吉原お嬢

あさのりんご

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第1章

玉簪:たまかんざし(4p)

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 女部屋は着替えたり、化粧をする部屋になっている。隅にあるその部屋に入ると夏代さんが一人座っていた。姐さんは髪を結いあげお化粧も済ませていた。

 「鈴ちゃんが、お座敷係りでよかったね。びっくりするといけないから、知らせておくけど。輝さんが来ているよ。うらやましい」
 夏代さんは帯をグイと締めあげる。 
 「え?お座敷に出るのですか?」
 お座敷でお客の相手をしたことはほとんどない。今まではお酒や料理を運ぶぐらいだったけれど大丈夫?
「あら。女将さんから聞いてないの。お座敷に出るのよ。
 二階には”桜会”の連中が来ている。あの人達は常連さんだよ」
「常連さん?」
「そう。輝さんは一番目立つね。俳優の”バンツマ”阪東妻三郎にそっくり。
 あんな、男と、幼馴染みなんて、夢みたい。せっかくだから話しておいで。
 兵隊さんはね……いつ戦場に出るかわからない。いつも吉原で遊んでいる若旦那とは違うだろ」
「えっ…戦場?」
「満州じゃ、戦争が起きているのさ。ここだけの話だけど二階にいる将校さん達の中には事件を起こして満州に左遷された人達がいるのよ。だけど、日本にいる。ま、公然の秘密らしいけど。」
「満州…?」
「うん。左遷されたのに…勝手に帰ってくるし。困った連中だね。ははは。鈴ちゃん、満州を知っている?」
「はい。親戚が開拓団で、満州に行きました。」
「そうか…日本も不景気だけど、開拓団も、大変らしい。満州は匪賊が出るから。それに、アメリカが満鉄をねらっている。日本は、軍人さんだけが頼りだね。政治家は理屈ばかりで、ダメなんだよ。」
「姐さんは、詳しいですね」
「ここには、いろんな客がくるだろう。
身分を隠していても解っちまうね。
お酒飲みながらの会合だからさ。
横でお酌しているとヒミツを沢山聞いてしまう。
鈴もこれからは、お座敷でいろんな話しを聞くだろうけど、黙ってな。
”マタハリ”みたいになると大変だから」
「え?なんですか?そのマタハリって?」
「知らないの?巴里(パリ)の高級娼婦だよ。マタハリが踊り子だった時の写真を見たけど奇麗な人でねぇ…軍の偉い人と、何人も関係を持っていたらしい。利用されたのか……好きな男の為に働いたのか……女スパイって烙印を押されて銃殺された。可愛そう…」
 手慣れた夏代さんはお喋りしながら、素早く髪を結い上げた。青紫地の友禅を着せてもらう。鏡に映る姿が大人っぽい。
「鈴ちゃん、かんざしは?」
「持ってないです」
「いいのがあるけど……こればっかりは…どうかな……?」
 夏代さんは鏡台の引きだしからかんざしを取り出して見せてくれた。それは、銀の太い柄に息をのむ程美しい赤色の玉がついた゛玉かんざし゛だった。
「わっ!奇麗…」
「ああ。お江戸の頃、太夫が使っていた絶品さ。だけど誰も使わない」
「どうして?」
「心中に使われたらしいよ。銀の柄が凄く尖がっているだろう。
これで、胸を一突きしたらあの世行き。
こんな話を聞いちゃ鈴ちゃんも、気味が悪いだろ?」
「平気です!奇麗なモンは奇麗だし。あの世で結ばれたなら、不吉じゃない。お守りになります。
「強いねぇー
じゃぁ、これはあんたが使っていいよ」
「ありがとうございます!」
 好きな男とあの世で結ばれた花魁の簪(かんざし)は炎のように煌(きら)めいている。髪に刺すと大人っぽく見えた。好きだな。これ。いつも髪に飾っておこう。”赤は魔よけの色”母さんはそう言っていた。お守りになる。
「できあがり!目がキラキラして、色が白くて鈴ちゃん、ホント奇麗になったね。
さあ――二階に行っといで」

「お酒飲みの軍人さん、いやだな」
「何、言ってんの。あの人達は、男だけの士官学校を出たばかり。女にはめっぽう弱いから、大丈夫さ」
階段を上がりきって部屋の前で深呼吸。手ぶらだけどいいのかな?
ま、いいか。思い切って「失礼します」と襖を開けた。
「お!可愛いな」
「お酌してよ」
なんて声が飛んできた。
座敷を見回すと、軍人さんばかり二十人ぐらい集まっている。みんな若い。
どこに行けばいいの…
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