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第4章

掃き溜めに鶴(23P)

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 夜会は、満鉄ホテルで行われていた。芳子は、金子に伴なわれ大広間に入る。すでに大勢の人達が集まっていた。 
煌めくシャンデリヤの下で、ブルースが演奏され、豪華なドレスを纏った金髪美人や、チャイナドレスに身を包んだ姑娘クーニャンが踊っていた。
 金子は、人波を縫うように歩きながら、巧妙に挨拶を交わしていく。近くにいた軍人が、サイフをポトリと床に落とした。金子は、目ざとくそれを拾い、彼に近づき、「田中大佐、落としましたよ」とサイフを差し出した。男は礼も言わず、サイフをポケットにねじ込む。
「君は、誰?」
 金子は慇懃いんぎんに頭を下げた。
「帝国物産の金子でございます。こちらは、川島芳子さん。清朝の……」
 金子の言葉を最期まで、言わせず田中大佐は、芳子の肩をポンと叩いた。
「おお!ヨコちゃんじゃないか。
いやー大きくなった。こんな所で、ばったり出会うなんて、何かの縁じゃな」
 芳子は、田中の顔を確かめた。口をへの字に曲げた浅黒い顔―――記憶にないが、どこか懐かしい。
 曖昧な笑顔を返した。
「昔、川島浪速先生が、音羽の護国寺で慰霊法要を行われた。満州で戦った亡き日本兵を弔ったのだよ。その時、ヨコちゃんは、川島先生の横にちょこんと座っておった。かわいいお嬢さんだと思っていたけれど。綺麗になったなぁー
 金子君、今夜は美人が大勢集まっているが、ヨコちゃんが、一番、目立って綺麗じゃないか?」
「そりゃ、もう。芳子さんは、掃きだめに降り立った鶴のように、禀としてお美しい」
「わははは。君、掃きだめはないだろ」
「はっ、失礼致しました。私は、飲み物を持って参ります」

 芳子の装いは、白いチャイナドレスに真珠の髪飾りとイヤリング。ワントーンコーデの芳子は、白無垢の花嫁のように注目の的であった。昨日、彼女は、バンド(上海繁華街の通称)に行き、ドレスと宝石を買ったのである。二千円が残るとくやしいので、使い切ってしまったが、せいせいした心持である。

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