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第2章

普通の娘なら―――(7p)

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 芳子は、山家を『九重』へ誘った。店内は、日曜日の昼時とあって、混んでいた。芳子が空席を探していると、隅のテーブルに座っていた人が手をふった。みると親友の文子が、恋人の清太郎と座っている。文子は束髪に桜色の着物姿であでやかに見える。清太郎は、芳子に丁重に頭を下げた。
 文子は、山家に気がつくと、
「ヨコちゃんに、彼がいるなんて知らなかった。
すごい美男子でびっくりよ。お似合いね」とあたりに聞こえるような声で言う。
 山家は、いそいでとりなした。
「俺は、彼氏なんかじゃない。お姫様のおり役だ」
 文子はむきになっている山家を見て
「あら!山家さん、ごめんなさい。彼氏じゃなかったのね。
 わたし、そそっかしいから、てっきりランデブーかと思ったわ。
 じぁ……私達は、もう食べちゃったから、ここの席、どうぞ」と立ち上がる。
 清太郎も席を譲り、二人は出ていった。

 芳子は、運ばれてきたお茶をグイと飲み下す。
「おじ様、ボクを子供扱いするのはよしてくれたまえ」
「ははは。それは失礼しました。
 芳子さんの”彼”と誤解されちゃうとヤバイだろと思ってさ。変な噂が立つと川島先生にも申し訳ない」
「人からどう思われるかなんて、ボクは気にしない」 
「君が、普通の娘ならよかったな」
「迷惑かけてすまない―――」
「俺が、迷惑?まさか!普通の子なら、とっくに―――」
 山家は、照れくさそうに笑って下を向いた。
「芳子ちゃん、お腹すいただろう?食べよう。俺達は、色気より、食い気だ」
 山家の食べっぷりは、豪快である。あっという間に大盛りを、たいらげた。
「ずいぶん、早く召し上がるのね」
 芳子は、つい声のトーンを高めて微笑んだ。
「ああ。朝飯抜きだから。
一人暮らしだと朝はめんどうで、たいてい食わない」
「おじ様のお家はどこ?」
蔦谷つたや温泉に営外下宿している」
「うちのすぐ近くね」 
「帰りに、俺の部屋に寄ってみるか?」
「ええ、行ってみたいわ」
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