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第1章
私の値段は、500円(8P)
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走り疲れて、“松野屋”にたどり着く。帰りを待っていた伯爵様に事件の様子を報告した。暴漢が”血盟団”の一味だと告げると口髭をブルブルと震わせ目を見開いた。
「血盟団を率いている”井上日召”は、『一人一殺』を唱えておる。
民間から血盟団がテロを開始すれば、これに続いて軍人がクーデタ決行に踏み切り昭和維新が実現すると、人心を煽っているのだ。
純一郎が奴らの手に渡っていたら、殺されていただろう。危ない所を鈴子君が救ってくれて、助かった。礼を言うぞ。淳一朗、恐い思いをさせて悪かったな。ここは、大人が来る所だ。もう来るのは止めよう」
「じゃあ、もう、鈴に会えないの?!いやだ。そんなの絶対いや」
ジュンの目から涙がポロポロとこぼれた。暴漢にさらわれた時でも涙を見せなかった気丈な子が声を殺して泣いている。私も、鼻がツンと痛くなって、視界がぼやけてきた。でも泣かない。涙を見せたらジュンはもっと悲しくなる。
ジュンとは住む世界が違うもの。一緒に暮らせるはずもない。
「お父様。鈴を買って!」
「な、何を言うのだ。人を買うなんて……」
「ううん。鈴は、僕の靴と同じ。お金で買えるよ」
あらら――ジュンにマズイ事言ってしまった。さっき、提灯行列の時に話した事をしっかり覚えている。冗談半分だったけど本気にしている。でも…でも、ジュンと同じ屋敷に住めたら…それはあまりにも幸せ。夢物語りだけれど伯爵様に心からお願いしてみよう。
「伯爵さま!私は借金が五百円あります。だから吉原で何年も働いてお金を返さなければなりません。でも女将さんにそのお金を払って下さればここを出られるのです。私一生懸命働きます。どうか……お屋敷につれていって下さい」
低く頭を下げた。
どうか―――どうか―――吉原から出られますように―――
「ふーむ……純一郎を助けてくれた君の願いだ。断るわけにはいくまい。
しかし……屋敷の使用人は、代々仕えているものばかりじゃ。吉原育ちの君を屋敷に連れていくのは、難しいな」
「はい……」
やっぱり、無理かな。貧しい生まれ。伯爵さまのお屋敷に御奉公できるわけがない。
「失礼だが、簡単に君の生い立ちを話してくれないかね」
「え?!」
伯爵さまは優しそうに微笑んだ。
「あの…山形の農家で長女として生まれました。父は数年前に病気で亡くなって、弟が一人と母がいます。母方の爺様は軍人さんで……日露戦争で勇敢に戦って死んだそうです…
あの……生まれながらの貧乏人で、伯爵様に申し上げるような身の上話じゃないです。
でも、読み書きは出来ます。それに、行儀作法も。吉原で、勉強させてもらいましたから」
”花魁は、大名道具”と言われたぐらいで身分の高い人のお相手が出来るように高い教養が求められてきた。読み書き、ソロバンばかりではなくお茶や、香道、まで仕込まれる。
「うーむ……純一郎の命の恩人をこの吉原で働かせては申し訳ない…では、こうしよう。鈴子君は、わしの遠縁にあたる娘さんで、両親を亡くして上京して来たーそんな話にしよう。
いいな。純一朗も鈴子君が吉原にいた事は秘密にしておけ。お母さまにも言うな。面倒な事になるから」
「はい。わかりました。男同士の約束ですよね。お父様」
ジュンは、大きく頷いた。
「鈴子君の見受け話しは、総務の者にやらせよう。話しが決まれば屋敷から迎えの者をよこす」
「ありがとうございます。」
何度も頭を下げたけれど。伯爵さまの言葉は、半信半疑。夢物語だから期待してなかった。
「血盟団を率いている”井上日召”は、『一人一殺』を唱えておる。
民間から血盟団がテロを開始すれば、これに続いて軍人がクーデタ決行に踏み切り昭和維新が実現すると、人心を煽っているのだ。
純一郎が奴らの手に渡っていたら、殺されていただろう。危ない所を鈴子君が救ってくれて、助かった。礼を言うぞ。淳一朗、恐い思いをさせて悪かったな。ここは、大人が来る所だ。もう来るのは止めよう」
「じゃあ、もう、鈴に会えないの?!いやだ。そんなの絶対いや」
ジュンの目から涙がポロポロとこぼれた。暴漢にさらわれた時でも涙を見せなかった気丈な子が声を殺して泣いている。私も、鼻がツンと痛くなって、視界がぼやけてきた。でも泣かない。涙を見せたらジュンはもっと悲しくなる。
ジュンとは住む世界が違うもの。一緒に暮らせるはずもない。
「お父様。鈴を買って!」
「な、何を言うのだ。人を買うなんて……」
「ううん。鈴は、僕の靴と同じ。お金で買えるよ」
あらら――ジュンにマズイ事言ってしまった。さっき、提灯行列の時に話した事をしっかり覚えている。冗談半分だったけど本気にしている。でも…でも、ジュンと同じ屋敷に住めたら…それはあまりにも幸せ。夢物語りだけれど伯爵様に心からお願いしてみよう。
「伯爵さま!私は借金が五百円あります。だから吉原で何年も働いてお金を返さなければなりません。でも女将さんにそのお金を払って下さればここを出られるのです。私一生懸命働きます。どうか……お屋敷につれていって下さい」
低く頭を下げた。
どうか―――どうか―――吉原から出られますように―――
「ふーむ……純一郎を助けてくれた君の願いだ。断るわけにはいくまい。
しかし……屋敷の使用人は、代々仕えているものばかりじゃ。吉原育ちの君を屋敷に連れていくのは、難しいな」
「はい……」
やっぱり、無理かな。貧しい生まれ。伯爵さまのお屋敷に御奉公できるわけがない。
「失礼だが、簡単に君の生い立ちを話してくれないかね」
「え?!」
伯爵さまは優しそうに微笑んだ。
「あの…山形の農家で長女として生まれました。父は数年前に病気で亡くなって、弟が一人と母がいます。母方の爺様は軍人さんで……日露戦争で勇敢に戦って死んだそうです…
あの……生まれながらの貧乏人で、伯爵様に申し上げるような身の上話じゃないです。
でも、読み書きは出来ます。それに、行儀作法も。吉原で、勉強させてもらいましたから」
”花魁は、大名道具”と言われたぐらいで身分の高い人のお相手が出来るように高い教養が求められてきた。読み書き、ソロバンばかりではなくお茶や、香道、まで仕込まれる。
「うーむ……純一郎の命の恩人をこの吉原で働かせては申し訳ない…では、こうしよう。鈴子君は、わしの遠縁にあたる娘さんで、両親を亡くして上京して来たーそんな話にしよう。
いいな。純一朗も鈴子君が吉原にいた事は秘密にしておけ。お母さまにも言うな。面倒な事になるから」
「はい。わかりました。男同士の約束ですよね。お父様」
ジュンは、大きく頷いた。
「鈴子君の見受け話しは、総務の者にやらせよう。話しが決まれば屋敷から迎えの者をよこす」
「ありがとうございます。」
何度も頭を下げたけれど。伯爵さまの言葉は、半信半疑。夢物語だから期待してなかった。
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