相方は、冷たい牙のあるラーニング・コレクター

七倉イルカ

文字の大きさ
上 下
25 / 25

討伐隊

しおりを挟む
 

 「駆除? ああ、退治な。
 もちろん、討伐隊を出したさ」
 団長が語り始めた内容は、こうであった。

 西の鉱山跡に怪物が棲みつき、近くを通る人々を襲っている。
 その話が出てから十日後に、最初の討伐隊が結成された。
 人数は、団長を含めた、町の男が十八人。
 十八人は、剣や槍、弩などの武器を手にして町を出発した。

 鉱山跡についたのは、午前中であった。
 「誰かいないかー-!
 助けに来たぞーー!」
 生存者がいる可能性を考え、大声で呼び掛けながら移動したが、返事は無かった。

 逆に、声にひかれて、怪物が現れるかとも思い警戒をしていたが、呼び掛けを止めると、鉱山は、不気味なほどに静まり返るだけであった。

 坑口は複数個所あるため、討伐隊は六人一組となり三隊に分かれて行動した。

 被害者の遺留品らしい衣類が発見されたのは、第三坑口から少し入った場所である。
 坑口から陽光が届かなくなった辺りに、引き裂かれた衣類が落ちていたのだ。

 衣類は三人分。
 どれも大量の乾いた血で固まっていた。
 
 第三坑道の内部を捜索する案も出たが、グリド団長が却下した。
 「行方不明になった人間が、この奥に連れ去られていたとしてもだ、とても生きているとは思えない。
 進めば、闇の中で、新たな犠牲者が出るだけだ。
 予定通り、煙材を使うぞ」

 煙材とは、毒のある数種の果実を煮詰め、その液を何層にも塗り込んだ薪らしい。
 燃やせば、有毒ガスが発生するのだ。

 鉱山で働いていた老人の指示で、第四、第七、第一、第五坑口の順に、火をつけた煙材が、放り込まれた。
 「これで、坑道内は煙が充満するわ。
 中に怪物がいて、煙に追われて出てくるとすれば、この第三坑口よな」

 討伐隊は、周囲に警戒しつつ、第三坑口の風上に身を潜めた。
 持ってきた三挺の弩が、坑口に狙いをつける。
 
 しかし、坑口からは毒ガスが漂い出てくるだけで、怪物が出てくる気配は無かった。
 煙が途絶えた後もしばらく待機したが、結局、何かが坑口から炙り出されてくるということは無い。

 「坑道の奥で死んだか、別の穴から逃げたのかもな」
 団長がそう結論付け、討伐隊は岐路についた。

 ロキアの町が怪物の群れに襲われたのは、その夜であった。


しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

alice
2021.09.26 alice

テンポよく話が展開して面白かったです!
文章も読みやすく、一気読みしました。
続きが気になります!
お体に気を付けて、これからも執筆頑張ってください(^-^)
応援しています!

七倉イルカ
2022.03.05 七倉イルカ

感想に気付かず、返信が遅れてしまいました。申し訳ありません。
温かいお言葉ありがとうございます。

解除
スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

七倉イルカ
2021.09.18 七倉イルカ

ありがとうございます。励みになります♪

解除

あなたにおすすめの小説

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。