相方は、冷たい牙のあるラーニング・コレクター

七倉イルカ

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神父と司祭

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 「私は、御子神ミホと言います。
 食事や宿を提供していただき、この町のご厚意に感謝しています」
 あたしは、当たり障りのない挨拶をした。

 「当然のことです」と町長が答え、椅子に座るように促された。
 あたしとイゼさん、町長と団長、セパレス司祭が、それぞれ椅子に腰を下ろした。
 ずっと座っているのは、ハロン神父だけである。
 座っているというか、突っ伏して眠っている。

 「もう一人、ソーマと言われる少年がいたと、聞いていたのですが」
 町長が問い掛けてきた。
 「その前に、ひとつ聞いてもいいですか?」
 あたしは町長の質問をかわし、気になっていた疑問をぶつけてみた。

 「神父さんと宣教師の方が、同席しているんですね」
 当然のことだが、神父がいるということは、この町に教会があり、司祭が派遣されているということだ。
 この派遣された司祭が、酒臭いハロン神父ということなのだろう。

 セパレス司祭は、神父とは紹介されず、自身は宣教師だと発言した。
 要するに、すでに教会がある、このロキアという町に、布教目的でやってきた、他教派の人物なのだ。いわば商売敵である。
 まあ、そういうこともあるのだろう。
 だけど、町の代表者として、この席に、ハロン神父とセパレス司祭が並んでいることは、違和感があった。どちらか一人でいいのではないだろうか。

 「同席」という言葉で、あたしの疑問を察したのであろう、「なるほど。分かりました」と答えたセパレス司祭が、穏やかな笑みで説明を始めてくれた。
 ふっと吸い込まれそうになる笑顔である。

 「その質問をされると言うことは、およそ理解されていると思うのですが、私とハロン神父は、教派が違います。
 私は、新煌教会の宣教師です。
 ハロン神父は……」
 司祭は、酔っぱらいに慈悲深い視線を向けた。

 「この国、いや世界の主流宗教ともいえる、神聖真教の司祭です。
 本来なら、この重大な場において、宗教代表者はハロン神父お一人でよく、私に参加する資格はありません」
 セパレス司祭がそう言ったとき、派手な音を立ててハロン神父が椅子からずり落ちた。

 「神父!」
 驚いた町長さんが腰を浮かす。
 しかし、当の神父は、床に転がったままイビキをかいている。

 反対側のホールから、集まっていた人々のざわつく声が聞こえてきた。
 「みっともない」
 「酔っぱらいが……」
 「どうして、あんな……」
 「恥だ……」
 途切れ途切れに耳に届くのは、ハロン神父を非難する言葉ばかりであった。

 「神父。大丈夫ですか?
 ハロン神父」
 セパレス司祭が、町長さん、団長と共に、困った顔でハロン神父を引き起こす。
 三人掛かりで、戻した椅子に、どうにかこうにか座らせた。
 ハロン神父は、酒漬けのコンニャクのようになって、再びテーブルに突っ伏した。

 町長がため息をつくと、あたしとイゼさんに対して「お騒がせしました」と謝罪した。
 「時系列を追って、お話ししましょう」
 町長が話し始めた。

 「我々が、あなたたち転生者来訪の報せを受けたのは昨夜です。
 すぐにでも、ご挨拶に伺いたかったのですが、お疲れのことと思い、翌朝、あなたたちが起床した後ということにいたしました」
 この、ご挨拶というのは、今の面談のことであろう。

 「このような重大案件は、町長、自警団の代表、神父が同席するということが慣例となっています。
 あと、話し合い自体には参加しませんが、密室政治にならぬよう、無作為で選出された傍聴人も集められます」
 ホールの人々は、野次馬では無く、やはり傍聴人だったのだ。
 「私とグリドに関しては問題がありませんでしたが……」

 グリドとは団長のことである。
 町長と自警団のグリドは問題ないが、神父は大アリだったと言うことなのだろう。
 実際、ハロン神父は問題人物としか思えない。
 
 「……ハロン神父は、以前より酒が過ぎ、このような有様です。
 よって私は、宗教関係の代表として、ハロン神父ではなく、新煌教会のセパレス司祭の参加を提案したのです」
 町長さんの言葉に、団長が渋い顔で頷いた。
 「慣例を曲げることになるが、わしも町長の意見に賛成した」

 「グリドだけではありません。
 急ぎ、町の有力者たちと緊急会合を開きましたが、転生者との会談には、ハロン神父を欠席させ、セパレス司祭を参加させるべきだという意見が大半でした」
 町長は、そこで一息つくと、困ったような表情を浮かべて続けた。

 「ところが、そうもいかないことが判明したのです」

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