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第2章
竹宮様(14P)
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上田がうやうやしくドアを開け、私が車からを降りると、ちょうど、殿下と行き会ってしまった。
竹宮様は、海軍士官風の紺の制服と桜のき章の制冒が似合っていらした。高貴なお雛様みたいな御顔立ちについ見とれてしまう。皇族のお方をまじかに見るなんて。
現人神(あらひとがみ)としてこの国を治めている天皇の御親戚さま。どこか浮世離れしていらっしゃる。
と。すれ違う瞬間に、殿下は、白手袋をはめた右手をパッと上げ挙手の礼をされた!
「ゲッ!今のあたし!」
多恵さんに聞く。
「まぁ。なんてお品のない。”ゲッ”なんて言ってはいけません!」
「ごめんなさい」
「鈴子様…学校ではあまりお話にならないほうがよろしいかもしれません」
「はい?」
「特に、梅宮様とお話なさる時は失礼があってはいけません。『ごきげんよう』と『おそれいります』だけで、当分の間は間に会いますでしょう」
女子学習院の校舎は木造2階建。華美ではなく落ちついた雰囲気だった。
担任の大林先生は年配の婦人で背筋をシャンと伸ばし大きな声で私をクラスの生徒達に紹介してくれた。
田舎の尋常小学校を卒業してから五年間も学校にはご無沙汰している。
まして学習院、初登校なので緊張していたけれど。育ちがいい方ばかりで眠くなりそうな雰囲気。
決められた席は窓際の後ろから二番目。隣は桃子さん。小柄で可愛い感じの人。どこかで見た顔?もしかしたら…姐さん達と見ていた『婦女画報』のグラビァ写真で紹介されていた、良家のお嬢様かもしれない。
皆、真面目に先生の話しを聞いている……と思った瞬間、ヒューンと、紙飛行機が飛んできて机の上にストン、と落ちた。先生はしゃべりながら懸命に黒板に字を書いているから気づかない。
なんだろう…紙飛行機は便せんで折られている。開いてみると
「可愛い、可愛い鈴子様、私は深く愛してしまいました」
と美しい字で書いてある。桜色の便せんは良い香りまでする。隣の子も気になるらしくこっちを覗いている。
私は、そっと手紙を見せた。
桃子は、「どなたかしらね」と囁いてほほ笑んだ。どなたでも、こなたでも、女に決まっている。この教室に男はいない。女が女に“愛しているなんて!”
「気持ちわるい。なに?これ」
「S(エス)よ。Sをご存じないの?まぁ…鈴子様は世間知らずのお嬢様ですこと…ほっほっほ」
その笑い声を聞いて大林先生はサッと振り向き私達の方を睨む。先生は、恐い顔をして手紙を掴みとった。
そして、教壇まで戻ると
「この節、手紙のやりとりがさかんですが、これは禁じられております。このような事をなさるとご勉強がおろそかになります。皆さまは立派な日本婦人として国民の亀鑑(かがみ)となるべきお方達ですからご勉強を怠けるようでは、大恩ある皇室に対し畏れ多い極みでございます」
と厳かにおっしゃった。なんだか……女子学習院は吉原より気が抜けないかも。
竹宮様は、海軍士官風の紺の制服と桜のき章の制冒が似合っていらした。高貴なお雛様みたいな御顔立ちについ見とれてしまう。皇族のお方をまじかに見るなんて。
現人神(あらひとがみ)としてこの国を治めている天皇の御親戚さま。どこか浮世離れしていらっしゃる。
と。すれ違う瞬間に、殿下は、白手袋をはめた右手をパッと上げ挙手の礼をされた!
「ゲッ!今のあたし!」
多恵さんに聞く。
「まぁ。なんてお品のない。”ゲッ”なんて言ってはいけません!」
「ごめんなさい」
「鈴子様…学校ではあまりお話にならないほうがよろしいかもしれません」
「はい?」
「特に、梅宮様とお話なさる時は失礼があってはいけません。『ごきげんよう』と『おそれいります』だけで、当分の間は間に会いますでしょう」
女子学習院の校舎は木造2階建。華美ではなく落ちついた雰囲気だった。
担任の大林先生は年配の婦人で背筋をシャンと伸ばし大きな声で私をクラスの生徒達に紹介してくれた。
田舎の尋常小学校を卒業してから五年間も学校にはご無沙汰している。
まして学習院、初登校なので緊張していたけれど。育ちがいい方ばかりで眠くなりそうな雰囲気。
決められた席は窓際の後ろから二番目。隣は桃子さん。小柄で可愛い感じの人。どこかで見た顔?もしかしたら…姐さん達と見ていた『婦女画報』のグラビァ写真で紹介されていた、良家のお嬢様かもしれない。
皆、真面目に先生の話しを聞いている……と思った瞬間、ヒューンと、紙飛行機が飛んできて机の上にストン、と落ちた。先生はしゃべりながら懸命に黒板に字を書いているから気づかない。
なんだろう…紙飛行機は便せんで折られている。開いてみると
「可愛い、可愛い鈴子様、私は深く愛してしまいました」
と美しい字で書いてある。桜色の便せんは良い香りまでする。隣の子も気になるらしくこっちを覗いている。
私は、そっと手紙を見せた。
桃子は、「どなたかしらね」と囁いてほほ笑んだ。どなたでも、こなたでも、女に決まっている。この教室に男はいない。女が女に“愛しているなんて!”
「気持ちわるい。なに?これ」
「S(エス)よ。Sをご存じないの?まぁ…鈴子様は世間知らずのお嬢様ですこと…ほっほっほ」
その笑い声を聞いて大林先生はサッと振り向き私達の方を睨む。先生は、恐い顔をして手紙を掴みとった。
そして、教壇まで戻ると
「この節、手紙のやりとりがさかんですが、これは禁じられております。このような事をなさるとご勉強がおろそかになります。皆さまは立派な日本婦人として国民の亀鑑(かがみ)となるべきお方達ですからご勉強を怠けるようでは、大恩ある皇室に対し畏れ多い極みでございます」
と厳かにおっしゃった。なんだか……女子学習院は吉原より気が抜けないかも。
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