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誰かの知識
しおりを挟む神父、司祭、宣教師は、キリスト教の教派のひとつ、カトリック教会や正教会で使われる言葉である。
……と、あたしの記憶の中で、誰かの知識がよみがえった。
キリスト教は、数多くの教派があるが、大きくは、カトリック教会、プロテスタント教会、正教会の三つに分けられる。
ちなみに、教会と言う言葉は、礼拝をする建物の教会とは別に、宗教的組織という意味もある。
カトリック教会のトップ、最高聖職者は教皇である。
この転生した世界がどうなのかは知らないが、あたしが元々いた世界では、バチカン市国の元首、ローマ法王が教皇である。
在日大使館が『ローマ法王庁』で申請されたため、ローマ法王と呼ぶことが多いが、厳密にはローマ教皇が正しい。
教皇の下には、教皇を補佐する最高顧問団があり、彼らは枢機卿、もしくは大司教と呼ばれる。
大司教の下は、司教となる。
司教は複数の司祭をまとめる聖職者である。
司祭とは、教会でミサや洗礼などの儀式を行っている、黒いキャソック姿の聖職者である。
あたしたちのイメージする、もっとも身近な聖職者が司祭なのだ。
では、神父とは何か?
教皇や司教、司祭などの序列に基づく正式な呼称ではなく、司祭に対し、敬意と親しみを込めて呼ぶ言葉が神父である。
つまり、酔っぱらい老神父は、正式には酔っぱらい老司祭と言うことである。
さらに、司祭の中でも、外国や地方などに派遣され、そこで福音と言われる、キリストの教えを伝え広める役目を与えられた者は、宣教師と呼ばれる。
あ、それなら知っている。
ザビエルである。フランシスコ・ザビエル。
あの人は、宣教師だったはずである。
あたしの記憶が反応すると、誰かの知識が即座に補足した。
日本にキリスト教を広めにやってきた宣教師フランシスコ・ザビエルは、カトリック教の男子修道会・イエスズ会の司祭です。
イエスズ会は聞いたことがある気がするけど、男子修道会って?
修道会とは、キリスト教の中で、禁欲的な共同生活を行う公的組織です。
つまんなさそうな共同生活だね。
修道会に属する男性は修道士、女性は修道女と呼ばれます。
女性と言うと、もしかしたら……。
その通り。今、思い浮かべたように、ウィンプルと呼ばれる頭巾で頭を隠した、シスターと呼ばれる女性聖職者が修道女ですね。
疑問と同時に、知識が補足するため、頭の中で変な会話が構築され、気持ち悪くなってきた。
プロテスタント教会では、神の前に人々はみな同じという考え方から、司教、司祭などという役職名は無く、教会の管理や教徒の指導を行う聖職者は、みんな牧師と呼ばれる。
伝道師、礼拝などの知識も浮かび上がってきたが、キリがない。
それよりも、気になることがあった。
酔い潰れているお爺ちゃんは、ハロン神父と紹介された。
黒いキャソックの美形は、セパレス司祭と紹介された。
神父に司祭である。
しかし、この転生界に、イエス・キリストが誕生し、キリスト教カトリック教会が発生したとまでは思えない。
イゼさんは、転生界の言語には、これまで訪れた、多くの転生者の影響があるはずだと推測した。
おそらく、それと同様なのだと思う。
転生界に元々あった宗教施設や聖職者に対して、過去の転生者たちが「教会」や「神父」、「司祭」の呼称を当てはめていき、それが定着したのであろう。
だから、キリスト教は存在しないのに、神父や司祭がいるのだ。
教皇や枢機卿、司教と呼ばれる聖職者も存在し、本来のキリスト教の影響も受け、教会と呼ばれる宗教施設には、十字架が掲げられているかも知れない。
さっきセパレス司祭は、あたしたちに祝福の十字を切ったのだ。
そうなると、教皇、司教、司祭、宣教師など、おそらく役職名に対する役割は、キリスト教のそれと大差ないはずであろう。
そう推測したうえで、ひとつ疑問があった……。
「ミホさん」と、イゼさんに促された。
自分の考えに没頭している間に、あたしの自己紹介の番が回ってきたのだ。
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