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【ぬらりひょんの章】第9幕「奇妙な正体だった」
【ぬらりひょんの章】第9幕 「奇妙な正体だった」
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【その前日 1月31日 三浦】
「あ、そうだ!」
シティ・ターボは三浦半島を南に向かって走っていた。
「じいさん、あんた、炭谷に映画のビデオ頼んだだろ。俺に渡してくれって」
「ええ、ええ、東京物語ですな」
後部座席の沼来が頷く。
「よけいなことすんじゃねえよ、と言いたいとこだが、これが意外に良かった。正直言うと、少し泣けちまった。あんたの行った通りだ、原節子さんが素晴らしかった」
「ほう、ほう」
沼来が嬉しそうに身を乗り出した。
「どこが、一番良かったです?」
「なんといっても、あそこだな。老夫婦のうち、おばあさんが急死して、広島の尾道で葬儀が行われる。長男と長女、三男は葬儀が終わるとさっさと帰っちまって、残ったのは二男の未亡人の原節子さんだけだ。二男はとうの昔に戦死してるんだよな」
「それなのに、東京見物に来た義理の父と母を親切にあちこち連れていってあげるんですな」
「まったく、ひでえもんさ。映画の中で父親役の笠智衆も言っていたが、自分たちが育てた実の子供より、いわば他人の原節子さんの方が親身になってくれるんだからな。で、もう息子の事は忘れて、いつでもお嫁に行っていいんだよ、という笠智衆に原節子さんが言う」
沼来が女性の声色で映画のセリフを真似た。
『いいえ、わたくし、そんなおっしゃるほどのいい人間じゃありません。お父さまにまでそんなふうに思っていただいてたら、わたくしの方こそかえって心苦しくって・・』
笠智衆の声も真似て続ける。映画の名場面を再現する一人芝居だった。
『いやあ、そんなこたあない』
『いいえ、そうなんです。わたくし、ずるいんです。お父さまやお母さまが思ってらっしゃるほど、そういつもいつも昌二さんのことばかり考えてるわけじゃありません』
『ええんじゃよ、忘れてくれて』
『でも、この頃、思い出さない日さへあるんです。忘れてる日が多いんです。わたくし、いつまでもこのままじゃいられないような気もするんです。このままこうして一人でいたら、一体どうなるんだろうなんて、夜中にふと考えたりすることがあるんです。一日一日が何事もなく過ぎてゆくのが、とてもさびしいんです。どこか心の隅でなにかを待ってるんです。・・・・ずるいんです』
『いやあ、ずるうはない』
『いいえ、ずるいんです。そういうことをお母さまには申し上げられなかったんです』
『ええんじゃよ、それで。やっぱり、あんたはええ人じゃよ、正直で』
笠智衆の声色があまりにもそっくりなので、龍が感心して言った。
「そうそう、で、原さんが『とんでもない』って俯いて泣くんだよなあ。ここで俺も泣いたよ。泣けて、泣けて仕方なかった」
「ご自分と奥様のことがオーバーラップしたのではないですか?」
沼来が真顔で言った。龍はハンドルを握ったまま、黙り込んでしまう。
「笠智衆ではないですが、龍さんも奥様の事は忘れて、次の恋に踏み出してはいかがです」
龍はアクセルを踏み込んだ。厳しい目付きで前を見つめたまま喋らなかったが、しばらくしてポツリと言った。
「俺にはできない。友香を忘れるなんて。忘れちゃいけないんだ」
沼来が龍の暗い横顔を見つめた。視線を感じて、龍が笑って言った。
「まあ、現実は映画とは違うからな。この話は、これで終わりだ」
「わかりました。では、次の話題に移りましょう。そろそろ、教えていただいてもいいのではないですか。車はどこに向かっているのでしょう?」
「三浦だよ。観堂の自宅さ」
「なんのためにです?」
「本当はわかってんじゃねえのか、あんたは」
「は?」
「最初から、全部わかってて、警察を訪ねてきたんじゃねえのか、って言ってんだよ」
今度は、沼来が沈黙する番だった。
「考えてみりゃあ、妙なことばっかりだったもんな。避難所の事件は被疑者死亡で、もう警察的には捜査が終わってた。なのに、あんたが自分が仕組んだって俺の所に現れて、もう一回捜査し直すように蒸し返したのが、すべての始まりだ」
龍がさらにアクセルを踏み込む。
「龍さんは頭に来ると運転が乱暴になりますね」
一般道だが、沼来がシートベルトに手を伸ばした。
「明智小五郎をきどって、俺に名推理を披露したのもそうだ。犯人がまず目を付けたのは犬のチャッピーだったとか、赤ん坊を殺させる小道具に”におい”を利用したとか、俺の捜査がうまく進むように誘導したんだろ」
アクセルを踏む足に力がこもり、後輪が横滑りしてシティがお尻を振った。
「タコの時だってそうだ。ノートに書かれたミッキーマウスの落書きに注意を向けさせたのも、あんただ。あれに気づかなかったら、俺たち警察は絶対に鴨志田にたどり着けなかったはずだ」
猛スピードで走るシティが道路の段差で弾んだ。シートで沼来の体が跳ね上がる。
「さっきだって、俺に気づかせるために、わざとあのポスターの前で立ち止まったんだろ」
ここまで黙って聞いていた沼来が、くすっと子供のように笑った。
「わかりましたか」
「見え見えなんだよ。くさい芝居しやがって。少しは原節子さんを見習えっつーの」
「あそこまでの名演は、私には無理ですよ」
「じいさん、あんた、いったい何者だ?」
「言っても信じませんよ」
「あんたとこんだけ付き合ってたら大概の事じゃ驚かねえ」
「ほんとですかねあ・・・」腕組みをして小首をかしげる。。
「だって、大概びっくりしちゃうんですよ。私が正体をあかすと」
「だから驚かねえって。約束するって」
「やっぱり、着いてから話します」
観堂の自宅は、沼来が戦友宅に居候していて被災したという水喰淵に近い山中にあった。
県道から離れた、かなり奥まった場所だった。竹藪の中を曲がりくねりながら続く道は舗装されておらず、車1台がやっと通れる狭さだ。しかも勾配がきつい。小ぶりでパワーのあるシティ・ターボだからなんとか登る事ができたが、普通の車なら途中で立ち往生していただろう。
深い竹藪を抜けると、ぽっかりと視界が開けた。
「ひでえ荒れようだな」
崩れた家の脇になんとか駐車できるスペースを見つけ、龍が車から降りる。
「命を落とさずにたどり着けたようですな」
シートベルトを外して沼来が続く。
地震から2か月半が過ぎ、家の周りにある畑は何が植えられていたかがわからないほど、雑草が伸び放題になっている。
観堂の家は思った以上に年季の入った古民家だったが、無惨な姿を陽の下にさらしていた。地震の強烈な揺れで、縁側に面した側の柱はほとんどが折れていた。家は平行四辺形がつぶれたようにひしゃげて、全体が斜めに崩れ落ちていた。落っこちた大屋根の下では4WDの小型ジープがぺしゃんこにつぶれていた。観堂の自家用車だろう。周囲に他の家は全くない。高い竹林に囲まれた、完全に隔絶された空間だった。
「こっちです」
沼来が崩れた家の後ろの方を指さした。「呼んでます」
龍が驚いて振り返る。
「誰か、いるのか?」
「私にだけ、聞こえるんです」
「あんた、前にもそんなこと言ってたな」
答えずに沼来が歩き出した。龍が後を追う。
崩れた家の周りは、折れ曲がった木材やら屋根瓦が散乱して折り重なっていて歩きづらかった。慎重に残骸を避けながら、ようやく裏手まで回り込んだ。
そこに建っていたのは、小さな土蔵だった。表面の壁土は剥がれ落ちて至る所にひびが入っている。柱が折れて全体的にかしいではいるものの、家の方と比べれば何とか形を保っている。
「ここです。間違いありません」
土蔵の扉の前に立った沼来がつぶやいた。扉はひしゃげて外れかけていたが、隙間を押し広げれば、なんとか中に潜り込めそうだ。
「崩れるかもしれねえな」
「ですが、中に入らなければ・・」
「証拠は見つからねえか」
龍が力をこめて扉を蹴った。何度も何度も蹴るうちに、留め金が外れ、隙間は50センチほどに広がった。体を斜めにして、2人は中に潜り込んだ。
扉の隙間や壁のひび割れからわずかに光りが射し込んでいるが、中はかなり薄暗い。
まず、鼻をついたのは強烈な甘い匂いだった。エレベーターの中で香水のきつい女と一緒なった時でさへ頭がくらくらする龍にとっては、拷問とも思える香りの洪水だった。
壁際には鋤(すき)や鍬(くわ)やスコップなどの農具、手押し車が横倒しになったままだ。その脇で木製の棚が斜めに倒れ、匂いの源が地面に散乱していた。男性用の香水の瓶が幾つも割れて、強烈な香りを発しているのだ。ざっと数えただけで20個近くあった。おそらく地震の前には棚にきちんと並んでいたのだろうが、激しい揺れのせいで落下したのだろう。
「これ見ろ」
龍が指さした。「フタがひとつもない」
「どうしてでしょう?」
「フタを開けたまま、香水の瓶を棚に並べてたんだ」
「なんのためにです?」
「おそらく、匂いを消すためだろう」
確信があった。
避難所の人間が観堂についてこう証言していた。「奴はさ、匂い消しだとか言って、男性用のオーデコロンとかまくんだけど、あんまり大量にまくから、そっちの方が臭くってさ。とにかくね、男性用の香水は、ずいぶん持ってたな」
おそらく観堂は、この土蔵に隠しているものの匂いをごまかしたかったのだ。
鼻をひくつかせてよく匂いをかいでみると、甘い香りの中に微かだが腐敗臭がした。
極度に神経質だったという観堂は「その匂い」が自分の体にもこびりついている事を恐れていたに違いない。だから小学校に避難してからも、強迫観念にかられて香水を自分の体に過剰に振りかけていたのだ。
土蔵には床板などはなく、土が剥き出しだった。中央の部分には何も置かれていなかったが、よく見ると、明らかに土の色が違う場所が2か所ある。掘り返して何かを埋めたように、土が不自然に盛り上がっている。
その盛り土のひとつに沼来がしゃがみこんだ。
「この下にいます」
そう言うと、素手で土を掘り返し始めた。
「なあ、あそこのスコップ持ってこようか」
龍が壁際を指さした。
「いえ、結構です。傷つけてしまってはかわいそうですから」
老人とは思えない力強さで土をかき分けてゆく。
やがて、手が止まった。
土の中からのぞいたのは、小さな手だった。
泥にまみれているが、一部が白骨化している。
「子どもの手だな」
「ええ」
沼来は30センチほど脇を掘り始めた。
赤い色が現れた。
丁寧に表面の土をはらう。
腐敗臭が激しくなった。
龍がズボンのポケットからハンカチを出して鼻に当てて中を覗き込んだ。
「やっぱり・・・」
大きな2つの耳。愛らしい瞳。長く伸びた鼻。笑っている。
泥で激しく汚れてはいるが、確かにミッキーマウスの顔だった。それが、赤いトレーナーに描かれている。
「亀山亮二くんの遺体か」
観堂によって土に埋められた少年の名前は、逗子北署の玄関で見つけたポスターで初めて知った。
避難所に貼られていた『三浦半島南部地震被害まとめ』には『不明2人』とあっただけで、名前までは書かれていなかったからだ。
もっとも、それも無理はないことだった。
亀山亮二くんと北舘公也くんの2人は、釣りに行った帰りに地震によるトンネル崩落事故に巻き込まれたのだと、誰もが信じていた。現に今も崩落現場では掘り返し作業が続けられている。まさか、観堂友貴によって誘拐され、殺害されていたとは、警察はもちろん学校も家族も誰一人気づいていなかったのだ。
逗子北署のポスターには『まだ2人の少年が行方不明です。情報はこちらに!』と書かれ、2人の顔写真と失踪当時の服装がイラスト入りで載っていた。龍が目を留めたのは、おかっぱのさらさらヘアで人なつっこく笑っている亀山亮二くんの「顔写真」ではなく、「上着」の方だった。
神成小学校3年生、9歳、身長約130センチ、体重約27キロという記述の脇に描かれたトレーナーは真っ赤で、胸の部分には大きなミッキーマウスのプリント。
それは、鴨志田がいつも着ていたトレーナーと驚くほど似ていた。
鴨志田は言っていた。
自分の言うことを一切聞かなかった観堂が、ミッキーマウスの赤いトレーナーを着るようになってから、まるで自分に怯えるかのように従順になった、と。
観堂は鴨志田に怯えていたのではなかったのだ。
鴨志田の着ていたトレーナーに怯えていたのだ。
自分が殺害して埋めたはずの亮二くんの姿を重ねて。
罪の意識にさいなまれていたのだろうか。
いや、観堂が罪の意識などというものを心の内に持っていたはずはない。
むしろ、鴨志田がある日突然ミッキーのトレーナーを着て現れた事で、もしかしたらこいつは自分の犯行に気づいているのではないか・・と疑ったに違いない。
「その隣の盛り土の下には、北舘くんが埋められているのか」
「十中八九」
頷いてから、沼来が土蔵の奥を指さした。
「しかも、この2人だけではなさそうですぞ」
ようやく目が慣れてきた龍が奥の暗闇に目をこらすと、やはり同じような盛り土が3つあるのがわかった。
「あと3人殺して埋めたってことか」
「十中八九」
観堂は避難所の五味さん一家4人を殺害する前に、すでに5人を殺していたのだ。
「しかし、なんで亀山くんたちは観堂みたいな男についていったんだろう。2人一緒に無理矢理拉致するのは難しい」
「聞いてみましょう」
「は?」
龍が目をむいた。
「なにアホな事言ってんだ、じいさん」
沼来はミッキーマウスがのぞいている場所のやや上を掘り始めた。位置関係から言えば頭の辺りだ。やがて、土の中から泥がこびりついた髪の毛がのぞいた。沼来は静かに右手を上げると、亮二くんの頭にかざした。
「なにしてる?」
龍が聞く。すると、沼来の手の平が暗がりでぼーっと淡い紫の光りを放ち始めたではないか。
「な・・!」龍が一歩後ずさった。
続いて、亮二くんの頭が同じく紫に輝きだした。光りはまるで水滴が一粒一粒吸い込まれてゆくように、沼来の手の平に向かってゆっくり移動してゆく。
沼来は両目を閉じたままで、その光りの粒と会話するかのように、一言一言かみしめながら話し始めた。
「釣り公園に向かうトンネルの中で声を掛けられたんですな。釣り竿とバケツを持って歩いてた。すぐ脇に観堂の運転するジープが駐まりました。さっき屋根の下でつぶれていたあのジープですよ。あ、歩道側の窓が開いた」
まるで実際にその光景を見ているように話す。
「待ってください・・・、ああ、バトル・クエストというカードゲームがあるんですか?子供達の間で凄い人気なんですね」
そこから突然、沼来の声色が変わった。観堂の声なのだろう。
「ねえ、君たち、バトル・クエストの超レア・カードがあるんだけどさ、よかったら見に来ないか?いや、急にこんな知らないおじさんに声かけられてびっくりするのはわかるよ。実はね、少し恥ずかしいんだけどさ、おじさん、この年になっても熱烈なバトクエ・ファンなんだよ。だけど、近所にはおじさんに付き合ってバトルしてくれる相手なんかいないんだ。だから、こうして時々さ、小学生の男の子にお願いしてバトルしてもらってるのさ。そうやって腕試しをしておかないと弱くなっちゃうだろ。来月、東京で大会があるんだよ。もちろん、無理にとは言わないよ。嫌だったら断ってくれて構わないんだ。ただ、もし付き合ってもらえるなら、お礼に2人にさ、このカードをプレゼントするけど」
沼来はカードを手に持っているかのように手を掲げた。今度は子供の声に変わる。
「そのカードを見てビックリしたんだ。だって、『大暗黒神ジェノサイド・メビウス』だったんだもん。3枚しかない神のカードで、今はもう売ってないスーパープレミアム・カードなんだ。ほんとに、それ、くれるの?最初に聞いたのは、北舘くんの方だった。ぼくはすごく迷ってた。だって、いっつもママに、知らない人にはついてっちゃダメよ、って言われてたから。でも北舘くんが言ったんだ。だいじょぶだよ、リョーちゃん、ちょっと家まで行ってさ、バトクエして帰ってくるだけだもん。お母さんも怒らないよ。ていうか、黙ってればいいじゃん。それで、あのジェノサイド・メビウスのカードがもらえるんだぜ。すげえじゃん、みんなに自慢できるよ。・・・そうだよな、ちょっとぐらいなら・・・、結局2人はジープに乗った。そして、ここまで連れてこられた、ってわけです」
あっけにとられた顔で聞いていた龍が尋ねた。
「なんでわかる?そんなことまで?」
「人間じゃないからですよ」
「人間じゃない?」龍が思わず一歩、後ずさった。
「ええ」
「じゃあ・・なんなんだよ?」
「妖怪です」
「ようかい・・・って」今度は二歩、後ずさった。「バカいうな。じゃあ、聞くけどな、なんていう妖怪だよ?」
「私の名前ですか。私の名前は、ぬらりひょん、です」
「じいさん、沼来兵衛(ぬら・ひょうえ)って名前だって言ってたじゃねえか」
「だって、ぬらりひょんって名乗るわけにはいかないでしょう。人間風の名前に置き換えて、沼来兵衛にしたんですよ。なかなか洒落てるでしょ。気に入ってます」
頭が混乱していた。こいつ、本当に妖怪なのか?
まてよ、ぬらりひょんって確か・・・・、子供の頃に呼んだ漫画やテレビの記憶を必死で思い出してみる。
「あっ!」
声をあげて、今度は5歩も6歩も後ずさった。恐怖からだ。背中が土蔵の壁に当たった。
「思い出した!ぬらりひょん、ってゲゲゲの鬼太郎で見たぞ!鬼太郎の敵じゃねえか!そうだよ!悪者妖怪の総大将じゃねえか!この野郎!人間社会を侵略に来やがったのか!」
地面のスコップを拾って、高く構えた。
「あなたもやっぱり、そういうことをおっしゃいますか」
沼来が悲しげに溜息をついた。
「ゲゲゲの鬼太郎には本当に迷惑してるんです。いえね、水木しげる先生を恨んじゃいませんよ。ただ、あの漫画のせいで、私はとんでもない大悪党妖怪だと思われてるんです。妖怪の総大将なんてとんでもありません。私はとるにたらない妖怪ですよ。できることといったら、こうして死者の声を聞いたりすることぐらいなんですから」
「うそつけ!そ、空を飛んだり、なんかわからねえけど、スゲえ妖術を使うに決まってる」
「飛べませんよ」
「あっ、ひょっとしてあれか、鴨志田が死んだ五味さん一家の霊が見えるって言ってたのも、お前の仕業か。呪いかなんかかけたんだろ。テレビの鬼太郎でも、いろいろ悪いことばっかりやってたじゃねえか」
「だから、テレビとは違うんですって。あれは、ちょっと暗示をかけただけです。お前が命を奪った五味さん一家がいつでもどこでもお前を見ているぞ、ってね。まあ、空は飛べませんがね、こんな事ぐらいならできますよ。ちょっと手を出してみてもらえますか」
恐る恐る龍が右の手を前に差しだしてみる。
「ホイっと」
沼来が地面を蹴った。そのまま、龍の手にのっかった。掌の上に直立不動で立っている。なのに重さを感じない。
「私には体重というものがないんです。まあ、空気みたいなもんです」
自分の掌にじいさんが立っているというのは異様な感触だった。
「わかった!わかったから、降りてくれ!」
「ホイ、ホイと」
沼来が風船のようにふわりと地面に着地した。音も埃もたたなかった。
「うへっ、気持ちわるっ!」
沼来がのっていた手をこすりながら、龍が訊いた。
「そう言えばあんた、前に妙なこと言ってたよな。声に起こされた、って」
「ずっと眠っていたんですよ。もう10年以上、この三浦半島の山深い土の中でね。それが突然、揺り起こされたんです。いえ、地震にではありませんよ。強烈な念が聞こえたのです。助けを求める声でした。少年の声でした」
「それが亀山くんの声だったって言うのか」
「助けて!助けて!誰か!誰か!という凄まじい叫びでした。段々と大きくなって、やがて、か細くなり、消えました。それから間もなくです。大地が激しく揺れました。山が崩れ、とんでもなく多くの人の悲鳴が頭の中に押し寄せてきたのです。ある者は死に、ある者は傷つき、大地の怒りにひれ伏した。私は地中深くの眠り場所からはいずり出ました。地上は大変な有様になっていました。私にはあの子の叫びが大地を震わせたように感じられました」
亮二くんの変わり果てた遺体を見下ろしながら、龍が訊いた。
「観堂はこの子に一体なにをしたんだ?」
沼来がもう一度目を閉じて、亮二くんの頭の上に手をかざした。
「聞いてみましょう」
また、手の平が光り始める。
沼来の顔が嫌悪に歪んだ。
「どうして、人間というやつは・・・・」
「わかったのか?なんと言ってた?」
龍が詰め寄ると、沼来はふーっと大きな溜息をついて、かざしていた手を子供の頭から外した。
「とてもお話しする気にはなれません。なぜ、この子がこんな仕打ちを受けなければならないのか理解に苦しみます。人間というのは時に我々妖怪など足元にも及ばないほど残虐で無慈悲な行いをする。実に醜悪な生き物です」
「そんなことは・・」と言いかけて、龍は言葉を飲み込んだ。土蔵の薄暗がりに浮かんだ5つの土饅頭を前にして、続ける言葉は無かった。
「この子がこの場所に埋められているのは、思念の残滓を追ってわかりました。私はなんとかしてやりたかった。せめて、遺体を見つけて、きちんと弔ってあげたかったのです」
「それで俺の所へ?」
沼来は頷いた。
「なら、いくらでも方法はあったろう。警察に通報すれば調べてくれただろう」
「果たしてそうでしょうか」
龍の目を見据えて沼来が言った。
「避難所での五味さん一家4人殺しは、観堂の自殺で一件落着していた。亀山くんと北舘くんの2人は地震で崩れた土砂の下敷きになったままだと、誰もが信じていた。鴨志田に至っては捜査線上に名前があがったことすらなかった。それでも、あなた方警察は、私のような、わけのわからないじじいの話をまともに聞いてくれますかな」
「それは・・・」
沼来の言う通りだった。
五味さん一家殺しは避難所で衆人環視のなか起きた。実行犯が観堂というのが明らかな事件だった。しかも観堂は自殺している。被疑者死亡で捜査手続きが終わっている事件を、警察はわざわざ蒸し返す組織ではない。
亀山くん達2人の掘り返し作業は今もトンネルの崩落現場で続けられている。まさか観堂による誘拐殺人事件に巻き込まれているなどとは誰ひとり夢にも思っていない。遺体が見つからなくても、そのまま何年も「行方不明」のままで放置されるに違いなかった。
鴨志田もそうだ。五味さん一家殺害における「裏のシナリオライター」であるあの男は、今もゆうゆうとお天道様の下を笑いながら歩いていたはずだ。間違いなく次の事件も起こしていただろう。
いま目の前にいる妖しい老人が龍の所に現れ、「避難所の一家4人殺しね、あれ、あたしが犯人なんですよ」と言い出さなければ・・・。
龍が終わった事件を蒸し返すのを躊躇しない、組織からはみ出した刑事でなければ・・・。
龍の上司の相馬課長が「刑事の勘」を信じて異例の単独捜査を認めてくれなければ・・・。
すべては今も闇の中だったはずだ。
「お前さんの言う通りだ。俺たち日本警察は妖怪の手助けがなけりゃ、事件の真相に近づくこともできないボンクラ 集団だったって訳だ」
その場にしゃがみ込み、懐からピースの箱を出して一本くわえた。
「私にも一本いただけますか」
箱を沼来に放る。
「箱ごとプレゼントするよ。名探偵へのささやかな礼だ」
「恐縮至極にございます」
2人で火をつけた。
「俺もとんだお粗末デカだよ」
鼻から煙を吹き出し自嘲気味に笑った。
「とんでもない。あなたと一緒だったからこそ、この難事件を解決できたのですぞ」
「妖怪に誉められたって嬉しくもなんともねえよ」
「いえいえ、龍さんは名刑事ですよ」
「フン」また勢いよく煙を吹いた。「はみ出しもんの名刑事に妖怪変化の名探偵か」
「そうです。ナイスカップルってやつです」
「バカ、そう言う時は名コンビって言うんだ」
「ボケてみました」
「なんでだよ」
「こういう場面は、なんでやねん、が正しいです。テレビで覚えました」
「そうじゃなくて、なんでこの場面でボケる必要があるか、って聞いてんの」
「落ち込んでいられるようなので」
「落ち込んでなんかいねえよ」
ポン、ポンとコートの裾についた土をはらって龍が立ち上がった。
「まあ、いいや。あんたが人間だろうと、そうじゃなかろうとかまわねえよ。考えてみれば妖怪がパートナーってのも、俺みたいな奴にはふさわしいかもしれねえ。なあ、名探偵さんよ、ついでといっちゃあなんだが、もうひとつ頼みがあるんだが」
「なんです。名コンビの新たなる事件ですか」
「さっき、あんたがやったマジック・・、っていうか、魔術、いや、妖術ってのかな。とにかく使者の話を聞く技を使ってやってもらいたいことがあるんだ」
沼来が顔をくしゃくしゃにして笑った。
「喜んでやりましょう」
「実はもうひとつ抱えている事件があってな」
「初耳です」
「なんでもかんでも捜査情報をあんたに話すわけにはいかねえんだよ。避難所の事件は特別なんだ。あんたも当事者みたいなもんだからな」
「そちらも難事件なんですな」
「ああ、かなりな」
「楽しみです」
「横須賀のゴミ処理場で若い営業マンが機械につぶされて死んだ。その遺体が病院から消えたんだ。しかも、当直の医者が一人殺された。首と腕を引きちぎられてな。犯人はその首と腕を現場から持ち去っている。営業マンの遺体も見つかってない」
「摩訶不思議な事件ですなあ」
「あんたは死体に触れるだけで死者の記憶を読み取れるんだろう。だったら、今から病院の遺体安置所に一緒に行って、殺された医者の遺体の記憶を探ってみてくれないか。死んだ被害者に事情聴取できるなら、どんな事件も一発解決だもんな」
沼来は首を横に振った。
「無理です」
「なんでやねん」
龍が驚いて聞き返した。
「お医者さんの遺体には頭がないのでしょう」
「ああ」
「それだとできないんですよ」
「だから、なんで?」
「死者の記憶というのは多かれ少なかれ頭に残るものなのです。骸骨になっていても残ります。頭の骨のかけらでも残っていれば、いくらかは記憶の残滓を探ることができますが、頭がそっくり無いのでは、どうにもなりません」
「かああ・・・、そうかあ・・・」
龍ががっくりとうなだれた。
「いいアイディアだと思ったんだがなあ」
「ただ、今の話を聞いて思ったのですが」
「なにかひらめいたのか?」
「確証はありませんが、なにか人間ではないものの存在を感じます」
龍がプッと吹き出した。
「お前さんと同じ妖怪変化の仕業だってのか?今度はなんだよ、ぬりかべか、一反木綿か、それとも砂かけばばあかよ」
「いえ、日本の妖怪ではありませんな。日本以外の東洋か、それとも西洋妖怪か・・」
「そういえば、ゲゲゲの鬼太郎にも西洋妖怪と戦う話があったよな」
「また鬼太郎の話ですか」
沼来が苦い顔をした。
「あれは漫画の中の話です」
「こっちはリアルてことかよ・・・・」
手の煙草は燃え尽きようとしていた。
「あ、そうだ!」
シティ・ターボは三浦半島を南に向かって走っていた。
「じいさん、あんた、炭谷に映画のビデオ頼んだだろ。俺に渡してくれって」
「ええ、ええ、東京物語ですな」
後部座席の沼来が頷く。
「よけいなことすんじゃねえよ、と言いたいとこだが、これが意外に良かった。正直言うと、少し泣けちまった。あんたの行った通りだ、原節子さんが素晴らしかった」
「ほう、ほう」
沼来が嬉しそうに身を乗り出した。
「どこが、一番良かったです?」
「なんといっても、あそこだな。老夫婦のうち、おばあさんが急死して、広島の尾道で葬儀が行われる。長男と長女、三男は葬儀が終わるとさっさと帰っちまって、残ったのは二男の未亡人の原節子さんだけだ。二男はとうの昔に戦死してるんだよな」
「それなのに、東京見物に来た義理の父と母を親切にあちこち連れていってあげるんですな」
「まったく、ひでえもんさ。映画の中で父親役の笠智衆も言っていたが、自分たちが育てた実の子供より、いわば他人の原節子さんの方が親身になってくれるんだからな。で、もう息子の事は忘れて、いつでもお嫁に行っていいんだよ、という笠智衆に原節子さんが言う」
沼来が女性の声色で映画のセリフを真似た。
『いいえ、わたくし、そんなおっしゃるほどのいい人間じゃありません。お父さまにまでそんなふうに思っていただいてたら、わたくしの方こそかえって心苦しくって・・』
笠智衆の声も真似て続ける。映画の名場面を再現する一人芝居だった。
『いやあ、そんなこたあない』
『いいえ、そうなんです。わたくし、ずるいんです。お父さまやお母さまが思ってらっしゃるほど、そういつもいつも昌二さんのことばかり考えてるわけじゃありません』
『ええんじゃよ、忘れてくれて』
『でも、この頃、思い出さない日さへあるんです。忘れてる日が多いんです。わたくし、いつまでもこのままじゃいられないような気もするんです。このままこうして一人でいたら、一体どうなるんだろうなんて、夜中にふと考えたりすることがあるんです。一日一日が何事もなく過ぎてゆくのが、とてもさびしいんです。どこか心の隅でなにかを待ってるんです。・・・・ずるいんです』
『いやあ、ずるうはない』
『いいえ、ずるいんです。そういうことをお母さまには申し上げられなかったんです』
『ええんじゃよ、それで。やっぱり、あんたはええ人じゃよ、正直で』
笠智衆の声色があまりにもそっくりなので、龍が感心して言った。
「そうそう、で、原さんが『とんでもない』って俯いて泣くんだよなあ。ここで俺も泣いたよ。泣けて、泣けて仕方なかった」
「ご自分と奥様のことがオーバーラップしたのではないですか?」
沼来が真顔で言った。龍はハンドルを握ったまま、黙り込んでしまう。
「笠智衆ではないですが、龍さんも奥様の事は忘れて、次の恋に踏み出してはいかがです」
龍はアクセルを踏み込んだ。厳しい目付きで前を見つめたまま喋らなかったが、しばらくしてポツリと言った。
「俺にはできない。友香を忘れるなんて。忘れちゃいけないんだ」
沼来が龍の暗い横顔を見つめた。視線を感じて、龍が笑って言った。
「まあ、現実は映画とは違うからな。この話は、これで終わりだ」
「わかりました。では、次の話題に移りましょう。そろそろ、教えていただいてもいいのではないですか。車はどこに向かっているのでしょう?」
「三浦だよ。観堂の自宅さ」
「なんのためにです?」
「本当はわかってんじゃねえのか、あんたは」
「は?」
「最初から、全部わかってて、警察を訪ねてきたんじゃねえのか、って言ってんだよ」
今度は、沼来が沈黙する番だった。
「考えてみりゃあ、妙なことばっかりだったもんな。避難所の事件は被疑者死亡で、もう警察的には捜査が終わってた。なのに、あんたが自分が仕組んだって俺の所に現れて、もう一回捜査し直すように蒸し返したのが、すべての始まりだ」
龍がさらにアクセルを踏み込む。
「龍さんは頭に来ると運転が乱暴になりますね」
一般道だが、沼来がシートベルトに手を伸ばした。
「明智小五郎をきどって、俺に名推理を披露したのもそうだ。犯人がまず目を付けたのは犬のチャッピーだったとか、赤ん坊を殺させる小道具に”におい”を利用したとか、俺の捜査がうまく進むように誘導したんだろ」
アクセルを踏む足に力がこもり、後輪が横滑りしてシティがお尻を振った。
「タコの時だってそうだ。ノートに書かれたミッキーマウスの落書きに注意を向けさせたのも、あんただ。あれに気づかなかったら、俺たち警察は絶対に鴨志田にたどり着けなかったはずだ」
猛スピードで走るシティが道路の段差で弾んだ。シートで沼来の体が跳ね上がる。
「さっきだって、俺に気づかせるために、わざとあのポスターの前で立ち止まったんだろ」
ここまで黙って聞いていた沼来が、くすっと子供のように笑った。
「わかりましたか」
「見え見えなんだよ。くさい芝居しやがって。少しは原節子さんを見習えっつーの」
「あそこまでの名演は、私には無理ですよ」
「じいさん、あんた、いったい何者だ?」
「言っても信じませんよ」
「あんたとこんだけ付き合ってたら大概の事じゃ驚かねえ」
「ほんとですかねあ・・・」腕組みをして小首をかしげる。。
「だって、大概びっくりしちゃうんですよ。私が正体をあかすと」
「だから驚かねえって。約束するって」
「やっぱり、着いてから話します」
観堂の自宅は、沼来が戦友宅に居候していて被災したという水喰淵に近い山中にあった。
県道から離れた、かなり奥まった場所だった。竹藪の中を曲がりくねりながら続く道は舗装されておらず、車1台がやっと通れる狭さだ。しかも勾配がきつい。小ぶりでパワーのあるシティ・ターボだからなんとか登る事ができたが、普通の車なら途中で立ち往生していただろう。
深い竹藪を抜けると、ぽっかりと視界が開けた。
「ひでえ荒れようだな」
崩れた家の脇になんとか駐車できるスペースを見つけ、龍が車から降りる。
「命を落とさずにたどり着けたようですな」
シートベルトを外して沼来が続く。
地震から2か月半が過ぎ、家の周りにある畑は何が植えられていたかがわからないほど、雑草が伸び放題になっている。
観堂の家は思った以上に年季の入った古民家だったが、無惨な姿を陽の下にさらしていた。地震の強烈な揺れで、縁側に面した側の柱はほとんどが折れていた。家は平行四辺形がつぶれたようにひしゃげて、全体が斜めに崩れ落ちていた。落っこちた大屋根の下では4WDの小型ジープがぺしゃんこにつぶれていた。観堂の自家用車だろう。周囲に他の家は全くない。高い竹林に囲まれた、完全に隔絶された空間だった。
「こっちです」
沼来が崩れた家の後ろの方を指さした。「呼んでます」
龍が驚いて振り返る。
「誰か、いるのか?」
「私にだけ、聞こえるんです」
「あんた、前にもそんなこと言ってたな」
答えずに沼来が歩き出した。龍が後を追う。
崩れた家の周りは、折れ曲がった木材やら屋根瓦が散乱して折り重なっていて歩きづらかった。慎重に残骸を避けながら、ようやく裏手まで回り込んだ。
そこに建っていたのは、小さな土蔵だった。表面の壁土は剥がれ落ちて至る所にひびが入っている。柱が折れて全体的にかしいではいるものの、家の方と比べれば何とか形を保っている。
「ここです。間違いありません」
土蔵の扉の前に立った沼来がつぶやいた。扉はひしゃげて外れかけていたが、隙間を押し広げれば、なんとか中に潜り込めそうだ。
「崩れるかもしれねえな」
「ですが、中に入らなければ・・」
「証拠は見つからねえか」
龍が力をこめて扉を蹴った。何度も何度も蹴るうちに、留め金が外れ、隙間は50センチほどに広がった。体を斜めにして、2人は中に潜り込んだ。
扉の隙間や壁のひび割れからわずかに光りが射し込んでいるが、中はかなり薄暗い。
まず、鼻をついたのは強烈な甘い匂いだった。エレベーターの中で香水のきつい女と一緒なった時でさへ頭がくらくらする龍にとっては、拷問とも思える香りの洪水だった。
壁際には鋤(すき)や鍬(くわ)やスコップなどの農具、手押し車が横倒しになったままだ。その脇で木製の棚が斜めに倒れ、匂いの源が地面に散乱していた。男性用の香水の瓶が幾つも割れて、強烈な香りを発しているのだ。ざっと数えただけで20個近くあった。おそらく地震の前には棚にきちんと並んでいたのだろうが、激しい揺れのせいで落下したのだろう。
「これ見ろ」
龍が指さした。「フタがひとつもない」
「どうしてでしょう?」
「フタを開けたまま、香水の瓶を棚に並べてたんだ」
「なんのためにです?」
「おそらく、匂いを消すためだろう」
確信があった。
避難所の人間が観堂についてこう証言していた。「奴はさ、匂い消しだとか言って、男性用のオーデコロンとかまくんだけど、あんまり大量にまくから、そっちの方が臭くってさ。とにかくね、男性用の香水は、ずいぶん持ってたな」
おそらく観堂は、この土蔵に隠しているものの匂いをごまかしたかったのだ。
鼻をひくつかせてよく匂いをかいでみると、甘い香りの中に微かだが腐敗臭がした。
極度に神経質だったという観堂は「その匂い」が自分の体にもこびりついている事を恐れていたに違いない。だから小学校に避難してからも、強迫観念にかられて香水を自分の体に過剰に振りかけていたのだ。
土蔵には床板などはなく、土が剥き出しだった。中央の部分には何も置かれていなかったが、よく見ると、明らかに土の色が違う場所が2か所ある。掘り返して何かを埋めたように、土が不自然に盛り上がっている。
その盛り土のひとつに沼来がしゃがみこんだ。
「この下にいます」
そう言うと、素手で土を掘り返し始めた。
「なあ、あそこのスコップ持ってこようか」
龍が壁際を指さした。
「いえ、結構です。傷つけてしまってはかわいそうですから」
老人とは思えない力強さで土をかき分けてゆく。
やがて、手が止まった。
土の中からのぞいたのは、小さな手だった。
泥にまみれているが、一部が白骨化している。
「子どもの手だな」
「ええ」
沼来は30センチほど脇を掘り始めた。
赤い色が現れた。
丁寧に表面の土をはらう。
腐敗臭が激しくなった。
龍がズボンのポケットからハンカチを出して鼻に当てて中を覗き込んだ。
「やっぱり・・・」
大きな2つの耳。愛らしい瞳。長く伸びた鼻。笑っている。
泥で激しく汚れてはいるが、確かにミッキーマウスの顔だった。それが、赤いトレーナーに描かれている。
「亀山亮二くんの遺体か」
観堂によって土に埋められた少年の名前は、逗子北署の玄関で見つけたポスターで初めて知った。
避難所に貼られていた『三浦半島南部地震被害まとめ』には『不明2人』とあっただけで、名前までは書かれていなかったからだ。
もっとも、それも無理はないことだった。
亀山亮二くんと北舘公也くんの2人は、釣りに行った帰りに地震によるトンネル崩落事故に巻き込まれたのだと、誰もが信じていた。現に今も崩落現場では掘り返し作業が続けられている。まさか、観堂友貴によって誘拐され、殺害されていたとは、警察はもちろん学校も家族も誰一人気づいていなかったのだ。
逗子北署のポスターには『まだ2人の少年が行方不明です。情報はこちらに!』と書かれ、2人の顔写真と失踪当時の服装がイラスト入りで載っていた。龍が目を留めたのは、おかっぱのさらさらヘアで人なつっこく笑っている亀山亮二くんの「顔写真」ではなく、「上着」の方だった。
神成小学校3年生、9歳、身長約130センチ、体重約27キロという記述の脇に描かれたトレーナーは真っ赤で、胸の部分には大きなミッキーマウスのプリント。
それは、鴨志田がいつも着ていたトレーナーと驚くほど似ていた。
鴨志田は言っていた。
自分の言うことを一切聞かなかった観堂が、ミッキーマウスの赤いトレーナーを着るようになってから、まるで自分に怯えるかのように従順になった、と。
観堂は鴨志田に怯えていたのではなかったのだ。
鴨志田の着ていたトレーナーに怯えていたのだ。
自分が殺害して埋めたはずの亮二くんの姿を重ねて。
罪の意識にさいなまれていたのだろうか。
いや、観堂が罪の意識などというものを心の内に持っていたはずはない。
むしろ、鴨志田がある日突然ミッキーのトレーナーを着て現れた事で、もしかしたらこいつは自分の犯行に気づいているのではないか・・と疑ったに違いない。
「その隣の盛り土の下には、北舘くんが埋められているのか」
「十中八九」
頷いてから、沼来が土蔵の奥を指さした。
「しかも、この2人だけではなさそうですぞ」
ようやく目が慣れてきた龍が奥の暗闇に目をこらすと、やはり同じような盛り土が3つあるのがわかった。
「あと3人殺して埋めたってことか」
「十中八九」
観堂は避難所の五味さん一家4人を殺害する前に、すでに5人を殺していたのだ。
「しかし、なんで亀山くんたちは観堂みたいな男についていったんだろう。2人一緒に無理矢理拉致するのは難しい」
「聞いてみましょう」
「は?」
龍が目をむいた。
「なにアホな事言ってんだ、じいさん」
沼来はミッキーマウスがのぞいている場所のやや上を掘り始めた。位置関係から言えば頭の辺りだ。やがて、土の中から泥がこびりついた髪の毛がのぞいた。沼来は静かに右手を上げると、亮二くんの頭にかざした。
「なにしてる?」
龍が聞く。すると、沼来の手の平が暗がりでぼーっと淡い紫の光りを放ち始めたではないか。
「な・・!」龍が一歩後ずさった。
続いて、亮二くんの頭が同じく紫に輝きだした。光りはまるで水滴が一粒一粒吸い込まれてゆくように、沼来の手の平に向かってゆっくり移動してゆく。
沼来は両目を閉じたままで、その光りの粒と会話するかのように、一言一言かみしめながら話し始めた。
「釣り公園に向かうトンネルの中で声を掛けられたんですな。釣り竿とバケツを持って歩いてた。すぐ脇に観堂の運転するジープが駐まりました。さっき屋根の下でつぶれていたあのジープですよ。あ、歩道側の窓が開いた」
まるで実際にその光景を見ているように話す。
「待ってください・・・、ああ、バトル・クエストというカードゲームがあるんですか?子供達の間で凄い人気なんですね」
そこから突然、沼来の声色が変わった。観堂の声なのだろう。
「ねえ、君たち、バトル・クエストの超レア・カードがあるんだけどさ、よかったら見に来ないか?いや、急にこんな知らないおじさんに声かけられてびっくりするのはわかるよ。実はね、少し恥ずかしいんだけどさ、おじさん、この年になっても熱烈なバトクエ・ファンなんだよ。だけど、近所にはおじさんに付き合ってバトルしてくれる相手なんかいないんだ。だから、こうして時々さ、小学生の男の子にお願いしてバトルしてもらってるのさ。そうやって腕試しをしておかないと弱くなっちゃうだろ。来月、東京で大会があるんだよ。もちろん、無理にとは言わないよ。嫌だったら断ってくれて構わないんだ。ただ、もし付き合ってもらえるなら、お礼に2人にさ、このカードをプレゼントするけど」
沼来はカードを手に持っているかのように手を掲げた。今度は子供の声に変わる。
「そのカードを見てビックリしたんだ。だって、『大暗黒神ジェノサイド・メビウス』だったんだもん。3枚しかない神のカードで、今はもう売ってないスーパープレミアム・カードなんだ。ほんとに、それ、くれるの?最初に聞いたのは、北舘くんの方だった。ぼくはすごく迷ってた。だって、いっつもママに、知らない人にはついてっちゃダメよ、って言われてたから。でも北舘くんが言ったんだ。だいじょぶだよ、リョーちゃん、ちょっと家まで行ってさ、バトクエして帰ってくるだけだもん。お母さんも怒らないよ。ていうか、黙ってればいいじゃん。それで、あのジェノサイド・メビウスのカードがもらえるんだぜ。すげえじゃん、みんなに自慢できるよ。・・・そうだよな、ちょっとぐらいなら・・・、結局2人はジープに乗った。そして、ここまで連れてこられた、ってわけです」
あっけにとられた顔で聞いていた龍が尋ねた。
「なんでわかる?そんなことまで?」
「人間じゃないからですよ」
「人間じゃない?」龍が思わず一歩、後ずさった。
「ええ」
「じゃあ・・なんなんだよ?」
「妖怪です」
「ようかい・・・って」今度は二歩、後ずさった。「バカいうな。じゃあ、聞くけどな、なんていう妖怪だよ?」
「私の名前ですか。私の名前は、ぬらりひょん、です」
「じいさん、沼来兵衛(ぬら・ひょうえ)って名前だって言ってたじゃねえか」
「だって、ぬらりひょんって名乗るわけにはいかないでしょう。人間風の名前に置き換えて、沼来兵衛にしたんですよ。なかなか洒落てるでしょ。気に入ってます」
頭が混乱していた。こいつ、本当に妖怪なのか?
まてよ、ぬらりひょんって確か・・・・、子供の頃に呼んだ漫画やテレビの記憶を必死で思い出してみる。
「あっ!」
声をあげて、今度は5歩も6歩も後ずさった。恐怖からだ。背中が土蔵の壁に当たった。
「思い出した!ぬらりひょん、ってゲゲゲの鬼太郎で見たぞ!鬼太郎の敵じゃねえか!そうだよ!悪者妖怪の総大将じゃねえか!この野郎!人間社会を侵略に来やがったのか!」
地面のスコップを拾って、高く構えた。
「あなたもやっぱり、そういうことをおっしゃいますか」
沼来が悲しげに溜息をついた。
「ゲゲゲの鬼太郎には本当に迷惑してるんです。いえね、水木しげる先生を恨んじゃいませんよ。ただ、あの漫画のせいで、私はとんでもない大悪党妖怪だと思われてるんです。妖怪の総大将なんてとんでもありません。私はとるにたらない妖怪ですよ。できることといったら、こうして死者の声を聞いたりすることぐらいなんですから」
「うそつけ!そ、空を飛んだり、なんかわからねえけど、スゲえ妖術を使うに決まってる」
「飛べませんよ」
「あっ、ひょっとしてあれか、鴨志田が死んだ五味さん一家の霊が見えるって言ってたのも、お前の仕業か。呪いかなんかかけたんだろ。テレビの鬼太郎でも、いろいろ悪いことばっかりやってたじゃねえか」
「だから、テレビとは違うんですって。あれは、ちょっと暗示をかけただけです。お前が命を奪った五味さん一家がいつでもどこでもお前を見ているぞ、ってね。まあ、空は飛べませんがね、こんな事ぐらいならできますよ。ちょっと手を出してみてもらえますか」
恐る恐る龍が右の手を前に差しだしてみる。
「ホイっと」
沼来が地面を蹴った。そのまま、龍の手にのっかった。掌の上に直立不動で立っている。なのに重さを感じない。
「私には体重というものがないんです。まあ、空気みたいなもんです」
自分の掌にじいさんが立っているというのは異様な感触だった。
「わかった!わかったから、降りてくれ!」
「ホイ、ホイと」
沼来が風船のようにふわりと地面に着地した。音も埃もたたなかった。
「うへっ、気持ちわるっ!」
沼来がのっていた手をこすりながら、龍が訊いた。
「そう言えばあんた、前に妙なこと言ってたよな。声に起こされた、って」
「ずっと眠っていたんですよ。もう10年以上、この三浦半島の山深い土の中でね。それが突然、揺り起こされたんです。いえ、地震にではありませんよ。強烈な念が聞こえたのです。助けを求める声でした。少年の声でした」
「それが亀山くんの声だったって言うのか」
「助けて!助けて!誰か!誰か!という凄まじい叫びでした。段々と大きくなって、やがて、か細くなり、消えました。それから間もなくです。大地が激しく揺れました。山が崩れ、とんでもなく多くの人の悲鳴が頭の中に押し寄せてきたのです。ある者は死に、ある者は傷つき、大地の怒りにひれ伏した。私は地中深くの眠り場所からはいずり出ました。地上は大変な有様になっていました。私にはあの子の叫びが大地を震わせたように感じられました」
亮二くんの変わり果てた遺体を見下ろしながら、龍が訊いた。
「観堂はこの子に一体なにをしたんだ?」
沼来がもう一度目を閉じて、亮二くんの頭の上に手をかざした。
「聞いてみましょう」
また、手の平が光り始める。
沼来の顔が嫌悪に歪んだ。
「どうして、人間というやつは・・・・」
「わかったのか?なんと言ってた?」
龍が詰め寄ると、沼来はふーっと大きな溜息をついて、かざしていた手を子供の頭から外した。
「とてもお話しする気にはなれません。なぜ、この子がこんな仕打ちを受けなければならないのか理解に苦しみます。人間というのは時に我々妖怪など足元にも及ばないほど残虐で無慈悲な行いをする。実に醜悪な生き物です」
「そんなことは・・」と言いかけて、龍は言葉を飲み込んだ。土蔵の薄暗がりに浮かんだ5つの土饅頭を前にして、続ける言葉は無かった。
「この子がこの場所に埋められているのは、思念の残滓を追ってわかりました。私はなんとかしてやりたかった。せめて、遺体を見つけて、きちんと弔ってあげたかったのです」
「それで俺の所へ?」
沼来は頷いた。
「なら、いくらでも方法はあったろう。警察に通報すれば調べてくれただろう」
「果たしてそうでしょうか」
龍の目を見据えて沼来が言った。
「避難所での五味さん一家4人殺しは、観堂の自殺で一件落着していた。亀山くんと北舘くんの2人は地震で崩れた土砂の下敷きになったままだと、誰もが信じていた。鴨志田に至っては捜査線上に名前があがったことすらなかった。それでも、あなた方警察は、私のような、わけのわからないじじいの話をまともに聞いてくれますかな」
「それは・・・」
沼来の言う通りだった。
五味さん一家殺しは避難所で衆人環視のなか起きた。実行犯が観堂というのが明らかな事件だった。しかも観堂は自殺している。被疑者死亡で捜査手続きが終わっている事件を、警察はわざわざ蒸し返す組織ではない。
亀山くん達2人の掘り返し作業は今もトンネルの崩落現場で続けられている。まさか観堂による誘拐殺人事件に巻き込まれているなどとは誰ひとり夢にも思っていない。遺体が見つからなくても、そのまま何年も「行方不明」のままで放置されるに違いなかった。
鴨志田もそうだ。五味さん一家殺害における「裏のシナリオライター」であるあの男は、今もゆうゆうとお天道様の下を笑いながら歩いていたはずだ。間違いなく次の事件も起こしていただろう。
いま目の前にいる妖しい老人が龍の所に現れ、「避難所の一家4人殺しね、あれ、あたしが犯人なんですよ」と言い出さなければ・・・。
龍が終わった事件を蒸し返すのを躊躇しない、組織からはみ出した刑事でなければ・・・。
龍の上司の相馬課長が「刑事の勘」を信じて異例の単独捜査を認めてくれなければ・・・。
すべては今も闇の中だったはずだ。
「お前さんの言う通りだ。俺たち日本警察は妖怪の手助けがなけりゃ、事件の真相に近づくこともできないボンクラ 集団だったって訳だ」
その場にしゃがみ込み、懐からピースの箱を出して一本くわえた。
「私にも一本いただけますか」
箱を沼来に放る。
「箱ごとプレゼントするよ。名探偵へのささやかな礼だ」
「恐縮至極にございます」
2人で火をつけた。
「俺もとんだお粗末デカだよ」
鼻から煙を吹き出し自嘲気味に笑った。
「とんでもない。あなたと一緒だったからこそ、この難事件を解決できたのですぞ」
「妖怪に誉められたって嬉しくもなんともねえよ」
「いえいえ、龍さんは名刑事ですよ」
「フン」また勢いよく煙を吹いた。「はみ出しもんの名刑事に妖怪変化の名探偵か」
「そうです。ナイスカップルってやつです」
「バカ、そう言う時は名コンビって言うんだ」
「ボケてみました」
「なんでだよ」
「こういう場面は、なんでやねん、が正しいです。テレビで覚えました」
「そうじゃなくて、なんでこの場面でボケる必要があるか、って聞いてんの」
「落ち込んでいられるようなので」
「落ち込んでなんかいねえよ」
ポン、ポンとコートの裾についた土をはらって龍が立ち上がった。
「まあ、いいや。あんたが人間だろうと、そうじゃなかろうとかまわねえよ。考えてみれば妖怪がパートナーってのも、俺みたいな奴にはふさわしいかもしれねえ。なあ、名探偵さんよ、ついでといっちゃあなんだが、もうひとつ頼みがあるんだが」
「なんです。名コンビの新たなる事件ですか」
「さっき、あんたがやったマジック・・、っていうか、魔術、いや、妖術ってのかな。とにかく使者の話を聞く技を使ってやってもらいたいことがあるんだ」
沼来が顔をくしゃくしゃにして笑った。
「喜んでやりましょう」
「実はもうひとつ抱えている事件があってな」
「初耳です」
「なんでもかんでも捜査情報をあんたに話すわけにはいかねえんだよ。避難所の事件は特別なんだ。あんたも当事者みたいなもんだからな」
「そちらも難事件なんですな」
「ああ、かなりな」
「楽しみです」
「横須賀のゴミ処理場で若い営業マンが機械につぶされて死んだ。その遺体が病院から消えたんだ。しかも、当直の医者が一人殺された。首と腕を引きちぎられてな。犯人はその首と腕を現場から持ち去っている。営業マンの遺体も見つかってない」
「摩訶不思議な事件ですなあ」
「あんたは死体に触れるだけで死者の記憶を読み取れるんだろう。だったら、今から病院の遺体安置所に一緒に行って、殺された医者の遺体の記憶を探ってみてくれないか。死んだ被害者に事情聴取できるなら、どんな事件も一発解決だもんな」
沼来は首を横に振った。
「無理です」
「なんでやねん」
龍が驚いて聞き返した。
「お医者さんの遺体には頭がないのでしょう」
「ああ」
「それだとできないんですよ」
「だから、なんで?」
「死者の記憶というのは多かれ少なかれ頭に残るものなのです。骸骨になっていても残ります。頭の骨のかけらでも残っていれば、いくらかは記憶の残滓を探ることができますが、頭がそっくり無いのでは、どうにもなりません」
「かああ・・・、そうかあ・・・」
龍ががっくりとうなだれた。
「いいアイディアだと思ったんだがなあ」
「ただ、今の話を聞いて思ったのですが」
「なにかひらめいたのか?」
「確証はありませんが、なにか人間ではないものの存在を感じます」
龍がプッと吹き出した。
「お前さんと同じ妖怪変化の仕業だってのか?今度はなんだよ、ぬりかべか、一反木綿か、それとも砂かけばばあかよ」
「いえ、日本の妖怪ではありませんな。日本以外の東洋か、それとも西洋妖怪か・・」
「そういえば、ゲゲゲの鬼太郎にも西洋妖怪と戦う話があったよな」
「また鬼太郎の話ですか」
沼来が苦い顔をした。
「あれは漫画の中の話です」
「こっちはリアルてことかよ・・・・」
手の煙草は燃え尽きようとしていた。
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