帰還者たちは、この世界で再び戦う

七倉イルカ

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順番・Ⅱ

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 「こいつら、反省や後悔をしている訳じゃないですよ。
 ただただ、今を助かりたいだけで、頭を下げているんです。
 そんなことが分からない師匠じゃないでしょ」

 「う、うるさいッ! 黙れ!
 そんなことは無い!
 本当に、悪かったと……」
 頭を上げ、ナッツに向かって声をあげた高瀬が、言葉を途切れさせた。

 ナッツは、叫ぶ高瀬を見返しながら、閻魔大王を指さしていたのだ。
 「おい、お前。
 よく考えて、言葉を選べよ。
 その場しのぎのデタラメを口にすると……」

 ナッツの言葉の意味を理解した高瀬は、慌てて自ら口を押えた。
 
 「まあ、遅いか早いかの違いなんだけどな」
 そう言ったナッツは、正座をし、両手を床についている五人に告げた。
 「これから、羽森サキに対して、悪意ある暴力をふるったのかどうかを質問させてもらう。
 一人ずつだ。
 誰から答えるか、お前らが決めろ」

 ナッツの言葉が理解できなかったのか、数瞬、五人は黙り込んだ。
 そして、顔を見合わせる。
 最初に、中島が動いた。

 「た、高瀬ッ!
 お前から、答えろよ!」
 叫びながら、高瀬の胸倉をつかんだ。

 「そうよ、あんたが悪いんでしょ!」
 「こんなところに連れてきたのも、あんたじゃない!」
 サユリと久美も、甲高い声で高瀬を責める。

 「し、知るか!
 どうして、俺からなんだよ!
 安藤! お前が最初に答えろ!」
 中島を押しのけ、高瀬がそう言った時、安藤が奇声をあげて襲い掛かった。

 「お前が死ね! お前が死ね! お前が死ね!」
 小さな目を吊り上げ、高瀬の顔に爪を立て、目に指を入れようとする。

 「らああ!」
 高瀬が喚きながら、安藤の顔に拳を叩き込んだ。
 引っくり返った安藤が、サユリと久美にぶつかる。

 「気持ち悪いッ!」
 「何すんのよ!」
 
 罵声を浴びせられた安藤は、今度は、その二人に襲い掛かった。
 「このがあああああ!
 いるああ!」
 意味の無い声をあげ、サユリの髪をつかんで引き倒す。
 その後ろでは、高瀬と中島が殴り合い、久美は這いながら逃げ出そうとする。
 「あんた、逃げんなッ!」
 逃げ出そうとする久美の足首にサユリが爪を立てた。

 「追い込み過ぎて、凄いことになっちまいましたね」
 ナッツは背後のサキに声を掛け、「はははは」と引き気味の笑い声をあげた。
 「ふふふ」
 つられたように、サキが少しだけ笑う。

 そのとき、どこか場違いな電子音が鳴った。
 それは、井沢から預かっていた、スマホの着信音であった。

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