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【ゾンビの章】第8幕 「第二の願い」
【ゾンビの章】第8幕 「第二の願い」
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【4日後 1月25日 町田】
切断された遺体たちを樹海に埋めて帰ってから、妻の様子がおかしくなっていた。
ふさぎこんで、口をきかない。
寝室に閉じこもり、横になっていることが多くなった。
警察から秀明の遺体を引き取りに来るようにと連絡が来ていたが、とても葬儀を行える精神状態にない。
ふみえは『秀明の葬式はきちんと自分が立ち会ってやりたい』と言ってきかなかったから、警察には無理を言って、もう少しだけ遺体を預かってもらうことにした。
食事も全く作れなくなっていたので、必然的に食事を用意するのは私の役目になった。
料理など今までろくにしたことがない。ご飯は炊飯器でなんとか炊けたが、お湯を沸かしてラーメンやレトルトの中華丼などを作るしかなかった。そんな物でも作る度にベットで寝ているふみえの枕元に運んだ。だが、口をつけようともしなかった。
元々、妻は優しい気の弱い女だ。それが秀明が殺害して解体した遺体を目の当たりにし、証拠隠滅にまで積極的に手を貸したのだ。自分が25年間愛情を注いできた息子が犯罪者になってしまったという「事実」、そしてそれを止める事はおろか異常に気づきもしなかったという「現実」。その二つが彼女を内面から責め続け、精神の奥深い所を痛めつけているに違いなかった。
朝、眼を覚ますと、隣りに寝ていたはずのふみえの姿がなかった。
台所にも居間にもいない。また二階の義父の部屋にいるのかもしれないと階段を上がろうとした時、一階の奥にある和室から物音が聞こえた。箪笥やミシンなどが置いてある部屋だ。
ふすまが開けっ放しになっていたので、中を覗き込むと、ふみえがぺたりと畳に座りこんでいる。和箪笥の一番下の引き出しが開けっぱなしになっていた。家族のアルバムがしまってある引き出しだ。畳にはアルバムが広げられ、その一冊を食い入るように見つめているのだった。
私に気づいたふみえが、顔を上げた。
「見て、これ、秀明が3歳の時の写真よ。覚えてる。真夏にビニールプールで遊ばせている時、あの子ったら、水を汲むために持ってきていたバケツの方に入っちゃったのよね」
古い写真の中で裸の秀明がバケツの水に腰までつかって笑っていた。
「ああ、覚えてるよ」
「これは小学校の運動会。徒競走で途中まで一番だったのに、転んでビリになっちゃったのよね。あの子、いつまでも泣きやまなくて、私まで泣けてきちゃった」
8歳の秀明が、そこにはいた。赤い鉢巻きを締め、泣きじゃくっている。運動着が泥だらけだった。
「どうして・・・いなくなっちゃったのかしら」
ふみえが泣きだした。そして睨むような目で私を見上げて言った。
「返してよ!あの子を!」
「無理な事を言うんじゃないよ。あの子はもう私達の手の届かない遠い所に旅立ったんだ」
「だって、あなたのせいじゃないの!」
ふみえの一言が、私の心臓を貫いた。
「あなたがあの黒い手に、あんな事さへ願わなければ、秀明は死なずにすんだのよ!」
泣きながら、私にむしゃぶりつき、ありったけの力で胸を叩き続ける。
「返してよ!あたしの秀明を返してよ!」
私はされるがままにしていた。それで気が済むのなら、胸がつぶれてしまっても構わなかった。
不意にふみえの手の動きが止まった。
「そうだわ」
顔をあげ、ふみえは唇の両端を吊り上げながら笑った。般若の面がもし笑ったなら、きっとこんな感じだろう。
「あの手があるじゃない」
「手?」
思わず、聞き返した。
「そうよ、あの手にもう一度願えばいいのよ。3回願いがかなうんでしょう。あなたには、あと2回、チャンスが残っているじゃない」
「願うって・・・、何を願えって言うんだ」
ふみえは、今度は唇の右端だけをつり上げて笑った。次にふみえが口にした一言を、私は生涯忘れない。あの時の、しわがれた老女のような声も。
ふみえは、こう言ったのだ。
「秀明を、もう一度、生き返らせてください、って」
恐ろしい思いつきだった。
ふみえがアルバムをもったまま立ち上がった。一歩ずつ、一歩ずつ、近づいてくる。額に垂れ下がった前髪の間から覗く瞳が異様な光を放っていた。気圧されて私は思わず後ずさった。
「私は嫌だ。願いたければ、お前が願えばいい・・・」
「何言ってるのよ。あのなんとかいうお父さんの後輩が言ってたじゃないの。黒い手には三人しか願えないって」
「なんで、お前・・・、その話を知ってる?」
「聞いてたからに決まってるでしょ、隣の寝室でね。あの人が訪ねて来た時のチャイムの音で目が覚めちゃったの。別に聞き耳をたててた訳じゃないのよ。あの人、声が大きいんだもの。隣の部屋にいても話が聞こえちゃったの。あの人、言ってたわよね。1人目のP国の長老は、もう三つ願ってしまった。2人目の父は、まだひとつ願えたけれど死んでしまった。もう、あなたしかいないのよ。あなたは、あと2つ、残ってるじゃない!」
「秀明は・・あんな恐ろしい犯罪を犯したんだぞ。それを蘇らせるなんて」
ふみえはさげすんだような目を私に向けた。
「あなたはあの子が可愛くないって言うの!秀明が犯罪者ならもう愛せないとでも言うの」
手にしたアルバムを突きつけながら迫ってくる。どの写真にも無邪気に笑う幼い秀明がいた。可愛くて仕方なかった頃の秀明の笑い声が木霊のように耳の奥で響いた。
「あの手はどこにあるの?」
見つけた時と同じだ。義父の暗室の押し入れに押し込んであった。
「とってらっしゃい!今すぐに!」
まっすぐに目を見ながら、ふみえが命じた。
抗えなかった。
私は魅入られたように、ふらふらと部屋を出た。義父の部屋から「黒い手」を持ってくるために。
私は「黒い手」を抱えて佇んでいた。
最初に手にした時も、こんなに重かっただろうか。
何倍も重くなったような気がする。
三本指のねじれた手が喜びに身悶えしているように見える。
私は急に怖じ気づいてきた。
「駄目だ!やっぱり、できない!」
ふみえがまた怒り狂うのは覚悟のうえだ。なんとしてもやめさせなければならない。
ところが、ふみえは怒らなかった。黙ったまま、悲し気な顔で私の顔を見つめている。
その瞳がみるみる潤んで、ぽろりと涙がこぼれた。
「ごめんなさい。本当は私だってわかってるの。いけないことだって・・・」
声が涙で途切れ途切れになる。
「でも・・もう一度だけ、あの子に会いたいの。あの子に会って、聞いてみたいの。秀明、なんであんなことをしたの?お母さんのどこが悪かったの、って。ねえ、あなただって、聞きたくない?」
嗚咽をこらえながら、ふみえが続ける。
「それに、もしもよ、もしもう一度秀明が生き返れたなら、生まれ変わるってことでしょ。きっと生まれたばかりの無垢な赤ん坊と同じよ。もう一度、初めからきちんと教えましょうよ。何が正しくて、何をしてはいけないか、を」
ふみえはアルバムの1ページ目を、私に開いて見せた。25年前に秀明が生まれて、初めて撮った写真だった。色はくすんでしまってはいたが、写真の中の秀明は天使のような顔で眠っていた。
「秀明が生まれた時、あなた、毎日病院に通って来たわよね。新生児室のガラスの向こうから、いつも秀明の顔を見てた。生まれたばかりの赤ちゃんなんて一日中眠っているだけなのにね。それなのにあなたは、いつまでも飽きることなく、秀明を見つめていた。よく看護婦さんに言われたわ。ご主人、いつも来てますねって。新生児室には同じ頃に生まれた赤ちゃんがたくさん並んでいたけれど、秀明の前のガラスだけが曇っていたわ。お父さんがいつもかぶりつきで見ているからね、って看護婦さんたちの間でも噂だったのよ」
そうだった。初めて自分に子供ができて、私は有頂天だった。
生まれてから退院までの一週間、毎日病院に通った。その病院では、生まれたばかりの赤ん坊はガラス張りの新生児室で集中管理していた。母親は授乳や入浴の時に赤ん坊と接触できるが、父親の私はガラスの向こう側からただ眺めることしかできなかった。面会の時間も一日3時間に限られていた。それでも、私は新生児室に通い詰めた。面会時間が許す限り、ガラスにへばりつくようにして、秀明の寝顔を見つめ続けた。眠ったままで、ほとんど動かなくても満足だった。何時間見つめていても、飽きることはなかった。たまに目を覚まして、あくびをしたり手足を動かしたりすると、必死でガラスを叩いて、こっちを向かせようとした。よく、看護婦さんに注意されたものだ。
私は「黒い手」を握りながら、こう思い始めていた。
私だって、秀明に聞いてみたい。
なぜ、あんなこと、したんだ?
お父さん、どこか、悪かったか?
そして、謝りたかった。
お前がそんな事になるまで、気がつかなくて、本当にすまなかった。
途中で気がついていたら、何かしてやれたかもしれないのにな。
そんな心の揺らぎを見透かしたかのように、ふみえが言った。
「お願いよ。秀明にもう一度会わせて!私達の秀明に!たった一度だけでいいの!ほんの少しだけでいいの!」
ふみえは畳にひざまずいた。
「お願いします。お願いします。お願いします」
何度も何度も、頭を畳にこすりつけながら懇願するのだ。
もういたたまれない気持ちだった。
「わかった。もう、いいから」
潤んだ瞳で、ふみえが私を見あげた。「じゃあ」
「やってみるよ」
「ありがとう、ありがとう、ありがとう」
また、何度も何度も額を畳にこすりつけた。
私は「黒い手」を両手で捧げ持ち、頭の上へとかかげた。
目を閉じ、大きく息を吸い込む。横隔膜が下がり、肺が膨らむ。空気を一気に吐き出しながら叫んだ。
「秀明を、私達の息子を、蘇らせたまえ!」
声が途中で裏返っていた。
手の中で「黒い手」が動いた。最初の時と同じく、驚いて床に投げ出していた。床に落ちた後も、手はしばらくの間、動いていた。三本の指がカリカリと畳をこする耳障りな音が聞こえた。
動きが完全に止まったのを確かめてから、慌てて「黒い手」を拾い上げた。もう一度、紙で包み直す。1秒たりとも、不快な姿を見ていたくなかったからだ。
ところがだ。紙でくるみ終わったと思った途端、また「黒い手」が動きだしたのだ。まるで、自分で外に這い出ようとでもしているようだった。吐き気がのど元までこみ上げた。私は「ガサ、ガサ」と音がしている包みを和箪笥の上へと放り投げた。脇の下には、冷たい汗が滲んでいた。
秀明の蘇りを私が願った途端、ふみえは人が変わったように元気になった。
「なんだか、お腹がすいてきちゃった。何か作るわね」
そう言って台所の冷蔵庫を開けた。
「やだ、なんにも入ってない。ガラガラじゃないの」
ふみえが寝込んでから、インスタント食品しか買っていない。生鮮食料品はおろか、冷凍食品すら買い置きしていなかった。三人暮らしには巨大すぎる冷蔵庫はほとんど空っぽの状態だった。それでもシーチキンの缶詰が見つかった。炊飯ジャーの底にはごはんが残っていた。
「チャーハンぐらいなら作れるかしら」
フライパンを使って手際よくチャーハンを作り始めた。
台所に暖かい家庭の香りが漂ったのは、久しぶりだった。出来上がったばかりのチャーハンから香ばしい香りが立ち上る。たまらなく空腹が刺激された。
「ビールでも飲む?」
「全部飲んでしまったよ。もう一本も残ってない」
ばつが悪そうに言うと、ふみえは笑った。
「三本だけ、隠してあるのよ」
流し台の下を開け、醤油の瓶や味噌のタッパーの奥から取り出したのは缶ビールだった。エビスビールだ。
「だって、いつもあなたが飲んじゃうんだもの。私だって一人で飲みたい時もあるのよ」
1本を私の目の前に差し出した。
「飲む?冷えてないけど」
今は飲む気がしなかった。
「いや、やめておくよ」
ふみえが、まあ意外、という顔をした。
「なら、私もやめておくわ」
ふみえは空っぽ同然の冷蔵庫に、缶ビール3本をしまい込んだ。
チャーハンはうまかった。久しぶりの手料理は暖かく、香ばしく、心地よく満腹中枢を満たしてくれた。
【 数時間後 横須賀 】
パチンコ屋を出ると陽の光がやけにまぶしかった。
平日の横須賀中央駅前アーケードは人通りもまばらだ。
かなり長い時間、玉を弾き続けていたので肩が凝っていた。煙草も吸いすぎて、のどが痛い。龍はあくびをしながらズボンのポケットから小銭を出し、ジュースの自動販売機の前に立った。
「おっ!」
お茶や缶コーヒーが並んでいるなか、バルタン星人の顔が描かれたレモネードの缶ジュースが目を引いた。子どもの頃に夢中で見た「ウルトラマン」に登場した宇宙人だった。暗闇から突然現れ、分身したり、巨大化して「フオッ、フオッ、フオッ」と不気味に笑う宇宙忍者バルタンを初めて見た時には、布団をかぶって寝たほど怖かったが、その後は一番のお気に入りの怪獣だった。
「ウルトラマン」で最も好きな話はメガトン怪獣「スカイドン」の巻だった。ハヤタ隊員たちが科学特捜隊の基地でカレーライスを食べている最中に怪獣スカイドンが現れる。「いかん!」と叫んで飛び出したハヤタは屋上に駆け上がり、ウルトラマンに変身するためのベータ・カプセルを掲げる。ところが、手に持っていたのはカレーのスプーンだったのだ。
子供の頃、それをなんども真似したものだ。真似しているうちに、スプーンを空に向かって掲げると、なんだか勇気がわいてくる気がした。自分がウルトラマンのような超人に変われる気がした。
実際、幼稚園のおやつの時間、いじめっ子に牛乳が飲めない事をからかわれ喧嘩になり、始めは一方的に殴られたのだが、スプーンを掲げてから形勢逆転し、相手を逆に泣かせたことがあった。
こいつにするか。
百円玉を入れてボタンを押す。「バルタン星人よ、当たれ」と願ったが、ゴトンと音がして落ちてきたのは、ダダの顔が描かれた缶だった。人間をミクロ化して標本にしようとした宇宙人だ。こいつは嫌いだったな・・・などと思いながらプルトップを開け、一口飲んだところで携帯が鳴った。
「龍です」
電話に出る。
「相馬だ」
刑事課長の相馬だった。
「今日は非番だと聞いたが、なにしてる?」
「昼近くまでカプセルホテルで寝て、あとはパチンコです。最初はいい調子で入ったんですけど、その後はさっぱりで。結局、2万すりました」
相馬は楽しそうに笑って「人間欲ばるとろくなことがない、ってことだ。捜査も同じ事がいえるが」と言った。
「なにかありましたか?」
「久しぶりの非番だってのに悪いんだが、またひとつ仕事を引き受けてもらえんか」
「いいですよ。もう遊ぶ金も残ってませんし」
「助かるよ。その前に例の避難所の事件だが、鴨志田の取り調べの方は進んでるのか」
「逗子北署の方で炭谷を中心にやってますが、あまりうまくは言ってないようです。本人が錯乱状態でしてね。思うように聴取ができない状況らしいです」
「錯乱?原因は?」
「炭谷も詳しく話してくれません。医者にも診せてるようですが」
「周辺捜査の方は?」
「そっちを俺がやってます。昨日まで避難所に通って、再度、住民や関係者に話を聞き直してたんですが、こっちも思ったような成果がなくて。なにしろ、当の観堂が死んじまってるもんで、鴨志田の供述のウラが取りようがないんですよ」
「鴨志田の回復を待って、きっちり証拠を固めるしかないってことか」
「そういうことです。ところで、仕事ってのはなんです?」
「ああ、前に一度頼んだゴミ処理場の事故を覚えてるか?」
「ええ、若い営業マンが機械につぶされて死んだやつですね」
「遺体が収容されてる病院で、ちょっと妙な事件が起きてな。前の事故にも関わってもらったから、お前にも立ち会ってほしいんだ」
「妙な事件・・・?」
【 同日夜 町田 】
食事がすんでから、久しぶりにカプチーノを入れた。
とっておきのマイセンのカップにカプチーノを注ぎ、居間のソファに座り、秀明が帰って来るのを待った。
テレビもつけず、音楽もかけず、何もしゃべらず、ふみえと私は肩を寄せ合って、ただ秀明を待った。
1時間が過ぎ、2時間が過ぎ、3時間が過ぎた。
近くの小学校から、下校時刻を告げるチャイムの音が響いてくる。外は雨が降り始めた。
やがて、日が暮れた。
部屋が暗くなっても、電気をつける気にはならなかった。
屋根や窓ガラスを雨が激しく叩く音と時計の音だけが家の中に響いていた。
夜の8時を回っても・・・、
時計の針が9時をさしても・・・、
10時になっても・・、
11時をすぎても、何もない。
午前0時が近づいても、何も起こらなかった。
ふみえは私の胸に顔を埋めて、泣きはじめた。
私は彼女の肩を強く抱きしめて、言った。
「夢だったんだよ。みんな悪い夢だったんだ」
ふみえは声をあげて泣き続けた。
「全部、偶然だったのさ。秀明の事故も、お義父さんのスクープ写真もね」
窓の外に雷鳴が閃いた。
「古くからの言い伝えなんて、そんなものさ。占いだって、そうだろう。自分の身に起きた事を、後からあてはめて、勝手に占いが当たったと思いこんでしまうんだ。この黒い手にまつわる言い伝えもきっと、それと同じだったんだよ」
その時だった。
突然電話のベルが鳴った。
切断された遺体たちを樹海に埋めて帰ってから、妻の様子がおかしくなっていた。
ふさぎこんで、口をきかない。
寝室に閉じこもり、横になっていることが多くなった。
警察から秀明の遺体を引き取りに来るようにと連絡が来ていたが、とても葬儀を行える精神状態にない。
ふみえは『秀明の葬式はきちんと自分が立ち会ってやりたい』と言ってきかなかったから、警察には無理を言って、もう少しだけ遺体を預かってもらうことにした。
食事も全く作れなくなっていたので、必然的に食事を用意するのは私の役目になった。
料理など今までろくにしたことがない。ご飯は炊飯器でなんとか炊けたが、お湯を沸かしてラーメンやレトルトの中華丼などを作るしかなかった。そんな物でも作る度にベットで寝ているふみえの枕元に運んだ。だが、口をつけようともしなかった。
元々、妻は優しい気の弱い女だ。それが秀明が殺害して解体した遺体を目の当たりにし、証拠隠滅にまで積極的に手を貸したのだ。自分が25年間愛情を注いできた息子が犯罪者になってしまったという「事実」、そしてそれを止める事はおろか異常に気づきもしなかったという「現実」。その二つが彼女を内面から責め続け、精神の奥深い所を痛めつけているに違いなかった。
朝、眼を覚ますと、隣りに寝ていたはずのふみえの姿がなかった。
台所にも居間にもいない。また二階の義父の部屋にいるのかもしれないと階段を上がろうとした時、一階の奥にある和室から物音が聞こえた。箪笥やミシンなどが置いてある部屋だ。
ふすまが開けっ放しになっていたので、中を覗き込むと、ふみえがぺたりと畳に座りこんでいる。和箪笥の一番下の引き出しが開けっぱなしになっていた。家族のアルバムがしまってある引き出しだ。畳にはアルバムが広げられ、その一冊を食い入るように見つめているのだった。
私に気づいたふみえが、顔を上げた。
「見て、これ、秀明が3歳の時の写真よ。覚えてる。真夏にビニールプールで遊ばせている時、あの子ったら、水を汲むために持ってきていたバケツの方に入っちゃったのよね」
古い写真の中で裸の秀明がバケツの水に腰までつかって笑っていた。
「ああ、覚えてるよ」
「これは小学校の運動会。徒競走で途中まで一番だったのに、転んでビリになっちゃったのよね。あの子、いつまでも泣きやまなくて、私まで泣けてきちゃった」
8歳の秀明が、そこにはいた。赤い鉢巻きを締め、泣きじゃくっている。運動着が泥だらけだった。
「どうして・・・いなくなっちゃったのかしら」
ふみえが泣きだした。そして睨むような目で私を見上げて言った。
「返してよ!あの子を!」
「無理な事を言うんじゃないよ。あの子はもう私達の手の届かない遠い所に旅立ったんだ」
「だって、あなたのせいじゃないの!」
ふみえの一言が、私の心臓を貫いた。
「あなたがあの黒い手に、あんな事さへ願わなければ、秀明は死なずにすんだのよ!」
泣きながら、私にむしゃぶりつき、ありったけの力で胸を叩き続ける。
「返してよ!あたしの秀明を返してよ!」
私はされるがままにしていた。それで気が済むのなら、胸がつぶれてしまっても構わなかった。
不意にふみえの手の動きが止まった。
「そうだわ」
顔をあげ、ふみえは唇の両端を吊り上げながら笑った。般若の面がもし笑ったなら、きっとこんな感じだろう。
「あの手があるじゃない」
「手?」
思わず、聞き返した。
「そうよ、あの手にもう一度願えばいいのよ。3回願いがかなうんでしょう。あなたには、あと2回、チャンスが残っているじゃない」
「願うって・・・、何を願えって言うんだ」
ふみえは、今度は唇の右端だけをつり上げて笑った。次にふみえが口にした一言を、私は生涯忘れない。あの時の、しわがれた老女のような声も。
ふみえは、こう言ったのだ。
「秀明を、もう一度、生き返らせてください、って」
恐ろしい思いつきだった。
ふみえがアルバムをもったまま立ち上がった。一歩ずつ、一歩ずつ、近づいてくる。額に垂れ下がった前髪の間から覗く瞳が異様な光を放っていた。気圧されて私は思わず後ずさった。
「私は嫌だ。願いたければ、お前が願えばいい・・・」
「何言ってるのよ。あのなんとかいうお父さんの後輩が言ってたじゃないの。黒い手には三人しか願えないって」
「なんで、お前・・・、その話を知ってる?」
「聞いてたからに決まってるでしょ、隣の寝室でね。あの人が訪ねて来た時のチャイムの音で目が覚めちゃったの。別に聞き耳をたててた訳じゃないのよ。あの人、声が大きいんだもの。隣の部屋にいても話が聞こえちゃったの。あの人、言ってたわよね。1人目のP国の長老は、もう三つ願ってしまった。2人目の父は、まだひとつ願えたけれど死んでしまった。もう、あなたしかいないのよ。あなたは、あと2つ、残ってるじゃない!」
「秀明は・・あんな恐ろしい犯罪を犯したんだぞ。それを蘇らせるなんて」
ふみえはさげすんだような目を私に向けた。
「あなたはあの子が可愛くないって言うの!秀明が犯罪者ならもう愛せないとでも言うの」
手にしたアルバムを突きつけながら迫ってくる。どの写真にも無邪気に笑う幼い秀明がいた。可愛くて仕方なかった頃の秀明の笑い声が木霊のように耳の奥で響いた。
「あの手はどこにあるの?」
見つけた時と同じだ。義父の暗室の押し入れに押し込んであった。
「とってらっしゃい!今すぐに!」
まっすぐに目を見ながら、ふみえが命じた。
抗えなかった。
私は魅入られたように、ふらふらと部屋を出た。義父の部屋から「黒い手」を持ってくるために。
私は「黒い手」を抱えて佇んでいた。
最初に手にした時も、こんなに重かっただろうか。
何倍も重くなったような気がする。
三本指のねじれた手が喜びに身悶えしているように見える。
私は急に怖じ気づいてきた。
「駄目だ!やっぱり、できない!」
ふみえがまた怒り狂うのは覚悟のうえだ。なんとしてもやめさせなければならない。
ところが、ふみえは怒らなかった。黙ったまま、悲し気な顔で私の顔を見つめている。
その瞳がみるみる潤んで、ぽろりと涙がこぼれた。
「ごめんなさい。本当は私だってわかってるの。いけないことだって・・・」
声が涙で途切れ途切れになる。
「でも・・もう一度だけ、あの子に会いたいの。あの子に会って、聞いてみたいの。秀明、なんであんなことをしたの?お母さんのどこが悪かったの、って。ねえ、あなただって、聞きたくない?」
嗚咽をこらえながら、ふみえが続ける。
「それに、もしもよ、もしもう一度秀明が生き返れたなら、生まれ変わるってことでしょ。きっと生まれたばかりの無垢な赤ん坊と同じよ。もう一度、初めからきちんと教えましょうよ。何が正しくて、何をしてはいけないか、を」
ふみえはアルバムの1ページ目を、私に開いて見せた。25年前に秀明が生まれて、初めて撮った写真だった。色はくすんでしまってはいたが、写真の中の秀明は天使のような顔で眠っていた。
「秀明が生まれた時、あなた、毎日病院に通って来たわよね。新生児室のガラスの向こうから、いつも秀明の顔を見てた。生まれたばかりの赤ちゃんなんて一日中眠っているだけなのにね。それなのにあなたは、いつまでも飽きることなく、秀明を見つめていた。よく看護婦さんに言われたわ。ご主人、いつも来てますねって。新生児室には同じ頃に生まれた赤ちゃんがたくさん並んでいたけれど、秀明の前のガラスだけが曇っていたわ。お父さんがいつもかぶりつきで見ているからね、って看護婦さんたちの間でも噂だったのよ」
そうだった。初めて自分に子供ができて、私は有頂天だった。
生まれてから退院までの一週間、毎日病院に通った。その病院では、生まれたばかりの赤ん坊はガラス張りの新生児室で集中管理していた。母親は授乳や入浴の時に赤ん坊と接触できるが、父親の私はガラスの向こう側からただ眺めることしかできなかった。面会の時間も一日3時間に限られていた。それでも、私は新生児室に通い詰めた。面会時間が許す限り、ガラスにへばりつくようにして、秀明の寝顔を見つめ続けた。眠ったままで、ほとんど動かなくても満足だった。何時間見つめていても、飽きることはなかった。たまに目を覚まして、あくびをしたり手足を動かしたりすると、必死でガラスを叩いて、こっちを向かせようとした。よく、看護婦さんに注意されたものだ。
私は「黒い手」を握りながら、こう思い始めていた。
私だって、秀明に聞いてみたい。
なぜ、あんなこと、したんだ?
お父さん、どこか、悪かったか?
そして、謝りたかった。
お前がそんな事になるまで、気がつかなくて、本当にすまなかった。
途中で気がついていたら、何かしてやれたかもしれないのにな。
そんな心の揺らぎを見透かしたかのように、ふみえが言った。
「お願いよ。秀明にもう一度会わせて!私達の秀明に!たった一度だけでいいの!ほんの少しだけでいいの!」
ふみえは畳にひざまずいた。
「お願いします。お願いします。お願いします」
何度も何度も、頭を畳にこすりつけながら懇願するのだ。
もういたたまれない気持ちだった。
「わかった。もう、いいから」
潤んだ瞳で、ふみえが私を見あげた。「じゃあ」
「やってみるよ」
「ありがとう、ありがとう、ありがとう」
また、何度も何度も額を畳にこすりつけた。
私は「黒い手」を両手で捧げ持ち、頭の上へとかかげた。
目を閉じ、大きく息を吸い込む。横隔膜が下がり、肺が膨らむ。空気を一気に吐き出しながら叫んだ。
「秀明を、私達の息子を、蘇らせたまえ!」
声が途中で裏返っていた。
手の中で「黒い手」が動いた。最初の時と同じく、驚いて床に投げ出していた。床に落ちた後も、手はしばらくの間、動いていた。三本の指がカリカリと畳をこする耳障りな音が聞こえた。
動きが完全に止まったのを確かめてから、慌てて「黒い手」を拾い上げた。もう一度、紙で包み直す。1秒たりとも、不快な姿を見ていたくなかったからだ。
ところがだ。紙でくるみ終わったと思った途端、また「黒い手」が動きだしたのだ。まるで、自分で外に這い出ようとでもしているようだった。吐き気がのど元までこみ上げた。私は「ガサ、ガサ」と音がしている包みを和箪笥の上へと放り投げた。脇の下には、冷たい汗が滲んでいた。
秀明の蘇りを私が願った途端、ふみえは人が変わったように元気になった。
「なんだか、お腹がすいてきちゃった。何か作るわね」
そう言って台所の冷蔵庫を開けた。
「やだ、なんにも入ってない。ガラガラじゃないの」
ふみえが寝込んでから、インスタント食品しか買っていない。生鮮食料品はおろか、冷凍食品すら買い置きしていなかった。三人暮らしには巨大すぎる冷蔵庫はほとんど空っぽの状態だった。それでもシーチキンの缶詰が見つかった。炊飯ジャーの底にはごはんが残っていた。
「チャーハンぐらいなら作れるかしら」
フライパンを使って手際よくチャーハンを作り始めた。
台所に暖かい家庭の香りが漂ったのは、久しぶりだった。出来上がったばかりのチャーハンから香ばしい香りが立ち上る。たまらなく空腹が刺激された。
「ビールでも飲む?」
「全部飲んでしまったよ。もう一本も残ってない」
ばつが悪そうに言うと、ふみえは笑った。
「三本だけ、隠してあるのよ」
流し台の下を開け、醤油の瓶や味噌のタッパーの奥から取り出したのは缶ビールだった。エビスビールだ。
「だって、いつもあなたが飲んじゃうんだもの。私だって一人で飲みたい時もあるのよ」
1本を私の目の前に差し出した。
「飲む?冷えてないけど」
今は飲む気がしなかった。
「いや、やめておくよ」
ふみえが、まあ意外、という顔をした。
「なら、私もやめておくわ」
ふみえは空っぽ同然の冷蔵庫に、缶ビール3本をしまい込んだ。
チャーハンはうまかった。久しぶりの手料理は暖かく、香ばしく、心地よく満腹中枢を満たしてくれた。
【 数時間後 横須賀 】
パチンコ屋を出ると陽の光がやけにまぶしかった。
平日の横須賀中央駅前アーケードは人通りもまばらだ。
かなり長い時間、玉を弾き続けていたので肩が凝っていた。煙草も吸いすぎて、のどが痛い。龍はあくびをしながらズボンのポケットから小銭を出し、ジュースの自動販売機の前に立った。
「おっ!」
お茶や缶コーヒーが並んでいるなか、バルタン星人の顔が描かれたレモネードの缶ジュースが目を引いた。子どもの頃に夢中で見た「ウルトラマン」に登場した宇宙人だった。暗闇から突然現れ、分身したり、巨大化して「フオッ、フオッ、フオッ」と不気味に笑う宇宙忍者バルタンを初めて見た時には、布団をかぶって寝たほど怖かったが、その後は一番のお気に入りの怪獣だった。
「ウルトラマン」で最も好きな話はメガトン怪獣「スカイドン」の巻だった。ハヤタ隊員たちが科学特捜隊の基地でカレーライスを食べている最中に怪獣スカイドンが現れる。「いかん!」と叫んで飛び出したハヤタは屋上に駆け上がり、ウルトラマンに変身するためのベータ・カプセルを掲げる。ところが、手に持っていたのはカレーのスプーンだったのだ。
子供の頃、それをなんども真似したものだ。真似しているうちに、スプーンを空に向かって掲げると、なんだか勇気がわいてくる気がした。自分がウルトラマンのような超人に変われる気がした。
実際、幼稚園のおやつの時間、いじめっ子に牛乳が飲めない事をからかわれ喧嘩になり、始めは一方的に殴られたのだが、スプーンを掲げてから形勢逆転し、相手を逆に泣かせたことがあった。
こいつにするか。
百円玉を入れてボタンを押す。「バルタン星人よ、当たれ」と願ったが、ゴトンと音がして落ちてきたのは、ダダの顔が描かれた缶だった。人間をミクロ化して標本にしようとした宇宙人だ。こいつは嫌いだったな・・・などと思いながらプルトップを開け、一口飲んだところで携帯が鳴った。
「龍です」
電話に出る。
「相馬だ」
刑事課長の相馬だった。
「今日は非番だと聞いたが、なにしてる?」
「昼近くまでカプセルホテルで寝て、あとはパチンコです。最初はいい調子で入ったんですけど、その後はさっぱりで。結局、2万すりました」
相馬は楽しそうに笑って「人間欲ばるとろくなことがない、ってことだ。捜査も同じ事がいえるが」と言った。
「なにかありましたか?」
「久しぶりの非番だってのに悪いんだが、またひとつ仕事を引き受けてもらえんか」
「いいですよ。もう遊ぶ金も残ってませんし」
「助かるよ。その前に例の避難所の事件だが、鴨志田の取り調べの方は進んでるのか」
「逗子北署の方で炭谷を中心にやってますが、あまりうまくは言ってないようです。本人が錯乱状態でしてね。思うように聴取ができない状況らしいです」
「錯乱?原因は?」
「炭谷も詳しく話してくれません。医者にも診せてるようですが」
「周辺捜査の方は?」
「そっちを俺がやってます。昨日まで避難所に通って、再度、住民や関係者に話を聞き直してたんですが、こっちも思ったような成果がなくて。なにしろ、当の観堂が死んじまってるもんで、鴨志田の供述のウラが取りようがないんですよ」
「鴨志田の回復を待って、きっちり証拠を固めるしかないってことか」
「そういうことです。ところで、仕事ってのはなんです?」
「ああ、前に一度頼んだゴミ処理場の事故を覚えてるか?」
「ええ、若い営業マンが機械につぶされて死んだやつですね」
「遺体が収容されてる病院で、ちょっと妙な事件が起きてな。前の事故にも関わってもらったから、お前にも立ち会ってほしいんだ」
「妙な事件・・・?」
【 同日夜 町田 】
食事がすんでから、久しぶりにカプチーノを入れた。
とっておきのマイセンのカップにカプチーノを注ぎ、居間のソファに座り、秀明が帰って来るのを待った。
テレビもつけず、音楽もかけず、何もしゃべらず、ふみえと私は肩を寄せ合って、ただ秀明を待った。
1時間が過ぎ、2時間が過ぎ、3時間が過ぎた。
近くの小学校から、下校時刻を告げるチャイムの音が響いてくる。外は雨が降り始めた。
やがて、日が暮れた。
部屋が暗くなっても、電気をつける気にはならなかった。
屋根や窓ガラスを雨が激しく叩く音と時計の音だけが家の中に響いていた。
夜の8時を回っても・・・、
時計の針が9時をさしても・・・、
10時になっても・・、
11時をすぎても、何もない。
午前0時が近づいても、何も起こらなかった。
ふみえは私の胸に顔を埋めて、泣きはじめた。
私は彼女の肩を強く抱きしめて、言った。
「夢だったんだよ。みんな悪い夢だったんだ」
ふみえは声をあげて泣き続けた。
「全部、偶然だったのさ。秀明の事故も、お義父さんのスクープ写真もね」
窓の外に雷鳴が閃いた。
「古くからの言い伝えなんて、そんなものさ。占いだって、そうだろう。自分の身に起きた事を、後からあてはめて、勝手に占いが当たったと思いこんでしまうんだ。この黒い手にまつわる言い伝えもきっと、それと同じだったんだよ」
その時だった。
突然電話のベルが鳴った。
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