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第2章
お嬢様(10P)
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「お嬢様…お嬢様…」
微かに声が聞こえる。眠い……
「鈴子お嬢様」
お・じょ・う・さまぁ?
うっすらと目を開けると立派な格子天井が見えた。そっか、ここは、伯爵さまのお屋敷だっけ?
あわてて起き上がると、目の前にゆうべの女中さんがきちんと正座している。
「お目覚めですか?」
改めて彼女を見ると年配の人で、なんだか威厳がある。
「伯爵さまと、奥様がお待ちです。お召し物はこちらにご用意してございます。お着替え下さいませ」
「は?」
「廊下でお待ちしております。早くお召し替え下さい」
パタリとふすまが閉まった。
お、お召し物って?コイツ?服を取り上げた…青いジャンバースカートにレースのついた白いブラウス。可愛い!でも、洋服を着たことはない。スカートの前と後ろがわかりにくい。間違ったら、恥ずかしいし――なんとか、ボタンを止めて出来あがり。
着てみると、動きやすくて軽やかだ。小走りして部屋の隅にある鏡台の前に立ってみた。映る姿は、自分じゃないみたい。
「鈴子様、お急ぎ下さい」
外から呼ばれてはっとする。
廊下に飛び出すと「こちらへ」と女中さんは足早に歩き出した。
案内されるままに、大急ぎで渡り廊下を通り洋館に入った。長い廊下を歩いて絨毯を敷いた広い階段を登り、ドアのある部屋の前に来た。
金のノブを開けると、そこは別世界だった。なんと奇麗な部屋だろう!薔薇色の壁絹が張りめぐらされ、大理石のマントルピースの上には楕円形の鏡がはめ込まれていた。
正面の壁には大きな絵がかかっている。若い娘の絵で、ふっくらしたピンク色の肌、豊かな長い金髪は、まるで、生きているよう……でも、この女の人は、なんで裸なの?
「ごきげんよう」と、華やかな声がした。桜の刺繍で埋められた屏風の後ろから、スラリとした婦人が現れた。
格子模様のロングドレスが似合っていて、西洋人のような雰囲気がある。伯爵の奥様に違いない。
「おそれいります」
咄嗟に出た言葉に自信がない。おかしな事言ったかな―――と思いつつうやうやしく頭を下げた。
「いい画でしょう。イギリスに行っている時にパリの有名な画家に書かせたのよ。でも、どんなにいい絵でも、こうした画は客間には飾れないのよ。だってモデルさんは、お洋服を着ていないから。ホホホホ」
なんと明るい笑い声なの?大きな瞳は永遠の幸福を信じ切っているように陰りがない。田舎でも、吉原でもこんな笑い声を聞いたことはなかった。
「よく、眠れたかね?」
伯爵様も屏風の後ろから現れた。吉原では洋服だったが、今朝は紬の着物をゆったり着流している。屏風の後ろはお二人の寝室に違いない。
案内してくれた女中さんがテーブルに紅茶を並べ、3人で椅子に座った。
長いドレスの裾を優雅に揺らしながら腰を下ろした奥様。その足元に目を奪われた。失礼を忘れてじーっと見てしまう。なぜなら……革製の綺麗な赤い靴を履いていたから。家で靴を履くの!?この人、大丈夫?
微かに声が聞こえる。眠い……
「鈴子お嬢様」
お・じょ・う・さまぁ?
うっすらと目を開けると立派な格子天井が見えた。そっか、ここは、伯爵さまのお屋敷だっけ?
あわてて起き上がると、目の前にゆうべの女中さんがきちんと正座している。
「お目覚めですか?」
改めて彼女を見ると年配の人で、なんだか威厳がある。
「伯爵さまと、奥様がお待ちです。お召し物はこちらにご用意してございます。お着替え下さいませ」
「は?」
「廊下でお待ちしております。早くお召し替え下さい」
パタリとふすまが閉まった。
お、お召し物って?コイツ?服を取り上げた…青いジャンバースカートにレースのついた白いブラウス。可愛い!でも、洋服を着たことはない。スカートの前と後ろがわかりにくい。間違ったら、恥ずかしいし――なんとか、ボタンを止めて出来あがり。
着てみると、動きやすくて軽やかだ。小走りして部屋の隅にある鏡台の前に立ってみた。映る姿は、自分じゃないみたい。
「鈴子様、お急ぎ下さい」
外から呼ばれてはっとする。
廊下に飛び出すと「こちらへ」と女中さんは足早に歩き出した。
案内されるままに、大急ぎで渡り廊下を通り洋館に入った。長い廊下を歩いて絨毯を敷いた広い階段を登り、ドアのある部屋の前に来た。
金のノブを開けると、そこは別世界だった。なんと奇麗な部屋だろう!薔薇色の壁絹が張りめぐらされ、大理石のマントルピースの上には楕円形の鏡がはめ込まれていた。
正面の壁には大きな絵がかかっている。若い娘の絵で、ふっくらしたピンク色の肌、豊かな長い金髪は、まるで、生きているよう……でも、この女の人は、なんで裸なの?
「ごきげんよう」と、華やかな声がした。桜の刺繍で埋められた屏風の後ろから、スラリとした婦人が現れた。
格子模様のロングドレスが似合っていて、西洋人のような雰囲気がある。伯爵の奥様に違いない。
「おそれいります」
咄嗟に出た言葉に自信がない。おかしな事言ったかな―――と思いつつうやうやしく頭を下げた。
「いい画でしょう。イギリスに行っている時にパリの有名な画家に書かせたのよ。でも、どんなにいい絵でも、こうした画は客間には飾れないのよ。だってモデルさんは、お洋服を着ていないから。ホホホホ」
なんと明るい笑い声なの?大きな瞳は永遠の幸福を信じ切っているように陰りがない。田舎でも、吉原でもこんな笑い声を聞いたことはなかった。
「よく、眠れたかね?」
伯爵様も屏風の後ろから現れた。吉原では洋服だったが、今朝は紬の着物をゆったり着流している。屏風の後ろはお二人の寝室に違いない。
案内してくれた女中さんがテーブルに紅茶を並べ、3人で椅子に座った。
長いドレスの裾を優雅に揺らしながら腰を下ろした奥様。その足元に目を奪われた。失礼を忘れてじーっと見てしまう。なぜなら……革製の綺麗な赤い靴を履いていたから。家で靴を履くの!?この人、大丈夫?
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