吉原お嬢

あさのりんご

文字の大きさ
上 下
16 / 42
第2章

ガーデンパーティーは、日曜日(16P)

しおりを挟む
 お種さんに、お歌の意味を聞いて驚いた。
 み、み、宮様が私なんかに?と、と、とんでもない。
 お種さんから、話しを聞いて、奥様は怒っているかもしれない。
 憂鬱な気分なので、ゆっくりと夫人室に向かう。
 
 「鈴子さん、お待ちしていましたわ。学校はいかが?」
 夫人室に入ると鶴子奥様は、いつもと変わらず華やかに笑っている。
 よかった。御機嫌はいい。
 「はい。もう慣れました」
 「そう。それはなによりです。お種さんから聞きましたよ。お歌を頂いたのね。
  竹宮様は、お妃選びがまだですから。ちょうどいいわ。鈴子さんに園遊会のお知らせをしょうと思って、お呼びしたの。来週の日曜日ね。園遊会には竹宮様もお招きしていますから。鈴子さん。紫出原家の為にも、失礼のないように」
「園遊会…?」
「紫出原家の毎年の恒例行事ですの。お庭に屋台が出来たり、楽団の演奏があったりして、楽しいわよ」
「では、純一朗様も、お喜びですね」
「え?純一郎さんはいないわ」
「いない?」
「ええ。寮に入ったの。男子は質実剛健に育てなければいけないから。
 私から伯爵さまにお願いしたのよ。女人禁制の寮で朝は庭掃除をしてから学校よ。
 それに、帰ると剣道、柔道でしごかれて、座禅で精神修養もするの。ほっほっほ。あの、弱虫さんも、強くなれる」
「……いつ帰れるのですか?」
「わからないわ。でもね、こんな贅沢な暮しでは遊惰文弱になってしまうでしょう?男の子は、スパルタ教育すべきなの」
ええっ!
父親が再婚し家族からはみ出したジュン。その傷ついている小さな男の子に更に試練を与えるスパルタ教育をするなんて、可愛いそう。私とお手玉で遊ぶのを楽しみにしていたのに。ジュンに会いたい……あの、可愛い笑顔が見たい。涙がポロポロこぼれてきた。
「あら?泣いていらっしゃる?
 なんてはしたない!人前で、感情を出すのはとても下品な事ですよ。
 それにね。気味が悪いわ。純一郎さんの事で泣くなんて。”紫の上”じゃあるまいし」
「え?意味がよくわかりませんけど」
「源氏物語の、紫の上よ。光源氏が子供に恋をしてその子を自分好みに育てるってお話。純一郎さんも異常に鈴子さんを好きみたいだし。薄気味悪い……
 あ、私はこれから用事がありますの。失礼」
 奥様は屏風の後ろに消えた。

 とぼとぼと、自分の部屋へ歩く。人気のない廊下は磨きぬかれ、階段の壁には豪華な油絵がかけてある。高価な品物が溢れるこの屋敷に、ジュンはいない。まま母が、ジュンを追い出してしまった。でも、私は何もできないのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

大江戸美人揃

沢藤南湘
歴史・時代
江戸三大美人の半生です。

処理中です...