して国を焦がしてしまいそう。自分の気持とは思えません。この歌の意味を察知してお救い下さい』と、書き添えた。
宮様以外の人に見つかってもこれなら返し歌として、言い逃れが出来る。宛名は”石井殿”とした。彼女から
『お文を差し上げると宮様はきっと、御喜びになられる。お歌ができたら封筒には”石井殿”と私宛にお書きになって。誰にも内緒で、宮様にお渡ししますわ。お返事の仕方にも宮中のお作法がございますの』
と、言われていたから。
見かけは可愛いい手紙が出来た。すぐに届けたい。もう八時を回っているけれど今夜中にお知らせしたい。宮様のお屋敷は近い。先日、車でお迎えが来た時は数分でついてしまった。歩いていける距離だわ。召し使いのふりをして手紙をお屋敷に届けよう。
地味な服に着替えて玄関からこっそり出ようとした。が、黒い制服を着た執事が数人立っている。出かけると怪しまれそうだ。いや、見つかれば、こんな時間に外出なんて許されない。どうしよう……せっかく手紙を書いたのに。渡さなければ、意味はない。けれど、目立ってしまえば、詮索されて輝のクーデタ計画まで漏れてしまう。
うろうろしていると。
「おじょうさま?いかがなさいました?」
と執事の上田が話しかけてきた。
「…竹宮様の所へ…」
上田の優しい雰囲気に気が緩んで、つい言いかけた。
「行きたい?のですか?」と囁くように聞く。
黙って頷く。
「何か、急な御用でもおありなのですか?車を手配させましょうか?」
「いいえ、その必要はありません。」
目だってしまうと困る。
「ふむ――では、いかがいたしましょう……」
「秘密に渡したいお手紙が……」
上田は、ニッコリ笑った。そして小声で
「了解しました。私がこっそりお届けいたしましょう」
「え?」
「ご安心下さい。竹宮様もさぞかしお喜びでしょう。すぐに届けてまいります」
上田はラブレターだと思っている。封筒を上田に手渡した。
「じゃ、お願い。でも誰にも、秘密にしておいてね」
それから二日後―――クーデタ決行の日は何も起こらなかった。
お屋敷の応接間には新聞がおいてあるのでこっそりそれを自分の部屋へ持ち込んで関連した記事を探す。でも、たいした記事もなくクーデタの記事は見当たらなかった。そして、登校時に、竹宮様のお姿を見ることはなくなった。
数日経った頃――登校する車の中でお付きの多恵さんが不思議そうにつぶやいた。
「竹宮様は、いかがなされたのでしょう?毎朝、鈴子様にご挨拶されていたのに。この頃、お見かけしませんね?」
私も気になっていたが、あえて聞きにくい事だった。
「宮様は徒歩で登校するのを禁じられています」
助手席の上田が前を見たまま答えた。
「え?どうして」
「政府転覆の計画があって、陛下が皇族の方々に注意を呼び掛けたのです」
「まぁー!恐いこと。そんな計画があったなんて。知りませんでした」
多恵さんは声を張り上げる。
「当局はこの件を伏せていますから。首謀者の処分も軽いでしょう。クーデタごっこと噂されています。なにしろ、この計画はまっ先に宮中に漏れてしまった」
あっ!
竹宮様が宮中に知らせたのだろうか?確かめる術はない。とにかく、伯爵様が無事でよかった。軍人が政治家を殺すなんて恐ろしい事件が起こるはずはない。そう、思った。数ヶ月後、桜会主導のクーデタの計画があった事が新聞やラジオで小さく報じられた。計画に関わった軍人達は左遷され、満州などに移動した。輝も大陸に行ったのだろうか―――
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