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第7章

ざまぁは、少しだけ(59p)<エピソード>

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 放浪生活を続けて、半年余りが過ぎた。
 影のように芳子を護衛していた于景泰が、“ついの棲家”を見つけたのである。長春市郊外の新立城の農家で、彼の親戚の離れがあると言う。長春なら、土地勘がある。人里を離れた農家なら安全な場所に違いない。
 
 芳子と山家は、長春に向かう為、瀋陽(以前の奉天)を出ることにした。瀋陽は、城壁に囲まれた古くからの街と、満州国が建設した新都市が同居していて、独特の雰囲気がある。瀋陽の城壁内は、人力車すら通れないほどの雑然とした町並みで、身を潜めるには、好都合であった。

 瀋陽での最期の夜―--二人は、屋台で粥をすすっていた。鍋から上がる湯気の向こうに雄大な奉天城の城壁が見えていた。この古都は、清王朝の副都だった。今―――この街は迫りくる共産党との決戦を前にして、男達は殺気立っている。芳子を捕えた国民党は、共産党に追い詰められていた。

「あんた、やけに、気取って食ってるじゃねぇの」
いかつい男が、ドンと芳子の隣に座った。はだけた胸から薔薇の入れ墨が見える。
芳子は、無視して、煙草を取り出した。
「さすが、兄貴、目が早い。いい娘がいますね」
「ねえちゃん、一緒に飲むか?」
向かいの席に子分らしき二人が陣取ってしまう。

「面倒だ。出よう。」
 山家は、危険を避けようと席を立った。
「おい!俺と飲めよ」
 入れ墨の男は、芳子の腰に手を回して引き寄せた。
「君、止め給え」
 山家が、その手を払いのけた。
「おい!ジジイをやっちまえ!」
「おう!」
 二人のチンピラは同時に山家に襲いかかった。
素早く身をかわした山家は、一人を抱え上げ、ドスンと地面に叩きつけ、後方から、襲って来た男に振り向きざま、強烈な足蹴りを食らわせた。
「貴様!」
 入れ墨の男がポケットからナイフを取り出し、おじ様にじりじりと寄っていく。おじ様は、ゆっくり後ずさりながら、後ろ手で芳子に合図する。
 ―――ステッキだ!
 芳子は、素早く、彼の手にステッキを握らせた。次の瞬間、山家は、相手の腹をグイと一突きした。
「ギャ!」
 男は、しゃがみこんだ。
 
「これは、ピストルにもなる――」
 山家は、ステッキで入れ墨男に狙いを定めた。
 三人は慌てて逃げていく。が、入れ墨の男がつまずいて転んでしまい、それにぶつかって、二人のチンピラも転んでしまった。
「はっはっは」 
「ざまぁーーみろ」
 芳子と山家は、顔を見合わせ、声をたてて笑った。
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