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怪鳥の咆哮
しおりを挟むあたしは、掠れたような悲鳴をあげると、慌てて逃げ出した。
下ってきた丘の斜面を必死に駆けあがっていく。
四つん這いに近い姿だ。
手頃な草があれば、それをつかんで体を引き上げる。
途中、一度だけ振り返った。
鳥の化け物たちは、走るのが苦手なのか、それとも斜面を登ることが苦手なのか、意外ともたもたとしながら、あたしを見上げていた。
これなら、なんとか逃げ切れる。
丘を越えて、森の中へ逃げ込めば、隠れられる場所があるかも知れない。
あたしは両脚をグイグイと動かし、丘を登り切った。
そのとき、後ろから凄まじい咆哮が響いてきた。
背中を突き飛ばされたようなショックを受け、あたしは激しい脱力感に襲われた。
まるで背骨を抜き取られた気分であった。
声量が凄まじかったこともある。
しかし、その咆哮には、聞いたものにダメージを与える、得体の知れない効力があるとしか思えなかった。
あたしは腰が抜けたように、膝をガクガクと揺らすと、前につんのめった。
草地に手を突くが力が入らない。そのまま、ゴロゴロと斜面を転げ落ちていく。
途中でスカートがめくれていることに気付いたが、どうにもならない。
草まみれになって丘の下まで転がり落ち、あたしは、ようやく止まった。
「最悪。絶対に体中にアザができてるって……」
あたしは愚痴を言うことで、萎えそうになる気力を支え、何とか立ち上がった。
あちこちぶつけた痛みのせいか、腰の抜けたような状態からは少し回復したが、今度は目が回って、まっすぐに歩けない。
それでも何とか森に向かって足を進めながら、背後の丘を見上げた。
三匹がひょこひょこと姿を見せたところであった。
斜面を下る速度はどうなんだろうかと考えたとき、三匹は丘の頂で大きな翼を広げた。
翼で風を受けたかと思うと、凧のようにふわりと後退しながら上昇し、一気に高度を上げた。
猛禽類のように、上空から急降下し、あたしに襲い掛かってくるとしか考えられない。
「もう、やだ」
絶望感に包まれたあたしは、そこで気力が萎えた。
座り込んで泣き出しそうになる。
「ミホちゃん!」
そのときあたしを呼ぶ声がした。
姿を見つける前に、声の主が誰だか分かった。
ソーマである。
「ソーマ! どこ!?」
「こっちだ! ほら、早く早く!」
声のした方を見ると、森に数メートル入った、薄暗い場所にソーマがいた。
フードを深くかぶり、こっちに向かって手を振っている。
小さくきゃしゃな体が頼もしく見えた。
「助けてッ!」
あたしはソーマに向かって走った。
今、分かった。
この世界に通じるドアへと向かう前に、ソーマはあたしに向かって小さく頷いてくれた。
あれは、おれも、その世界に行くからという意味だったのだ。
だから、心配しなくていいよという意味だったのだ。
「早く早く。後ろに来てるぞ!」
「分かってる!」
「ほらほら、追いつかれる」
ソーマは手を振り、声を掛けるだけで、森の中から動こうとはしなかった。
「早く走れって!」
「ち、ちょっと……」
息が切れる。
「遅いって! 食べられてもいいのか!」
「あんた、一体、なにしに来たのよ!
森から、出て来て、手を貸してくれるとか、そういうのはない訳!?」
あたしは泣きながら怒鳴った。
さっき感激したのは、一体何だったのか。
怒鳴ると一気に息があがった。
森に逃げ込む前に、化け物鳥に襲い掛かられる予感をひしひしと感じた。
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