帰還者たちは、この世界で再び戦う

嘘をついた場合

　
　閻魔大王の左腕が、残った二体の人間モドキに向かって伸ばされた。
　が、距離があり過ぎて届かない。

　ナッツは最初、付喪神が憑いたプレス機と同じように、閻魔大王の腕が伸びるのではないかと思った。
　しかし、そうではなかった。
　閻魔大王が左手の平を向けると、安藤モドキと久美モドキの二体が、ぐらりと大きく身を傾けたのである。

　閻魔大王に向かって上半身が傾く。
　人間モドキは、倒れまいとし、上半身が傾いた方向に足を踏み出す。
　そこから、さらに上半身が傾き、それに合わせてトトッと、人間モドキの足が動く。

　得体の知れない力で引き寄せられた二体の人間モドキは、トットットットッとつんのめる様に動き、そのまま閻魔大王の左手の中に収まった。
　閻魔大王は、片手で二体をがっしりとつかんだ。
　安藤モドキと久美モドキは、「やーやー」「うーぶー」と、不満そうな顔を作ってみせる。

　閻魔大王は、右手に持っていた笏を横ぐわえにした。
　そして、自由になった右手を安藤モドキに近づける。
　右手からは、揃えられた人差し指と中指が突き出されていた。
　指の先端には、猛禽類を連想させる太く鋭い爪がある。

　まずはその爪が、安藤モドキの口をこじ開けた。
　そのまま、ぐりぐりと二本の指が口の中に入っていく。
　安藤モドキの声が、「ごががが」と、くぐもった呻きに変わった。

　指の太さが普通ではない。
　麺生地やパン生地を伸ばす、麺棒ほどもあるのだ。
　その指を二本そろえた状態で、安藤モドキの口に押し込む。
　唇の両端が、あっさりと裂けた。
　安藤モドキは、抵抗する素振りを見せず、小さな目をパチパチとさせている。
　痛覚が無いから痛みは無い。
　感情が無いから恐怖も無い。

　しかし、見ている方は総毛立ち、胃液が込みあがってくる光景であった。